<炎症はあらゆる病気の原因であり結果です――。意外と知らない自分の身体、病気のこと。どんな仕組みになっているかを、病理医がやさしく解説する> 炎症って何? みなさんは、「炎症」という言葉を聞いてどんなイメージを持たれるでしょうか。何かよからぬことが身体の中で起きている、病気になった感じがするのではないでしょうか。 とはいえ、「炎症がありますね」とドクターに言われたときにいったいどんなことが起きているのか、なかなかイメージがつかないと思います。 炎症には、大きく分けて全身的なものと局所的なものがあるのですが、いずれも起きていることは同じです。 「炎症」とは、病原体の感染や別の理由で何らかのダメージを受けた組織に、血管やリンパ管を介して身体を守るための免疫担当細胞や物質が運ばれる反応を言います。熱が出る、腫れるなどが主な症状です。 この「炎症」に限らず、自分の身体、病気のことって意外とわかっていないものです。でも、誰よりも長くつきあう相手だからこそ、どんなふうに働いているか、どんなことに困っているかを知っておいたほうがいい。 順天堂大学病院で病理医として働くわたしは、このたび『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』(CCCメディアハウス)という本を書きました。 「具合が悪い」と「病気になる」は同じなのか? 検査結果はどこまで信用できるのか? そんな問いを立てながら、正常な身体の仕組みから、何が原因でどんな病気になるのか、病気になったあとは、何がどんなふうになるのかについて、120点以上のイラストとともに解説した本です。 ここでは「炎症」に絞って、みなさんに知っておいてもらいたいことを解説します。 熱が出たり、腫れたりするのはなぜ? 熱が出るのはなぜでしょうか。 それは、身体を守るための物質が、ダメージを受けた組織や様々な細胞から産生されることによります。総称して、サイトカインと呼ばれています。 熱が出ると、免疫機能がアップします。免疫担当細胞が活発に働き、組織のダメージの原因となっているものをなるべく除去しようとがんばるのです。原因が取り除かれれば、免疫担当細胞たちもほっと一息して、熱もおさまっていきます。 では、腫れるのはなぜでしょうか。 風邪をひいても喉が腫れますし、捻挫をすると関節が腫れます。腫れるのは、血管の外にたくさんの水が出て、むくんでいる、ということです。 ダメージを受けた組織の部分では、血管の壁がゆるゆるになり、そこから、免疫担当細胞や血液中に溶けた物質が血管の外に漏れ出やすくなります。ダメージを受けた組織にそれらが届きやすいようにするためです。 血管の外に漏れ出た免疫担当細胞や物質は、やはり組織のダメージの原因となっているものを除去するためにがんばります。原因が取り除かれれば、それらの反応はおさまり、腫れも引くわけです。 ===== Toa55-iStock. 炎症は大事な身体のサイン 熱が出る。腫れる。このふたつが炎症のいちばん特徴的な症状で、炎症があるということは、身体がなんらかの異常事態から必死に立ち直ろうとしている状態であるということです。 こういった症状がなければ、わたしたちは自分の身体でどんな異常事態が起こっているのか知る由もありません。 わからなければ、普段通りの生活をして時に無理をしたりして、余計に状態が悪くなるかもしれませんし、病原体に感染している場合は、知らず知らずのうちに誰かにうつす可能性も出てくるわけです。 炎症というのは、自分と、そしてまわりの人々を異常事態から守る反応であるとも言えます。 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックがまだまだ続いています。このウイルスの最も厄介なことは、不顕性感染、つまり無症状の方がいるということです。 無症状であるということは、炎症が起きていない、身体が異常事態だと気づいていない、ということです。無自覚に感染を拡大させてしまうことを意味しますから、厄介なのですね。 ですから、無症状であっても、マスクをするなどして、知らず知らずのうちに周りの人にうつさないようにすることが大切になってきます。 強すぎる炎症の怖さ 炎症は身体を守るサインという話をしましたが、強すぎる炎症、誤った炎症は、身体に害を与えます。 新型コロナウイルス感染症は時に重篤な肺炎を起こします。「肺炎」とは、肺での炎症を意味します。肺で炎症が強く続くと、呼吸ができなくなりますし、強すぎる免疫反応は、病原体だけではなく、守るべき組織自体も大きく傷つけることになってしまいます。 重症のウイルス性肺炎の場合は、ウイルスそのものの炎症というより、制御のきかなくなった強すぎる免疫反応が原因と言われています。 また、膠原(こうげん)病という病気があります。これは自己免疫疾患とも呼ばれ、自分の細胞や組織に対して、免疫担当細胞が攻撃を加える誤った炎症反応によるものです。 ここで生じる炎症反応は、相手が自分自身ですから、いつまでも慢性的に炎症が続くことになり、そのことが身体に大きなダメージを与えてしまいます。 ===== yaoinlove-iStock. どうやったら炎症をおさえられるのか 通常の感染症や怪我などによる炎症は、病原体が排除されたり、傷めてしまった組織の修復がおさまれば、自然におさまるものです。 ですので、過度の炎症があってつらいときは別として、やみくもに炎症をおさえることはよくありません。安静にして、自然治癒を待つ、というのが鉄則です。 一方、難しいのが、さきほどお話したような制御のきかなくなった急性の重症化した炎症や慢性に経過する膠原病のような特殊な炎症です。 新型コロナウイルス感染症の重症肺炎については、呼吸状態をサポートする治療をしながら、炎症をなんとかおさえる治療法が模索されているところです。 膠原病に関しては、ステロイド剤をはじめとした炎症をおさえる対症療法が中心ですが、こちらも少しずつ新薬が開発されています。 炎症は万病へ、万病が炎症に 炎症は、身体の緊急事態に対する反応と言えますから、あらゆることが原因で生じます。 動脈硬化も血管壁に脂質がへばりつき、そこで「炎症」が起こることによって生じますし、逆に、動脈硬化によって、血流の流れが悪くなると、いざ緊急事態が生じたときに、ダメージを受けた組織に大事な免疫担当細胞や物質が供給されづらくなります。 炎症は、あらゆる病気の原因であり結果です。適度な運動、栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠。規則正しい生活を送ることが何より重要です。 これから秋冬に向かって、新型コロナウイルス以外にも様々なウイルス感染症が流行する時期を迎えます。まわりに病原体を広げないように、マスクの着用と、何より自分の健康管理を十分にしてください。 そのためにも、自分の身体、病気のことをもっと知っておいてもらいたいと思います。 『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑 ――人体サプライチェーンの仕組み 小倉加奈子 著 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)