<11月3日に迫る大統領選では社会的正義や人種問題をめぐる価値観、イデオロギーに基づく対立が最大の争点に。選挙の決着は同時にBLM運動への国民の評決でもある> 1992年の米大統領選を前に、ビル・クリントン陣営の選挙参謀ジェームズ・カービルは「当然、経済だ!」というスローガンを生み出した。アメリカが景気後退から回復するなか、経済がクリントン勝利のカギの1つだと見抜いていたのだ。 では2020年の大統領選のカギとなる争点は何だろう。新型コロナに対する世界のお粗末な対応のせいで大混乱に陥った経済を立て直す最良の計画を持っているかどうかなのか。それともコロナ危機とその余波への対応を安心して任せられるかなのか。 答えはどちらもノーだ。実際には、9月に(リベラル派の)ルース・ベイダー・ギンズバーグ連邦最高裁判所判事が死去したことで、その後任人事をめぐる上院での攻防の結果、今回の大統領選はアメリカで進行中の文化戦争(文化的争点をめぐる価値観やイデオロギーの違いに基づく対立)に左右されることになるに違いない。全米の都市で暴動が続き、暴力と無秩序が増加しているなか、今こそBLM(ブラック・ライブズ・マター= 黒人の命は大事)運動に評決を下す時だ。これについてはドナルド・トランプ大統領はとにかくラッキーだと思う。 民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の一番の強みは「トランプではない候補」であること。世論調査の結果もこれを裏付けがちだ。 こうした議論からバイデンは一定のメリットを引き出せるかもしれないが、現在アメリカ中に吹き荒れている街頭デモと反警察感情に関する主張ははるかに心もとない。バイデンの問題は、彼がアンティファ(反ファシスト勢力)や「警察予算削減」を求めるBLM運動を、法に従う市民にも訴えられるような明確な言葉で非難できないことである。その理由は単純で、彼以外の民主党はこうした集団と緊密に連携しているからだ。民主党の政治的な公正さへのこだわりは、バイデンに多大なダメージを与える結果になるだろう。 一方トランプは、ギンズバーグの後任にアメリカのキリスト教的価値観と法の支配を象徴する最高裁判事を指名すれば、郊外の中産階級と高齢者にアピールできるのは確実──どちらも11月の選挙結果を左右し得る有権者層だ。トランプが(保守派の)連邦高裁判事エイミー・コニー・バレットを指名したのは当然だろう。 最高裁判事(9人)の構成がこれまでの5対4から6対3とさらに保守派優位になれば、トランプの支持基盤にとってはめでたいことにアメリカの文化生活はこの先何年も安泰になる。社会的正義や人種差別に敏感なリベラル派の価値観の急速な広がりと格闘するトランプは一層勢いづくだろう。 ===== トランプは今後さらに愛国主義を説き、リベラル派がアメリカについて「憎むべき嘘」をまき散らしていると非難するだろう。上院で最高裁判事の指名承認公聴会が開かれるなか、こうした攻撃はトランプにとって重要性を増すはずだ。リベラル派が唱える「新理論」の実際の内容を詳しく知ったら、アメリカの誠実な一般市民は引くことだろう。 この価値観をめぐる議論に押されてコロナ関連の議論は二の次になり、それが共和党には非常に有利に働く。実際は人種のことなど頭になくても、個人や集団を批判すれば「人種差別主義者」扱いされるのはショックだという高齢者は多い。彼らにしてみれば、前回大統領選でヒラリー・クリントンがトランプ支持者を「嘆かわしい集団」呼ばわりしたのに匹敵する扱いだ。 アメリカはどんな国になりたいのか。それが今回の大統領選のカギである。きっとトランプが勝つはずだ。 <本誌2020年10月13日号掲載>