<金正恩の狙いは、反日的な意見を持つ韓国の左派勢力を北朝鮮に引き付けることにある> 北朝鮮の対韓国宣伝サイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は24日、韓国の文在寅大統領が日本の菅義偉首相の就任を祝う書簡を送ったことは、「民心をないがしろにする反逆であり売国である」と非難する論評を掲載した。 文在寅氏は先月16日、菅氏に対して首相就任を祝い、日韓関係の発展を呼びかける書簡を送った。青瓦台(大統領府)が明らかにしたところでは、書簡には「韓国政府は菅新首相や新内閣とも積極的に協力し、過去の歴史問題を賢明に克服し、経済・文化・人的交流など、様々な分野で未来志向的かつ互恵的に実質的な協力を強化していく」とする内容が込められたという。 これに対して論評は、「日本はわが民族に数えきれない不幸と苦痛を強要した不倶戴天の敵だ。その数多くの罪悪の中には昨年、日帝強制徴用被害者賠償判決に対する報復として、南朝鮮に対し白昼強盗的な輸出規制措置を取り、南朝鮮経済に打撃を加えた事実もある」と言及。これまで文在寅政権が表してきた「克日」や「反日」は、「民心を欺くための芝居に過ぎなかった」と主張している。 北朝鮮のこのような主張は、これまでにも見られたものだ。 <参考記事:韓国専門家「わが国海軍は日本にかないません」...そして北朝鮮は> その目的はどこにあるのか。韓国と日本の反目を煽り、自国に有利な環境を作ろうとしているのだろうか。 それもあるかもしれないが、北朝鮮のこうした言動には、より重要な目的が込められていると筆者は考える。 それは、反日的な意見を持つ韓国の左派勢力を自らに引き付けることだ。文在寅政権それ自体も左派ではあるが、やはり政権を運営するためには、米国との同盟関係を重視せざるを得ない。金正恩党委員長がどのようなラブコールを送ろうとも、少なくとも今はまだ、韓国の政権は米国の意向を完全に無視して南北関係改善にまい進することはできないのだ。 韓国政府のそうした行動をけん制するために最も有効なのは、政権の支持勢力を味方につけることだろう。 もちろん韓国の左派とて、大多数の人々は北朝鮮の主張を丸ごと受け入れはしない。しかし一部には、共感してしまう部分がないわけではない。極端な反日に振れている人の中には、北朝鮮の方に「民族の正統性」なるものを見出してしまう空気もあるのである。 <参考記事:「日本は高度に軍事大国化」...北朝鮮が「いずも」空母化で見せる不安> [筆者] 高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) 北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。 ※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。