<労働党創建75周年を祝う軍事バレードで披露された最新ミサイルは実は見掛け倒し> 国民の約60%が飢餓寸前と言われる北朝鮮。だがその指導者は、国内の惨状から、壮大な軍事力へと世界の注目をそらすのが実にうまい。10月10日に行われた朝鮮労働党創建75周年を祝う軍事バレードは、その格好の例となった。 果たしてわれわれは、こうした北朝鮮の宣伝をうのみにし過ぎなのか。 確かに、ICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14」が2017年7月に発射されたときは、筆者を含め多くの専門家が意表を突かれた。だとすれば今回も、北朝鮮が見せつけた核能力(その高画質の写真はソーシャルメディアに広く出回っている)を額面どおりに受け取るべきなのか。 最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、メディアを利用する達人であるのは間違いない。アマチュア映画監督(故・金正日[キム・ジョンイル]総書記)の息子だけあって、金は北朝鮮のイメージを回復する壮大なパレードを念入りに計画し、実行に移した。 なかでも世界が注目したのは、過去最大の新型ICBMだ(専門家は火星15の後継となる火星16と見なしている)。これだけ大きければ複数の核弾頭を搭載して、アメリカのミサイル防衛システムを破り、主要都市に核の雨を降らせることができるのでは──。多くの専門家はそんな不安を口にする。 恐ろしい話だが、実のところ、この新型ミサイルは容易に克服できない大きな問題をいくつも抱えている。冷静に分析すれば、火星16は重大な脅威どころか、21世紀の「スプルース・グース」に近いことが分かるだろう。 スプルース・グースとは、実業家ハワード・ヒューズ(その人生は映画『アビエイター』に描かれた)が製造させた巨大飛行艇の別名だ。第2次大戦中に軍用輸送機として使用されることを想定していたが、製造されたのは1機だけで、飛行したのも戦後に1回だけだった。 圧倒的な見た目と、先端技術の詰まった機体は、技術者たちに大いにインスピレーションを与えたが、スプルース・グース自体は大き過ぎて、実用的な用途は見当たらなかった。北朝鮮の火星16も、同じような運命をたどる可能性がある。 実戦配備のつもりなし? ある意味で、その欠陥は明白だ。それは、そもそもこのミサイルが実戦配備用に造られたのではなく、技術力を誇示するために実験的に製造された可能性が高いことを示唆している。アメリカの次期政権との交渉材料に使いたいという狙いもありそうだ(ドナルド・トランプ米大統領が続投するのであれ、民主党のジョー・バイデン大統領が誕生するのであれ)。 具体的には、火星16には3つの大きな問題点がある。第1に、パレードで巨大な起立式移動発射台(発射台付きトラック)に搭載されていたことから分かるように、その大きさが足かせとなるだろう。 ===== このような兵器は、先制攻撃で破壊されることを避けるため、地上で容易に移動できなければならない。しかし北朝鮮の道路はほとんどが未舗装または、舗装の質が低いため、これほどの大きさ(と重量)のミサイルの移動に耐えるのは難しいだろう。 つまり、火星16は北朝鮮の中でもインフラの整った地域に配備され、その移動範囲は限られる。ということは、アメリカの情報機関がおおよその位置を把握し、情報を収集したり、場合によっては攻撃することも可能になる。 第2に、燃料の問題がある。火星16は液体燃料を使用しているようだ。この点では、ホワイトハウスさえも、もっと最先端の燃料システムを導入すると予想していただけに、肩透かしを食らった格好だ。 ロシアや中国がICBMに使用する固体燃料とは異なり、液体燃料は充填に12〜18時間かかる。このため、北朝鮮が奇襲攻撃を受けた場合、瞬時にこの新型ICBMを使って報復攻撃を取ることはできない。それ以外にも、使える場面は限られてくるだろう。 火星16の第3の問題点は、その発射実験に大きな代償が伴うことだ。北朝鮮は既に、長距離ミサイル発射実験と核実験のモラトリアム(一時停止)を放棄しているが、新型ICBMの発射実験を強行すれば、新たな軍拡競争の引き金を引く恐れがあることを、おそらく金は分かっているだろう。トランプが11月に再選を決めればなおさらだ。 世界へのリマインダー この点は極めて重要だろう。世界が北朝鮮の核の脅威を目の当たりにしたのは、2017年の火星14発射実験だった。アメリカの独立記念日に行われた実験の映像は、北朝鮮がアメリカ本土を核攻撃する能力を手に入れたことを世界に知らしめた。それは約30年にわたるアメリカの外交努力の失敗を、白日の下にさらす出来事でもあった。 再びこのような実験が行われれば、少なくとも、新たな厳しい経済制裁が科されるのは間違いない。それは既に食糧不足と、3度の大型台風による被害、そして新型コロナウイルスの脅威に直面する北朝鮮にとって、一段とこたえるものとなるだろう。 さらに、その実験時にトランプが大統領だったら、「友」である金に裏切られたと、個人的な侮辱として受け止めて、かつての「炎と怒り」に満ちた口撃を再開し、核の脅しを頻繁に口にするようになるかもしれない。 だが幸い(北朝鮮について「幸い」という言葉を使うのも奇妙だが)、金は当面、新型ICBMの発射実験を思いとどまりそうだ。今回のパレードは、米大統領選の模様眺めをしている間にも、北朝鮮の核備蓄は着々と増えていることを、世界に最も強烈な形で思い起こさせることが狙いだった可能性が高い。 その狙いは見事に達成された。戦時の実用性は乏しいかもしれないが、この場合、大きさが重要な役割を果たした。 残念ながら、いい役割ではないが。 <2020年10月27日号掲載> ===== 過去最大の新型ICBM「火星16」が労働党創建75周年記念閲兵式でお披露目された