<今年7~9月の自殺者数の前年との比較を見ると、若年女性がコロナ禍で苦境に陥っていることがわかる> コロナ禍が始まってから半年以上が経過した。学校の一斉休校、緊急事態宣言による飲食店の営業自粛、それによる従業員の雇止め、巣ごもり生活など、国民の生活に甚大な影響を及ぼしている。 対面でのやり取りの見直し、テレワーク、地方移住など、プラスの変化を促す影響もあるが、やはりマイナスの影響のほうが大きいと言わざるを得ない。失職、減収、孤独といった生活不安だ。社会に暗雲が立ち込めていることは、自殺の統計量で可視化できる。自殺は個々人の多様な動機で起きるが、それを集積すると、社会の状態を反映した傾向性が見えてくる。 今年の自殺者数を見ると、予想に反してというか、6月までは前年を下回った。だが7月以降は前年を上回り、今年の7~9月の自殺者数は5477人で、前年の同期間より419人増えた。コロナ禍が長期化するなか、貯蓄が底をついた、延々と続く孤独に耐えられなくなったなど、いろいろ想像をめぐらすのはたやすい。 ここまでは新聞で報じられたことだが、次に問うべきは、社会のどの層で自殺が増えているかだ。この点を掘り下げることで、実態をより可視化できる。<表1>は、7~9月の自殺者数が前年と比してどう変わったかを、性別・年齢層別に見たものだ。 合計欄をみると、自殺者が増えているのは女性で、男性はほとんど変化がない。コロナ禍の影響を被っているのは、主に女性であることが分かる。女性は非正規雇用が多いので、簡単に解雇され生活苦に陥った、在宅している夫からのDV被害、巣ごもり生活で望まない妊娠をした、といった事情が想定される。 年齢層別にみると増加率は若年層で高く、女性の10代は1.8倍の増加だ。<表1>には記してないが、女子高校生に限ると2.8倍にも増えている(16人→45人)。家庭内での性暴力被害によるのかもしれない。巣ごもり生活のなか、家族や交際相手から被害を受けてしまう。親密な間柄なので被害を訴えにくい。女子生徒の妊娠相談が増えているのは、メディアでも報じられている。 将来展望の悪化もあるだろう。SNSを見ると「大学進学を諦めるように言われた」という書き込みがあるが、家計の悪化により、将来展望に蓋をされた生徒もいるはずだ(とくに女子)。若者の場合、見通しの暗さと自殺が非常に強く相関することは前に書いた(「コロナ禍による将来展望の悪化が若者のメンタルを蝕んでいる」本誌サイト2020年9月16日掲載)。 若者が馴染んでいるSNSを介して、相談体制の網を張り巡らせることが急務だ。最悪の行動に走ってしまうか否かは、当人がどれほど社会に包摂されているかによる。そうした「インクルージョン」はリアルである必要はなく、デジタルを介したもの(バーチャル)でもいい。コロナ禍で対面接接触が制限されているなか、後者の重要性が増している。 ===== データで分かるのは、コロナ禍の闇は社会の特定層に集中していることだ。自殺対策と言うと、中高年層や高齢層が主な対象とされがちだが、若年層にも目を向けなければならない。当然、対策の中身も大きく異なる。 若者は、生存権を守る砦の生活保護を受けにくいのも問題だ。22歳の女性が生活保護申請をしたところ、「親に頼りなさい」と役所に門前払いされたという(HARBOR BUISINESS Online、2020年9月20日)。22歳にもなれば、親と別居し自立するのが当たり前と考えられている欧米ではあり得ないことだろう。 妙な思い込みから、福祉の利用をためらう者もいる。店員に刃物を突き付けて現金を脅し取ろうとした、30歳女性の記事が話題になった(西日本新聞、2020年10月22日)。コロナ禍で失職し、路上生活を続けた末の犯行だが、「自分は若くて健康なので、福祉に頼ってはいけない」と考えていたという。 こういう事情からか、コロナ禍で失業者や自殺者が増えているにもかかわらず、生活保護受給者は増えていない<図2>。 平らな線は何とも無情だ。生存権を守る砦の生活保護が機能せず、自助・自己責任で切り捨てられているように思える。よく言われるように、日本の生活保護の捕捉率は低い。 ちなみに、福祉は「頼る」ものではない。図書館を使うとか、タクシーを使うのと同様、困ったらいつでも気軽に利用するものだ。福祉については、基本的な理念のみならず、制度運用についても誤った考えがはびこっている。学校で正しい知識を教えないといけないが、現行の社会科の教科書をみると手薄な感が否めない。実際に使うことはまれでも、「いざとなったら、こういう制度がある」と知っておくだけでも、心の安泰は得られるものだ。 <資料:厚労省『地域における自殺の基礎資料』、 総務省『労働力調査』、 厚労省『被保護者調査』> =====