<トランプを厳しく追及した女性ジャーナリストを「メスブタ」や「売女」呼ばわりした敵対的性差別主義が、トランプ支持層の一角を成している> 10月15日に行われたドナルド・トランプ米大統領の対話集会では、NBCの女性アンカー、サバンナ・ガスリーが進行役を務め、厳しい質問でトランプを追い詰めた。最初の討論会がトランプの妨害で「史上最低」に終わっただけに、ガスリーの勇気と頭の良さに視聴者は喝采を浴びせた。だが同時に、ガスリーに腹を立てた人々もいた。対話集会の放送後、グーグルでは「ガスリー、メスブタ」などという組み合わせの検索が急増。ツイッター上でもガスリーを「売女」などと称するコメントが飛び交った。 対話集会の中でガスリーは、トランプのコロナ軽視の他、ウサマ・ビンラディンの殺害は嘘だったという根拠のない陰謀論をトランプがリツイートしたことや所得税を納めていなかったと報じられたこと、陰謀論を信じる「Qアノン」が流布している「トランプは邪悪な集団から世界を救うために闘っている」とする説の真偽などについて厳しく追及した。 いまだに女性を「モノ」扱い このガスリーのやり方に怒りを覚えた一部の視聴者は、侮蔑的な「bitch」という言葉を使い、ツイッター上で不満をぶちまけた。検索サイトのグーグルでも、ガスリーの名前と「bitch」「cunt」などの蔑称を組み合わせた検索が急増。これらの検索ワードが一時トレンド入りした。 こうした侮辱は、男性には当てはあらない。民主党の副大統領候補、ジョー・バイデンの対話集会の進行役を務めたABCのジョージ・ステファノポロスの場合、多くグーグル検索されたのは彼の支持政党だった。。9月29日に行われたトランプとバイデンの「最低の」討論会の進行役を務めたFOXニュースのクリス・ウォレスの場合は、トランプを制御できないことに対する批判的な検索語が多かったものの、「クリス・ウォレスは最悪」「クビにしろ」などがせいぜいで、ガスリーに対するものほど暴力的な言葉は使われなかった。 10月7日に行われたカマラ・ハリス(民主党)とマイク・ペンス(共和党)の副大統領候補同士の討論会の後も、同じようなパターンがみられた。ハリスには「ヌード」など「モノ」として見るような検索語が多く使われた。ペンスについては、頭に止まったハエのほかは、財産の多寡や政治家としての実績に関連した検索が上位を占めた。 ===== 英ウェストミンスター大学のシルビア・ショー上級講師(英語および言語学)は本誌宛てのメールの中で、多くの人が「bitch」や「cunt」などの言葉を使ったのは、ガスリーについて出来るだけ強い中傷の言葉を探した結果だろうと指摘する。「選挙を控えたアメリカで激しさを増している政治的分極化に、性差別的な要素が加わった」と語った。 「bitch」などの言葉は「積極的・自己主張が強い」と受けとめられる著名な女性を攻撃するのに使われるのかと尋ねたところ、ショーは、公の場で威厳のある振る舞いをすることは「伝統的・ステレオタイプ的に男性と関連づけられる行為」のため、女性がそれをすることを問題視する人々は常にいると説明し、次のように語った。「男性が積極的に自分の意見を主張するのは称賛される傾向があるが、女性が同じことをすると必ず批判される」 こうした風潮は、威厳のある振る舞いが求められる場面で、女性にとっての「ジレンマ」になるとショーは言う。対話集会の進行役を務めていたガスリーがまさにそうで、「積極的な姿勢で臨むと『やりすぎ』だとして否定的な評価が下されるが、積極的に発言しないと無能で弱い(これも女性が避けなければならないジェンダー規範の押しつけだ)と思われる」と彼女は指摘した。 「武器」として使われた性差別 もちろん、男性も公の場での振る舞いについて批判を受けることはある。だがショーは、男性に対する中傷と異なり、女性に対する中傷は「女性を性的に貶めたり、家庭に縛りつけたりする」露骨な言葉が多いと指摘する。そして、2008年の大統領選でヒラリー・クリントン候補に向けて「俺のシャツにアイロンをかけろ」というプラカードが掲げられた例を挙げた。 英オックスフォード大学のデボラ・キャメロン教授(言語・コミュニケーション学)は、ガスリーに対する攻撃は「現在のアメリカ政治の極度の分極化」が原因だという考えを示した。キャメロンは、男性の進行役が同じような態度を取った場合にも、ガスリーと同じように侮辱的な、あるいは汚い言葉で攻撃を受けるのは同じだろうが、使われる言葉の種類は異なるだろうと指摘。進行役が黒人、ラテン系、障害者、同性愛者だった場合も同じだろうと述べた。 「ガスリーを批判した人々は、彼女が女性だから性差別的な言葉を武器として使えた。だが彼らが怒ったのは、ガスリーが女性だからではない。彼女がトランプを悪く見せたから、というのが主な理由だ」とキャメロンは語った。 米オクシデンタル大学のジェニファー・M・ピスコポ准教授(政治学)は、社会心理学に関する学術誌「Group Processes and Intergroup Relations」に発表された研究報告を引き合いに出し、敵対的な性差別主義が一部のトランプ支持者を駆り立てていることが、研究によって示唆されていると述べた。 ===== ピスコポは、2015年にFOXテレビのメガン・ケリーがトランプを追及した際に、トランプが性差別的な言葉を使った一件を例に挙げ、「トランプ自身、さまざまな問題について女性から厳しく追及された時に、女性を蔑視するような対応をした過去がある」とピスコポは指摘。だからガスリーに対して今回のような攻撃が行われたことに驚きはないと語った。 「だが正直に言って、女性ジャーナリストであるガスリーにとって、このような攻撃は目新しいものではないだろう。ある調査の推定によれば、著名な女性ジャーナリストは1日に200件の嫌がらせツイートを受けている」とピスコポは語った。「今回の選挙だけを見ても、ガスリーのほかにも民主党の副大統領候補のカマラ・ハリスやトランプを批判した民主党のミシガン州知事グレッチェン・ホイットマーなど多くの女性が、オンラインで嫌がらせを受けたり、侮辱的な言葉を使って検索されたりしている。 2016年の米大統領選で使われた性差を特徴づける言葉について研究を行ってきた、英グラスゴー・カレドニアン大学のデービッド・マグワイア研究員(人材開発)は、本誌にこう語った。「サバンナ・ガスリーについて不快な言葉を使ったグーグル検索が急増したことは、公職に就いている女性をモノとして見る傾向が今も続いていることを示している」 =====