<三峡ダムはおしまいだ、ダムが決壊すれば共産党もこれまでだ――でも、何も起こらなかった。中国国内・国外それぞれの「バズる」理由がある> (2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より) 長江沿岸を中心とした広い地域で大雨が降り、今年の中国は歴史的な水害に見舞われた。 半ば水没した街など、衝撃的な写真や動画は日本のネットでも注目を集め、「中国には世界最大の三峡ダムがあるのに、なぜこんな洪水に?」「大水害でダムは間もなく決壊するのでは」といった話に広がった。 単なる噂で終わらず、私のところにも「三峡ダム崩壊は大事件では? ぜひ執筆を」という依頼まで届いたほどだ。 せっかくの依頼だが、引き受けなかった。というのも、2009年の完成から10年余り、三峡ダム崩壊論はたびたび耳にしてもう飽きが来ていたからだ。 手抜き工事の影響でダムにひびが入っている、既に設計どおりの強度はない、土砂崩れが頻発し貯水量は減少している......。中国語のSNSでは毎年のようにこうした三峡ダム崩壊論がバズっている。 なかでも盛り上がったのが昨年だ。三峡ダムの堤体がぐにゃりと歪(ゆが)んだ写真が飛び交った(本誌特集の21ページ参照)。 中国のネットでは、三峡ダムはもうおしまいだ、ダムが決壊すれば多くの死人が出て中国共産党の支配もこれまでだと、鬼の首を取ったように騒ぐ人が少なくなかった。 水害被害は大幅に縮小した 本気でダムが決壊寸前だと信じていたというよりも、共産党批判のネタになるなら真偽はどうでもいいという人が多かったように思う。そもそも、さまざまな時事ネタを過大に騒ぎ立てて共産党を批判するのは2010年頃には中国のネットでは主流の「遊び」だった。 この「遊び」はネット検閲が強化されるにつれて下火になるが、ツイッターやYouTubeなど海外のサイトや、香港のゴシップメディア、さらには反中国共産党の法輪功系メディアなどではいまだに定番のネタではある。 海外在住の華人・華僑にはこうしたゴシップを楽しんでいる人は多い。検閲がある中国国内でも、海外のサイトにアクセスしたり、仲間内のグループチャットで回し読みしたりして、ゴシップに接している人は相当数に達するだろう。 そうしたゴシップにはさまざまな種類がある。古くは「劣悪なセメントで造られた中国の高速鉄道は間もなく崩壊する」といった話から、最近では「新型コロナウイルスは武漢市の実験施設から......」というものまで。 ===== 秀逸なゴシップは出所不明のままネットミーム(コピーされ拡散される画像や情報)として広がっていく。そして、ついには翻訳されて日本でも出回り、やはり中国はダメな国だと見下し、引き離された国力の差に気付かないようにする「麻酔」として使われているのだ。 怪しげな中国ニュースは全てウソ、中国共産党は透明性の高い政治を行っています......などと言うつもりはこれっぽっちもない。隠された情報は多いし、怪しげなニュースの中に本当の特ダネが眠っていることもあるだろう。 ただ、そうした可能性に固執するばかりでは見えてこないものもある。 例えば今年の水害だ。4000人超が死亡した1998年の水害に匹敵すると言われたが、9月頭の時点で死者・行方不明者数は271人とはるかに少ない。 ダムや堤防、都市排水といった治水インフラは洪水を防げなかったと批判されているが、被害規模は着実に縮小していることは注目に値する。また、日本のJアラートと同様の携帯メールによる避難勧告や警告も、人工知能(AI)で水害予測といった派手なソリューションではないものの、着実な効果があったと評価されているようだ。 「世界一のダムに決壊の危機が⁉」という強烈な見出しばかりに注目し、中国の着実な進歩を見逃す愚行を繰り返してはならない。 <2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾か」特集より>