<地域の安全保障秩序の礎となっているグアムを正式なアメリカの州とすることで、「太平洋の大国」としての立場を守れ> 9月、米民主党のチャック・シューマー上院院内総務は、11月の選挙で民主党が上院の過半数を獲得できたあかつきには、アメリカの自治領プエルトリコや首都ワシントン特別区の州への格上げを含む「あらゆることが議題に上る」と述べた。もしそうなら、グアム島および北マリアナ諸島に住む23万人のアメリカ国民についても連邦議会は議論すべきだろう。 民主党だけが州への格上げ提案をしているのではない。グアムと北マリアナ諸島が1つの州になれば、究極の接戦州になる(州への昇格の第一歩としてグアム島と北マリアナ諸島を合併させる問題については過去に何度も住民投票が行われ、賛成多数の結果が出ている)。プエルトリコと同じく、グアムの住民は大統領選挙への投票はできないが、法的拘束力のない世論調査は行われている。過去10回の大統領選(当選したのは民主党候補が6回、共和党候補が4回)のうち、8回でグアムでの支持率トップの候補と実際の勝者が一致した。グアムが州に昇格すれば2人の上院議員と1人の下院議員、そして3人の大統領選挙の選挙人を選出することになるが、その程度でワシントン政界の微妙な党派バランスが大きく変わることはないだろう。とはいえ、超党派の動きや、穏健な政治や歩み寄りに向けた余地が広がる可能性もある。 「遠くて小さい」が州昇格の障害に? グアムの州昇格の障害になりそうなのが、人口規模やアメリカ本土との距離の問題だ。現時点で人口が最も少ないのはワイオミング州だが、グアムと北マリアナ諸島の人口は合わせてもその半分にも満たない。だが過去には、アラスカのように人口が少なくても州への昇格の障害にならなかった例もある。 アメリカ人でもグアムおよび北マリアナ諸島の場所が分からない人は少なくないかも知れない。アメリカ本土から見ると太平洋を挟んだ反対側にあるし、距離で言えばホノルルより北京の方が近い。とは言え、住民がアメリカ国民であることに変わりはない。地理的な距離ゆえに、他の州にはない戦略的な重要性もグアムにはあるし、同様に他の州にはない危険にもさらされている。 グアムは米西戦争を経て1898年にアメリカ領となった。そして1941年12月8日、真珠湾攻撃の数時間後に日本に占領された。3年後、連合軍はグアムをはじめとするマリアナ諸島を奪還。作戦に参加した12万8000人の米軍兵士のうち、死者・行方不明者は8125人に上った。 だが彼らの犠牲は無駄にはならなかった。解放されたマリアナ諸島に米軍は飛行場を建設。ここから日本本土への空襲が行われ、第二次大戦における連合軍の勝利を確たるものにした。それ以降も、中国の軍事戦略への警戒感を背景に、グアムの米軍基地は地域の安全保障秩序の礎となってきた。 ===== グアムは安全とは言えない状況にあり、その危機は年々高まっている。島の面積のほぼ3分の1を米軍施設が占め、地元経済にとって軍人とその家族の存在は非常に大きなウエイトを占めている。にもかかわらず、グアムは正式なアメリカの「一部」にはなっていない。アメリカの敵も、ハワイのような正式な州を攻撃するのは躊躇するかも知れない。だが「単なる基地の島」という扱いのままであれば、グアムはそうした敵にとっておあつらえ向きの標的になりかねない。 太平洋において紛争が起きれば、グアムのアメリカ人の命はまず最初に犠牲になりかねない。 2015年に初めて公開された中国の中距離弾道ミサイル「東風26」はグアムを射程に収めるため、中国では「グアムキラー」と呼ばれた。17年にドナルド・トランプ米大統領が「炎と怒り」をお見舞いすると北朝鮮を脅したのに対し、北朝鮮はグアム周辺に「包囲射撃」を行うと応じた。これは考えられない事態ではない。グアムは北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12」の射程内に入っているからだ。 だがグアムの州昇格に向けた戦略的論拠は防衛問題に留まらない。もしグアムが正式な州になれば、インド太平洋地域における自由で開かれた、ルールに基づく秩序をアメリカ政府が本気で守ろうとしている大きな証拠になる。 中国の野望を認めないアメリカの強いメッセージ アメリカ政府は南シナ海における重要な同盟国であるフィリピンが、親中路線に戦略的な軸足を完全に移すのを防ぐための外交努力を行っているが、グアムの州昇格はその助けになるだろう(フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は16年に訪中した際、『アメリカとの決別』を口にし、西太平洋における経済的・軍事的覇権を『アメリカは失った』とも述べた)。それに日本や韓国、台湾に対しても、危機の際にはアメリカが助けに来るというさらなる安心感を与えることができる。 最後に、グアムおよび北マリアナ諸島の州への昇格は中国政府に対する強いメッセージともなる。中国は最終的にはアメリカをアジアから追い出したいと望んでいる(中国の外交関係者や学者は否定しているが)。そんな中国の望みがかなうことは決してないことをアメリカ政府は明確に示さなければならない。 1944年、マリアナ諸島の奪還作戦が成功した後、2人の米海兵隊員がグアム島の海岸で写真に収まった。手には「グアム侵攻に大きな役割を果たした沿岸警備隊に海兵隊から敬礼。沿岸警備隊のおかげでわれわれはここにいるし、これからも居続ける」と書いた札を誇らしげに掲げていた。 それから80年近くが経過した。アメリカは太平洋の大国であり、グアムを州に昇格させることにより、そのポジションを今後も維持できることを、米連邦議会は認識すべきだ。(筆者は英オックスフォード大学で中国問題を研究している。中国の一帯一路政策を分析した"One Belt One Road: Chinese Power Meets the World"が近く発売予定)。 From Foreign Policy Magazine