<両親と夫を「聖戦」で失った若い女は自らもその闘いに捧げようとしていたが> フィリピンのイスラム系テロ組織「アブ・サヤフ」のメンバーを対象とした掃討作戦を続けている軍と警察の合同部隊は10月10日、フィリピン南部のホロ島で女性3人の身柄を確保した。 3人はいずれも「アブ・サヤフ」のメンバーとみられるフィリピン人女性2人とインドネシア人女性1人で、このうちインドネシア人女性は近く自爆テロを実行する予定だったとされている。 このインドネシア人女性の両親は2019年1月にホロ市内で起きた「マウント・カルメル教会」などのキリスト教会連続自爆テロ事件で死亡した実行犯のインドネシア人夫妻だった。 さらに彼女の夫も8月29日に治安部隊に殺害されたとみられ、これらの復讐のため自ら自爆テロを志願して近くテロを実行する可能性が極めて高いとして治安当局が最重要容疑者の1人として行方を追っていた人物だった。 また共に確保されたフィリピン人女性2人も「アブ・サヤフ」のメンバーと結婚した関係者で、テロ計画に何らかの関与が疑われるとして現在取り調べを受けているという。 夜明け前の潜伏先急襲で確保 フィリピンのメディアなどによると、10日の夜明け前に「アブ・サヤフ」に関連する女性が潜伏しているとの情報を得た軍と警察、情報機関などからなる「統合作戦チーム」がホロ島の民家を急襲して、女性3人の身柄を確保した。 この民家は確保されたフィリピン人女性の1人インダ・ヌルハイナ容疑者の夫で「アブ・サヤフ」の地域リーダーとされるベン・タト容疑者が所有するもので、「アブ・サヤフ」関係者の隠れ家だったとみられている。 それを裏付けるようにこの民家からはパイプ爆弾が装着された自爆用のベスト、爆薬、起爆装置など多数の自爆テロ実行に必要なものが押収されたという。 フィリピン軍情報部が得た情報では、確保されたインドネシア人女性はレスキ・ファンタシャ・ルリー容疑者(別名シシ)。10代後半から20代前半とみられ、両親、夫を自爆や銃撃戦で失い、その復讐とイスラム教の「聖戦(ジハード)」という使命感から自爆テロ実行を志願。近く犯行に及ぶ予定だったとされる。そのため情報機関は行方を必死に捜索していたという。 ===== 未だ逃走中の爆弾製造専門家 フィリピンでは8月24日にスールー州ホロ島ホロ市内の2か所で連続自爆テロが発生し15人が死亡。実行犯はいずれも「アブ・サヤフ」のメンバーの女性とされている。 一方、使用された自爆用爆弾を製造し、自爆テロを指揮したとされている「アブ・サヤフ」の幹部ムンディ・サワジャン容疑者は依然として行方が不明となっている。 8月24日のテロ以降、ムンディ容疑者が一緒に逃亡していたとされるルリー容疑者夫妻だが、夫のバソ容疑者が殺害され、ルリー容疑者も今回身柄を確保されたことになり、治安当局は現在なお逃亡中のムンディ容疑者を最重要容疑者として鋭意その行方を追っている。 ムンディ容疑者は中東のテロ組織「イスラム国(IS)」のフィリピン支部の代表者で「アブ・サヤフ」のリーダー格とされるハティブ・ハジャン・サワジャン容疑者の甥にあたる人物という。 インドネシア当局とも密接な情報交換 フィルピン治安当局、特に情報機関は「アブ・サヤフ」のメンバーにインドネシア人が加わっているケースが多いことなどから、インドネシアの対テロ機関と情報交換を密にして「対テロ作戦」で共同歩調をとっている。 今回のルリー容疑者の身柄確保やその夫バソ容疑者の死亡情報に関してもすでにインドネシア側に情報提供している、という。 特にバソ容疑者はインドネシア国内のイスラム系テロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」と関係があり、2016年に東カリマンタン州サマリンダで起きたオイクメ教会爆弾テロ事件への関与が疑われ、インドネシア国内で手配されていたという。 このようにインドネシアのテロ組織とフィリピンの「アブ・サヤフ」はいまや共同ネットワークを構築して、海路密入国を繰り返しては爆弾テロや自爆テロを繰り返しているのが実態とされる。 両国の治安当局、対テロ組織に加えて海上警備当局、入国管理組織、海軍や空軍なども動員した大規模、広域の対テロ作戦が展開されている。 フィリピン南部ミンダナオ地域を統括するフィリピン軍幹部は地元メディアに対して「自爆テロを実行しようとしていたルリー容疑者をテロ実行前に確保したことはアブ・サヤフにとって大きな痛手となっているはずだ。さらに掃討作戦を強化して逃走中の残党確保と新たなテロ防止に全力を尽くしたい」と明らかにしている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== >8月24日にホロ市内で起きた連続自爆テロ 8月24日にホロ市内で起きた自爆テロ現場。ABS-CBN News / YouTube 自爆テロ志願の女を拘束 自爆テロ志願の女を軍と警察の合同部隊が拘束したことを伝える現地メディアANC 24/7 / YouTube