<入院3日でホワイトハウスに戻り、元気な姿をアピールするトランプだが、新型コロナが重症化するのはこれからだ> ドナルド・トランプ大統領の新型コロナウイルス感染について、本格的な回復に向かうかどうかは、今後数日の容態が決め手になる、と専門家らは見ている。 トランプは10月2日にツイッターで、自分と妻のメラニアが新型コロナウイルスの検査で陽性になったことを発表。このウイルスに感染した数少ない世界的リーダーの仲間入りをした。最初に感染が確認されたのは、イギリスのボリス・ジョンソン首相だ。 主治医のショーン・コンリー医師によると、2日の夕方にウォルター・リード米軍医療センターに入院する前、トランプには軽い発熱、悪寒、鼻詰まりと咳の症状があった。コンリーは4日、血中酸素濃度が2度下がったことがあった、と説明した。 トランプはそれでも5日には退院してホワイトハウスに戻ったが、「これから数日がとても重要だ。患者の健康状態は症状が始まってから7〜10日後あたりに突然変化することがすでにわかっている。その間に治療を続けていても、急変の可能性はある」と、イギリスのマンチェスター大学教授(免疫学)で、『美しき免疫の力』(NHK出版刊)という著作があるダニエル・ディービスは語る。本誌が話を聞いた他の専門家も、同様の警告を発している。 年齢的に高い死亡リスク 症状は患者ごとに異なるため、病気がいつ、どのように進行するか予想するのは難しい、と専門家らは言う。例えば、トランプは年齢、肥満、高血圧による合併症のリスクが高い。 イギリスのイースト・アングリア大学ノリッジ医科大学のポール・ハンター教授は本誌に、正確にリスクを推定することは難しいと断ったうえで、年齢を考えると、トランプは50代の人よりも死亡する可能性が約6倍高く、同じ年配の女性と比べても死亡の可能性は約60%高い、という。 同時に、ウイルスに感染した他の3520万人の大半とは違う点もある。トランプは、世界最高の医療を受けられる。 トランプは「生き延びる可能性が高い」と、ハンターは言う。それでも、「少なくとも数週間は完全に大丈夫とはいえない。特に70代なのだから」 ジョンソンの場合は、ウイルスの陽性反応が出た10日後に集中治療室に移された。回復した後、ジョンソンはサン紙に、「何リットルもの酸素」を与えられ、新型コロナウイルス感染症で最も重症な患者向けの人工呼吸器をつけられていたことを明かした。医師団は、ジョンソンの死を発表しなければならない場合に備えた準備さえしていたという。 ===== だが英バース大学の微生物病原体の専門家アンドリュー・プレストンによると、ジョンソンの回復後、いくつかの有望な治療法が見つかっている。そのなかには、抗ウイルス剤のレムデシビル、抗炎症ステロイドのデキサメタゾン、および感染と戦うために体が作り出すタンパク質を模倣するリジェネロン社の未承認の抗体カクテル療法REGN-COV2などがある。 ハンターもプレストンも、トランプの主治医が取ったアプローチについて「すべてをやりつくしている」と評価した。コンリーによると 上記の薬のほか、トランプには酸素吸入も行われ、亜鉛、ビタミン D、ファモチジン、メラトニンとアスピリンも投与されている。 こうした組み合わせで治療を受けた患者はトランプが初めてとみられ、トランプの容体はホワイトハウスの発表以上に深刻なのではないか、トランプはいわゆる「VIP待遇」で、普通の人には手の届かない治療を受けられたのではないかなど、疑問も多くあがっている。 通常、レムデシビル、REGN-COV2、デキサメタゾンを投与するのは、原則「患者が重症になったときだけ」。とくに抗炎症剤のデキサメタゾンは、重症患者でなければかえって病状を悪化させかねないとハンターは言う。これらの薬剤を一緒に使うことも普通はない。 「複数の異なる薬を投与する場合、異なる薬物間の相互作用が有益なものか有害なものかは、やってみないとわからない」と、ハンターは言う。 前人未踏の領域 プレストンも同じ意見だ。「そのような組み合わせにどういう影響があるか、データはないと思う。だから時がたってみなければわからない」 「純粋にウイルス学的な観点から言えば、これらの薬を組み合わせて早期に投与することで、新型コロナ感染による急性合併症の可能性が減ると思う」と話すのは、臨床ウイルス学者のジュリアン・W・タン英レスター大学名誉准教授だ。トランプの病気は軽度ですむと見ているが、それでも長期的な合併症が起きる可能性は排除できないという。