「彼らはリーダーの逮捕で、デモ隊を止められると思っている。無駄だ。今ではわれわれ全員がリーダーだ」──。プラさん(24)は18日、タイの首都・バンコクの戦勝記念塔前で開かれた反政府集会で、数千人の参加者を前にこう演説した。 タイではこの1週間、反政府デモ隊の主だったリーダーの多くが逮捕された。だが、抗議活動は拡大し、プラユット首相の退陣や王室改革を求める声はこれまで以上に高まっている。 デモ隊ではこれまで無名だった参加者が、香港の反政府活動から得た教訓と、自ら編み出した手法を組み合わせて警察の取り締まりを阻止。変革を支持する世論が、この数十年で最も盛り上がっていることを見せつけている。 この流れは、意識的に計画されていた。 民主化を求めている団体「フリー・ユース」は18日、フェイスブックに「メガホンを用意し、防具を装着せよ。全員がリーダーなのだから」と投稿。著名活動家のパヌポン・ジャドノックさん(24)は17日の逮捕前、フェイスブックに「#everybodyisaleader」のハッシュタグを付けてフリー・ユースと同じメッセージを発した。 抗議デモを行う場所ですら、ソーシャルメディア内に設けられた各グループの投票で決まる。デモが行われる可能性のある場所がいくつも挙がり、警察は混乱。警察官が現場に到着するころには、既に数千人が集まっている。 警察の報道官は、デモ隊の動きについて「非常にダイナミックだ」と指摘。「今できるのは、法律に従いなさいとデモ参加者に警告を出すことだ」と述べた。 17日の集会では「リーダー不在」で、ちょっとした不手際も起きた。誰が演説すべきかでまごついてしまったのだ。タイの抗議活動は、ステージ上で次々と演説が行われるのが普通だ。 ある集会では、20歳の女性が壇上に立った。リーダーが何十人も逮捕されているため、こんなこともあろうかとマイクは持参していた。 彼女はロイターの取材に「何かしら求心力がなければ、人は1カ所に長い間集まっていられないものだ。立ち上がって演説しようと全員に呼びかけたかった」と話した。 香港モデル タイのデモ隊は、香港の反政府デモ隊が臨機応変な対応を呼びかけた「水になれ」戦略を即座に導入したが、同じように権威主義体制と闘う香港の活動家から、精神的な支援も受けている。 香港の活動家の羅冠聰(ネイサン・ロー)氏は18日、ツイッターに「仲間を大切にし、集団の知恵を信じ、流れるような戦略を取り、断固として行動しなさい。希望を失わず、安全に」と投稿し、タイの活動家への支持を示した。 ===== 18日にバンコクのアソーク交差点で開かれた集会では、13人ほどの活動家が初めて顔を合わせた。集会が平和裏に散会した後、互いに言葉を交わし、新たなチャットグループを立ち上げて、今後のデモに向けて連絡を取り合うことで意見が一致した。 ニックネーム「オミーム」さんは「今日はデモ隊を支援するために来たが、到着してみるとまだ、リーダーが決まっていなかったので演説を始めた」と語った。 30歳とデモ参加者では年長の「PK」さんは、安全の確保に努めた。警察が16日と同じように放水銃や警棒を使用するのではないかとの懸念が広がっていたからだ。ロイターのインタビューに「活動家、特に若者を守らなくてはいけない」と話した。PKさんらは他のデモ参加者と腕を組み、抗議活動と一般の通行の境界を作り、市民が移動できるスペースを確保した。 活動家は手のサインで「危険」「安全」「誰かが逮捕された」「聞こえない」「水が必要」などを互いに伝え合った。警察が別のデモ隊に向かいそうだとの情報が広がると、ヘルメットやゴーグル、傘などの防具が「人間の鎖」で運ばれる。 安全確保のための緊急情報だけでなく、トイレの場所、はぐれた友人や遺失物が見つかりそうな場所、夜寝る所などもソーシャルメディアで拡散している。 抗議行動の初期のころに目立っていた学生(27)は注目を浴びる立場を退き、これまでのところ逮捕を免れている。「今ではみんなと一緒に変革を目にしたいと望む参加者の1人に過ぎない」と話した。 (Juarawee Kittisilpa記者、Patpicha Tanakasempipat記者、Chayut Setboonsarng記者)[ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【話題の記事】 ・強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題 ・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ