<平和に貢献した歴代受賞者や多くの候補者には、ある決定的な資質があった。平和と正義への情熱、よりよい未来を信じる楽観主義、そして──。1996年に同賞を受賞したジョゼ・ラモス・ホルタ氏が寄稿> ノーベル平和賞候補には、国家元首から医療団、無名の人々まで300を超える個人・団体が挙がる。だが私が知る限り、自分が候補になったことを発表したのはただ1人、トランプ米大統領だけだ。 私は1996年に同賞をいただき、歴代受賞者や数多くの候補と知り合うチャンスに恵まれてきた。平和に貢献する彼らには、ある決定的な資質がある。平和と正義への深い情熱、人類のよりよい未来を信じる楽観主義、そして謙虚さだ。 トランプは平和的デモの参加者に暴力を振るう者を称賛し、自分に反対する人間を嘲り、虚偽を語って支持者をあおる。過激な白人至上主義を支持しているも同然で、歴代米大統領のうち最も多くを成し遂げたと豪語するほど「謙虚」だ。 今回、トランプがノーベル平和賞候補に推薦された理由の1つは、セルビアとコソボの経済協力を仲介したこと。これはプラスの動きだが、結局は貿易上のディール(取引)にすぎない。セルビアとコソボの紛争は1999年に終結している。 もう1つの推薦理由は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化合意という「歴史的な和平協定」への貢献だ。確かにイスラエルにとって前向きな出来事だが、和平協定というよりスンニ派アラブ世界の指導層再編であり、イスラエルと手を組んでシーア派国家の領袖イランに対抗する動きだ。 「和平協定」に先駆けて、アメリカはUAEへのパトリオットミサイルの売却、サウジアラビアへの核技術移転といった中東への武器輸出を拡大し、その額は昨年倍増した。おかげで中東では破滅的な武力紛争の可能性が高まり、長期的にみれば、イスラエル市民を含む中東の全ての住民が大きな危険にさらされている。 パレスチナ人の苦しみは完全に無視され、中東問題の解決策として国際社会が支持する「2国家共存」案を、アメリカとイスラエルは抹殺している。新たな同盟関係が交渉再開と同案の前進につながるなら希望が生まれるが、イエメンの状況を考えると、そんな展開はあり得ない。 2015年に始まったイエメン内戦は複雑化する一方で、政治的解決が必要だ。だがアメリカはUAEなどが加わるサウジアラビア主導の連合軍を支援し、対抗するシーア派武装勢力ホーシー派はその結果として、イランやレバノンのシーア派武装組織ヒズボラとの関係を深めている。 ===== イエメンでは既に、戦闘行為の直接的な犠牲者が11万2000人を超え、連合軍とホーシー派双方の封鎖措置によって2018年までに5歳未満の子供8万5000人以上が餓死した。市場や住宅街を標的にするサウジアラビアやUAEの空爆で死亡した民間人は約1万2600人。こうした空爆作戦で多く使用されているのが、米ロッキード・マーティンが製造し、サウジアラビアに大量売却されたレーザー誘導爆弾だ。 米議会は昨年春、連合軍への支援停止を求める決議案を可決したものの、トランプは拒否権を発動した。 近隣国を敵視する軍事同盟や武器取引を促進することが「和平」であるはずがない。イエメン内戦を政治的に解決し、民主主義を回復するなら、ノーベル平和賞に値するだろう。1974年の国連総会で採択されながらも、アメリカが消極的な姿勢を見せてきた中東非大量破壊兵器地帯構想を推し進めるのであれば、なおさらだ。 ノーベル平和賞は、平和と民主主義を築き上げる人々のためのもの。暴力と戦争の商人のためのものではない。 (編集部注:10月9日、世界食糧計画〔WFP〕の同賞受賞が発表された) <2020年10月20日号掲載>