<「人が均一に交わる」ことを前提とした従来の数理モデルと異なり、「人々が親しい人とのみ交流する」ことを前提に集団免疫の獲得に必要な感染レベルを算出> アメリカは人口の約47%が感染した段階で、新型コロナウイルスの集団免疫を獲得する可能性がある──米医療保険会社ユナイテッドヘルス・グループ(ミネソタ州)の研究部門のチームが、このような推定を発表した。 研究者たちはプレプリント(ほかの研究者による査読が済んでいない段階の)の研究報告の中で、アメリカが同ウイルスのパンデミック(世界的大流行)を切り抜けるのに必要な集団免疫について、よく言われる人口の60%以上という「古典的な」推定よりもずっと低い水準で達成できる可能性があるとの所見を示した。 新型コロナウイルスのパンデミックのなか、人々が均一に交わらない、つまり少数の親しい人とのみ交流すると仮定した場合、どの程度の集団免疫が必要なのか。それを解明するために、研究チームはアメリカ各地の複数の郡のデータを使用して、パンデミックが今後どのように展開していくかのコンピューター・シミュレーションを行った。その結果、集団免疫に必要な感染レベルは郡によって大きく異なるが、人口の多寡を考慮に入れて計算すると、アメリカでは総人口の47.5%が感染すると集団免疫が達成される可能性があることが示唆された。 「人の集団は均一ではない」 ユナイテッドヘルス・グループ公衆衛生部門の責任者で、同報告書の著者であるイーサン・バークは本誌に対して、「研究の目的は、人々が均一に交わらなかった場合、それが集団免疫にどのような影響を及ぼし得るかを検証することだった」と述べた。「そこで得られた重要な発見は、集団免疫獲得のための感染レベルは、これまでの古典的な推定値よりも低い水準である可能性が高いということだ」 またバークによれば、パンデミックの最終段階では、複数の異なる地域で感染の「爆発」や「急増」が起きることも予想される。「集団免疫が達成された後でも、複数の異なるコミュニティーで異なる時期に、感染の拡大が起きるだろう」と彼は述べた。 従来の感染症数理モデルは、全ての人が同じ確率で新型コロナウイルスに感染する(あるいはほかの人に感染させる)と想定している。言い換えれば、全ての人が均一に交わることを想定している。 だが現実には、人の集団は「不均一」であり、人々は限られた集団としか交わらない。それを考慮に入れて計算すれば、通常考えられているよりも低い感染レベルで集団免疫が獲得される可能性があり、このことは公衆衛生にとって「重要な意味」があると研究チームは指摘した。 ===== 研究者たちは報告書の中で、「10代の若者のグループは、60代のグループとは混じり合わない傾向にある」と指摘。「モンタナ州の住民は、ニューヨーク州の住民と交流する傾向にはない。異なるグループの間を行き来する人は、全体のごく一部だ」 「ワクチン戦略を考えた場合、今回の結果を踏まえて言えることは、誰がワクチン接種を受けるかだけではなく、ワクチンが最も役に立つ場所や集団がどこかも考える必要があるということだ」 バークは本誌に対して、新型コロナウイルス感染症は重症化や死亡に至る可能性があることから、研究チームでは、集団免疫が「人々の感染」ではなく「大規模なワクチン接種計画」によってもたらされるべきだと語った。 「ワクチンが完成するまで、あるいは集団免疫が獲得されるまでは、中和抗体を活用する治療法のような新たな治療法によって、死亡率が引き下げられることも願っている」と彼は述べた。 バージニア工科大学生命科学部の研究者であるケイト・ラングウィグ(今回の研究には関与していない)は本誌に対して、集団免疫の獲得に必要な感染レベルを推定する上で、人々が均一に交わる訳ではないという事実を考慮に入れることは重要だと語った。 自然免疫の獲得を目指すべきではない 「今回の研究の所見は、不均一な集団における集団免疫は、均一な集団を前提としたモデルが示すよりも低いレベルで達成される、という概念を確固たるものにする」と彼女は語った。 彼女はさらに、公衆衛生戦略においては、自然感染による集団免疫の獲得を目指すべきではないとも述べた。 「一部のコミュニティーが集団免疫を獲得することは考えられるが、それは感染力の高いウイルスを効果的に制御できなかったことの不幸な結果だ」と彼女は指摘した。 「それに、新型コロナウイルスの伝播率は季節や接触の増加によって大きく変化すると予想される。それを踏まえて考えると、ひとつのコミュニティーがある時点で集団免疫の獲得レベルに近づいたからといって、彼らが長期間にわたってウイルスから守られることは期待できない。集団免疫を達成する、より安全で効果的な方法はワクチンの接種だ」 ラトガーズ大学公衆衛生大学院の准教授で疫学者のヘンリー・レイモンド(今回の研究には関与していない)は本誌に、ユナイテッドヘルス・グループの研究チームが示したモデルは「幾分新しい」アプローチ法だと指摘した上で、「全てのモデルの良し悪しはインプット(データ)次第で決まる」と述べた。「ここでは、新型コロナウイルスの免疫がどれだけ効くのか、どれだけ長く効果が持続するのか、という点に関して大きな仮定を置いている」