<映画館に観客が戻らない韓国は話題作がことごとく公開を取りやめNetflixにすがろうとしている> 新型コロナウイルスのパンデミックは最近になって、やっと各国で映画撮影再開や、公開日決定のニュースをちらほら聞くようになってきた。しかし、シネコンなど映画興業界はオープンしたのはいいものの、実際の集客に繋げるにはまだ少し時間がかかりそうだ。 今やエンターテイメント大国となったお隣の国・韓国では、先月の全国観客動員数が299万人と9月の観客動員数として過去最低を記録してしまった。 韓国映画振興委員会の発表によると、これは2019年の9月と比べ80%もの減少であり、また今年の1〜9月の観客動員数は、4986万人で4243億ウォンの売り上げだった。これも、前年比で71%もの売り上げ減少だという。 2019年と2020年の韓国映画観客動員数比較(KOBISデータより編集部作成) 韓国では、秋に旧暦のお盆である「秋夕(チュソク)」連休がある。この時期は、家族や友達同士で映画館に出かけることが多いため、例年は連休前から下半期の目玉となる大作映画が1週間ごとに封切される。今年は公開延期などで目玉作品が少なかったとはいえ、それでもこの観客動員の少なさは緊急事態と言える状態だ。 「背に腹はかえられず」劇場を捨てネトフリへ コロナの影響で、未だに多くの人が劇場へ出向くことに躊躇しているなか、このまま公開しても興業の失敗は目に見えていると、新たな道を探るべく、劇場公開を諦めネットフリックスでの配信に切り替える例も登場した。 まず、その戦略で一気に有名になったのが今年公開予定だった『狩りの時間』である。本来なら、韓国映画で初となるベルリン国際映画祭スペシャル・ガラ部門に招待され、今年2月、満を持しての韓国内公開のはずだった。しかし、ちょうどその頃から韓国でクラスターが発生し、その後4月末に劇場公開をせずネットフリックスで190カ国世界配信の道を選んだ。 この韓国映画史上初の決断は、映画業界内では大きな話題となった。『狩りの時間』制作会社リトル・ビッグ・ピクチャーズのクォン・ジウォン代表は、以前ラジオに出演した際、「韓国での公開作を抱えながらも困っている他の会社から多くの問い合わせがあった」と語っている。 配給会社がネトフリ行きをを決める例も 次に"劇場未公開ネトフリ行"の道を選んだのは、配給会社「NEW」である。今年公開予定でNEWが配給を予定していた新作『コール(原題:콜)』(監督イ・チュンヒョン、主演パク・シネ)は、韓国の有名な制作会社ヨン・フィルムが作ったスリラー映画で、制作時から話題となっていた。 本来なら3月公開予定で準備されていたが、7月を過ぎても映画館での上映に踏み切れず、最終手段としてネットフリックスでの配信を決断した。 さらに、第77回ヴェネツィア国際映画祭で招待作として選出されていた韓国映画『楽園の夜(原題:낙원의 밤)』(監督パク・フンチョン、主演オム・テク、チョン・ヨビン、チャ・スンウォン)も、受賞後にNEW配給で公開される予定だったが、こちらも今の観客動員の状況だと、劇場公開を諦めネットフリックス配信となるのが有力であると言われている。 ===== ジンクスを打ち破り大ヒットを期待された勝利号だが そして、今一番その行く末に注目が集まっているのが『勝利号(原題:승리호)』(監督チョ・ソンヒ、主演ソン・ジュンギ、キム・テリ)である。この作品は、メディアで紹介されるたびに"韓国映画史上初となる宇宙SF映画"、"韓国商業映画初のSF映画"という枕詞が付いてくる。 今、韓国映画は、世界中から注目を集めているが、意外にもSF実写映画(特に、未来や宇宙、ファンタジーもの)はヒットしないというジンクスがある。実際、これまでにもSFに挑戦した小規模作品はあったが、ことごとく失敗してきた。 そのうえ宇宙SFものは製作費もかかり、興行的な成功確率が低いため敬遠されがちだったが、ついに今年『勝利号』公開のニュースが飛び込んできた。 この作品、2092年の宇宙を舞台に宇宙ゴミ回収船「勝利号」の船員たちが、金儲けのために危険な取引に挑戦するという物語。ドラマ『太陽の末裔』で韓国をはじめアジア各国で人気を集めたソン・ジュンギの主演ということもり、今年一番のヒット作と期待されていた。 予告編が新しくなるたび、公開日が繰り下げられ...... もしこの映画が公開されてヒットすれば、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヒットで本格ゾンビ映画が韓国に根付いたように、国産SF映画も浸透し、今後製作数も増えるかもしれないと、映画ファンや業界関係者たちから多くの期待が寄せられていた。 『勝利号』の製作費は240億ウォンと言われている。日本で2021年1月公開予定の『新感染』の続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、かなりCGを多用していながら製作費は150億ウォンだ。たった95億ウォンで作られた『エクストリーム・ジョブ』は大ヒットで14倍の利益が出たことで有名である。こう比べると240億ウォンを投じた『勝利号』がいかに期待されている大作なのかがわかるだろう。 期待作らしく、本来は今年の夏休みの目玉作品として大々的に劇場公開される予定だった。しかし、ご存じの通り、コロナ・パンデミック発生で公開は中止され、次に旧暦お盆・秋夕連休の公開が嘱望されていたが、劇場状況は思ったより好転せず、さらに公開待機状態だった。ところが、今月に入り劇場未公開でネットフリックス配信に切り替えるのではないかと噂され始めた。 ただ、この『勝利号』がネットフリックスで公開されたとしても、ネットフリックスが、どれだけの金額で独占配信権を買い取るのか、それでどこまで資金回収できるのかにも注目が集まっている。映画『狩りの時間』の製作費は117億ウォンであり、かかった制作費が2倍以上違う。 ハリウッドがお得意のSFで大丈夫か? 一方で『狩りの時間』『コール』も、韓国のお得意なアクションやスリラージャンルだが、『勝利号』のような宇宙SFは、本来ならハリウッドの得意分野なので、ネットフリックスで公開されたときに見劣りしない出来になっているかも勝負どころといえる。 ちなみに、ネットフリックス行を決めた『狩りの時間』『コール』と、現在最もネットフリックス行に近いとされる『楽園の夜』の3作を見比べると、ネットフリックスの買い付け作品は、海外受賞歴や監督の知名度が重視されており、映画マニア層に響くかどうかが選定の基準になっている様子だ。ネットフリックスは、果たして『勝利号』の救世主となるのだろうか? かつて韓国では、レンタルビデオ用のパッケージに「劇場公開作」と大きく記されることがステータスだった。それほど、「映画館での公開」というブランドはパワーをもっていた。しかし、時代は変化し、世界的パンデミックの前では、劇場で公開されたかどうかなど、まったく意味をもたなくなってしまった。その映画が劇場で公開されたのか、いや、そもそも映画かテレビドラマかという意識すら、今後ますます薄れていくだろう。 ===== 5月に公開された予告編では夏公開だった『勝利号』 韓国映画初のSFでの大ヒットを狙った『勝利号』だったが、公開されないままネットフリックスに身売りするのか? 카카오페이지 / YouTube 劇場未公開でネットフリックス行きを初めて決断した『狩りの時間』 ベルリン国際映画祭スペシャル・ガラ部門に招待された作品にもかかわらず劇場公開を断念した『狩りの時間』 Netflix Korea / YouTube パク・シネのスリラー映画『コール』もネットフリックスへ コロナ第1波が収まって初のヒット映画となった『#生きている』に主演していたパク・シネだが、新作『コール』は劇場公開されず。 MOVIE&NEW / YouTube