<武装勢力と国軍との「戦争」で2年半も戒厳令が続いたマラウィ。その残党が再活動を目指し動き始めた> 2017年、フィリピン南部ミンダナオ島南ラナオ州の州都マラウィ市を約5カ月にわたって武装占拠したイスラム系テロ組織の残党が、新たな指導者の下でメンバーのリクルートなど組織の再編を図っていることが、国軍情報などで明らかになった。 これは10月16日にフィリピン軍のミンダナオ地区を担当する第103歩兵旅団のホセ・マリア・クエルポ司令官が、情報部などから寄せられたデータを分析したもので、治安当局は同組織の動向に警戒を強めるとともにテロ阻止に全力を尽くしているとしている。 中東のテロ組織「イスラム国(IS)」のフィリピンでの指導者とされたイスニロン・ハピロン容疑者率いる組織と地元ミンダナオのイスラム系テロ組織「マウテ・グループ」のメンバーらは2017年5月23日にマラウィ市を武装占拠して事実上の都市封鎖にして治安部隊との交戦を続けた。ドゥテルテ大統領は治安維持目的でミンダナオ島の一部に戒厳令を布告して対応した。 同年10月23日に軍の最終的な攻勢でマラウィ市は解放された。この間の戦闘で「マウテ・グループ」のマウテ兄弟(アブドラ・マウテ、オマル・マウテ両容疑者)やハピロン容疑者は殺害された。 その一方で多くの幹部を含めた「マウテ・グループ」の残党が同市から密かに脱出してミンダナオ島や周辺のスールー州ホロ島やバシラン島などに潜伏。既存のテロ組織などとの連携を強めると同時に新たなメンバー獲得による組織再編への懸念が指摘されていた。 こうした残党の動きなどを懸念し、掃討作戦を継続するためとして戒厳令はマラウィ解放後も継続され、2019年12月末にようやく解除された。 今回の陸軍のクエルポ司令官による情報は、こうした「マウテ・グループ」残党の動きが活発化していることを示しており、懸念が現実問題となっている現状を浮き彫りにしたといえる。 新指導者による新体制での再編活動 武装占拠されていたマラウィ市から脱出に成功した1人が今回、「マウテ・グループ」の新たな指導者になったと指摘されているファハルディン・ハジ・サタール(別名アブ・バカル)容疑者だ。 陸軍によるとサタール容疑者はイスラム教の指導者を意味する「エミル」の称号を正式には得ていないものの、ラナオ地方に点在する残党メンバーなどからは「実質的な新指導者」として認知されていると指摘する。 ===== サタール容疑者は前任の指導者で武装占拠中のマラウィからやはり脱出に成功したオワイダ・ベニト・マロホムサル(別名アブ・ダル)容疑者の後任指導者となる。 マロホムサル容疑者が2019年3月14日に南ラナオ州ドゥバラン市近くで起きた軍との交戦で他の幹部4人とともに殺害されたため、その後継指導者としての地位をサタール容疑者が獲得したと軍は分析している。 このためマラウィ市武装占拠に関わった「マウテ・グループ」はマウテ兄弟(マラウィでの戦闘で死亡)からマロホムサル容疑者(マラウィ脱出後の戦闘で死亡)を経てサタール容疑者へと指導者が交代してきたことになる。 一方のISと関連が深かった組織はハピロン容疑者(マラウィの戦闘で死亡)からハティブ・ハジャン・サワディン容疑者へと指導者が変わった。 このハティブ容疑者はフィリピンのイスラム教テロ組織「アブ・サヤフ」の指導者の1人ともされ、8月24日のホロ市内で発生した連続自爆テロ事件に直接関わり、現在逃走中のムンディ・サワジャン容疑者とは親族といわれている。 進まないマラウィ市の復興と偽の勧誘 2017年の武装占拠期間中に起きた激しい戦闘でマラウィ市は破壊され、現在も町の復興は依然として進まず、住民は市内への帰還は建物崩壊などの危険があるとして認められていない。 このため国連の統計では約12万5000人の元住民が依然として郊外などに設けられたに避難所での不自由な生活を余儀なくされている。 武装占拠中の戦闘で軍は各種砲撃に加えて空爆まで実施した結果、町の主要な建物はほとんどが破壊され、兵士、武装グループメンバーそして住民ら1000人以上がその犠牲となった。 こうした避難生活を送る市民、特に若い男性に対してSNSを通じて「町の復興や人道支援に関わる仕事に参加しないか」と勧誘が頻繁に来ているという。治安当局によるとこうした勧誘は「マウテ・グループ」や他のテロ組織が偽の団体を装った「リクルート活動」だとして避難民や周辺市町村の若者らに注意を呼びかけている。 モロ解放戦線との関係強化を当局は警戒 武装グループの勧誘、リクルート作戦は別のイスラム教組織にまで及んでいるという。 南部のミンダナオ島を拠点とする「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のアブドラ・マカパル司令官は地元メディアに対して、MILFのメンバーに対する「勧誘運動」が盛んになっていることを明らかにし、警戒を呼びかける事態となっている。 MILFはイスラム教系テロ組織としてはフィリピンでも勢力、歴史ともに有数だったが、ドゥテルテ政権との間で2014年に和平協定に調印。依然として治安当局との衝突は散発的に続いているとはいえ、現在はメンバーの非武装化と社会復帰のプログラムをNGOなどの協力で進めている。 ===== このMILFのメンバーにも「マウテ・グループ」によるリクルート作戦の矛先が向けられていることが分かった。MILFのメンバーは元武装組織構成員で、ゲリラ活動や武器の扱い方に慣れていること、約1万人とされるメンバーの中にはまだ武器を所持して非武装化に応じていないメンバー、さらにMILFと政府の和平調印に不満を抱く先鋭的メンバーが存在していることが「マウテ・グループ」にしてみれば「魅力的」であることがリクルート作戦展開の素地となっているという。 このためMILF指導部は「公式にMILFメンバーに対してマルテ・グループなどへの参加を禁止しており、参加しようとしている仲間がいることには失望している」との声明を出すまでになっている。 MILF指導部はメンバーが多数居住するバリンドン、マダラム、ピアガポなどのラナオ地方の各地区でのリクルート活動活発化に特に警戒を呼びかけているという。 頭の痛いドゥテルテ大統領 このようにフィリピンの反政府武装組織、テロ組織は軍や警察による掃討作戦、さらにドゥテルテ政権による和平工作などで戦力低下、組織分断が進んでいる。 その一方で各組織、グループによる新たなリクルートによるメンバー獲得、組織同士の連携と引き抜き、合従連衡、そしてインドネシアのテロ組織などとの国際的なネットワーク構築と「組織、ネットワークの再構築化」に生き残る道を見出す動きが急ピッチで進行している。 こうしたテロ組織や武装グループは10月23日の政府側によるマラウィ市解放記念日に向けて何らかの行動を準備しているとの情報もあることからラナオ地方を中心にしたミンダナオ島各地で治安当局は警戒態勢を強めているとしている。 ミンダナオ島周辺は「アブ・サヤフ」の残党で最重要指名手配中のムンディ・サワジャン容疑者らの潜伏も伝えられており、治安当局やミンダナオ島のダバオ市長も務めたドゥテルテ大統領にとっても頭の痛い状況が依然として続いている。 [執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== イスラム系テロ組織が武装占拠し戦争状態になったマラウィ 戦争と呼べるほどの激しい闘いが繰り広げられたミンダナオ島マラウィ ABS-CBN News YouTube