<12月31日で移行期間が終了して名実共にEUを離脱するイギリス。FTA合意の有無に関係なく、EU加盟国との通商上の結び付きはヨーロッパで最も弱い国に> イギリスの国民投票によるブレグジット(英EU離脱)決定から4年。だが離脱は依然文面上にとどまっている。確かに今年1月31日に法的には離脱したが、「移行期間」中はまだ実質的には加盟国。英企業がEU内でビジネスをすることもドイツ人がビザなしでロンドンに移住して働くことも可能だ。 だが移行期間は12月31日で終了、イギリスは名実共にEUを離脱する。ブレグジット後を見据えた通商交渉は大詰めを迎え、EUとイギリスの双方がより大きな賭けに出ている。ジョンソン英首相は通商協定のないEU離脱でも「良い結果になる」と主張。一方EUは、協定を望むがどんな犠牲を払ってでもというわけではない、と強調してきた。 イギリスのメディアや金融市場は10月15日に始まったEU首脳会議前から交渉の行方を注視していた。しかし「合意あり」か「合意なし」かをめぐる議論はより大きな構図を見えにくくする。交渉の結果がどうあれ、イギリスは既にハードブレグジット(強硬離脱)に向かっているのだ。 現在交渉が行われているのは結局、典型的な自由貿易協定(FTA)に条件を付加したもので、英・EU間の工業製品や農水産・食品の関税および割当枠がゼロになる。 FTAはイギリスの農水産部門、特に漁業と食品加工業にとっては重要だ。水産・加工食品に対するEUの平均関税率は高く、例えば菓子類では最高24.5%に達する。 だが全体では大した恩恵はなく、4億4800万人規模のEU市場で英企業は競争上かなり不利になる。 第1に英・EU間の煩雑な輸出入手続きが不要になる見込みはない。英製造業には難題だ。英政府はイギリス側からEU圏への物流に最大2日の遅延を見込んでいる。 第2 に、貿易の「技術的障害」は残る。来年1月以降、英企業が製品をEU市場で販売するには、個別にEU規制当局の検査を受け新たに証明書を取得しなければならない。それには製薬企業や化学企業などの多くがEU内に子会社を新設する必要がある。 第3に、イギリスの基幹産業であるサービス部門にはメリットはない。英経済の稼ぎ頭であるサービス業のEU市場へのアクセスは大幅に低下するはずだ。 バークレイズ、ロイズ、クーツなど英金融機関は既にEU内の顧客口座閉鎖を通知。EUに支店を開設してまでサービスを継続する価値はないと判断したのだ。米金融コンサルティング会社アーンスト・アンド・ヤングの試算では、早くも7500人分の雇用と顧客資産1兆5500億ドルがロンドンから大陸側に移管されたという。投資ファンド関連産業などについては、来年以降EU側がどんなルールを適用するか分からない。 ===== 来年1月1日、FTA合意の有無に関係なく、イギリスはEU加盟27カ国との通商上の結び付きがヨーロッパで最も弱い国となる。EU市場への輸出においては、英企業も日本や韓国の企業と変わらなくなるだろう。 合意できても、平時に2つの自由主義市場経済による意図的な統合崩壊が起きるのは歴史的な異常事態。この経済の「デカップリング(切り離し)」は双方に痛みを伴うだろう。それでなくても、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、ヨーロッパの主要な国々の中でも最悪の景気後退に直面しているイギリスにとって、来年は悲惨な年になりそうだ。 From Foreign Policy Magazine