<この大統領選の最も重要なポイントは、有権者の半数近くが嘘にまみれたトランプ政治を支持したという衝撃的な事実だ> 米大統領選で最終的にどちらが勝とうと、最も重要なポイントは大接戦になったことだ。世論調査が予想していた民主党候補ジョー・バイデン前副大統領の地滑り的勝利とは程遠く、両陣営がハラハラしながら見守る展開となった。 問題は、こうした結果がアメリカにとって何を意味するかだ。ニュース番組のコメンテーターは、現職の共和党候補ドナルド・トランプが意外なしぶとさを見せた理由として、有権者のロックダウン(都市封鎖)疲れを挙げたり、(現実はどうあれ)トランプのおかげで景気が良くなったと有権者が感じていたためだ、などと論じたりしている。 だが、そうした解説では見落とされている点がある。最終的に誰が勝とうと、最も重要なのは、アメリカの有権者の半数近くが、白人至上主義の常習的な嘘つきで、この100年で最も深刻な公衆衛生上の危機に対して目を覆うばかりの無様な対応をした現職大統領を支持した、という事実だ。 前回の勝利はまぐれではなかった トランプの紛れもない冷酷さ、女性蔑視、政府と世界に対する無知あるいは興味の欠如、フェアプレーの精神や法の支配といったアメリカの伝統的な価値をあざ笑う態度、長年世界の平和と繁栄に貢献してきた国際機関をぶち壊そうとする執念。 アメリカの有権者の半数近くが、こうしたトランプの欠陥に目をつぶるか、むしろ諸手を挙げて歓迎したのだ。 2016年には、一部の共和党支持者はトランプをよく知らないか、大統領の責務を負えば少しはまともな政治家らしくなるだろうと期待して、トランプに投票した。 だが今回は違う。トランプがどういう人間か、誰もがはっきり知っていた。 トランプは今回、2016年よりも多くの票を獲得した。その内訳を見ると、前回よりもラティーノ(中南米系)と黒人の支持が増えたことが分かる。 おまけに、連邦議会上院選では共和党が過半数数議席を維持する見通しだ。そうなると結論は1つ。2016年のトランプの勝利はまぐれ当たりではなかった。今回の大統領選で誰が勝とうと、アメリカはもはや「トランプのアメリカ」と化しているのだ。 ===== なぜか。まず、トランプと共和党が強さを見せつけたからには、仮に敗れたとしても、トランプは表舞台から降りないし、共和党は彼を見捨てないだろう。投票前には共和党の「トランプ主義」は終わりを迎えているように見えた。共和党には改革が必要だ、あと4年トランプ時代が続けば、共和党はダメになる──ひそかにそう危惧する共和党議員が続々と現れていた。ジョン・コーニン上院議員のような熱狂的なトランプ派ですら、トランプと距離を置こうとしていた。だがトランプとトランプ派の共和党議員が予想外に多くの票を獲得した今、共和党がすぐにもトランプとトランプ主義を捨て去ることは想像しづらくなった。 共和党と半数近い世論の支持を得たトランプはさらに自信をつけ、大統領の立場であれ、野党のリーダーかフリーのツイッター投稿者、あるいはメディアのスターの立場であれ、何千万人もの関心と支持を集め、その影響力を民主党への嫌がらせと妨害に利用するだろう。そして過去4年間やり続けてきたように、憎悪に満ち、事実に反する「われわれVS専門家を含む彼ら」の対立をあおるメッセージを発信し続けるだろう。共和党内の反トランプ派、つまり、まともな統治や民主主義の手続き、国内外の諸機関の重要性を守ろうとする、かつての党主流派は党内で冷遇されるか、共和党から出て行くこととなる。 ねじれ議会がバイデンを縛る その結果は悲惨だ。トランプが勝つか、負けても共和党が上院の過半数議席を維持すれば、良くても過去4年間の米政府の機能停止状態が続き、場合によってはさらに悪化するだろう。バイデンが大統領になっても事態の好転は期待できない。上下両院を味方につけた大統領でさえ、就任後2年間はせいぜい1つか2つしか大きな成果を上げられず、有権者を失望させて中間選挙では与党が負けることが多い。たとえバイデンが勝利したところで、民主党が上院の過半数を取らなければ(現時点ではその見込みは薄い)、中間選挙を待つまでもなく、就任後ほどなくして支持率低迷に苦しむことになるだろう。 こうなると先行きは暗い。バイデンはアメリカ政治を変えようとするだろうが、バラク・オバマ前大統領時代を振り返れば分かる。共和党が「何でも反対党」にとどまる限り、政治家としての長いキャリアを通じて超党派の合意づくりに努めてきたバイデンでさえ、共和党と調整を進めて政策を実現できる見込みはほぼゼロだ。 ねじれ議会が続けば、バイデンは手足を縛られたも同然。新型コロナウイルス対策は大統領の権限を行使すれば一定の改善は可能だが、経済政策は議会の承認なしにできることは限られている。いずれにせよ重要課題で成果を上げることは望み薄だ。 ===== バイデンがコロナ禍で困窮した企業の救済など目玉政策の予算案を通せなければ、市場は混乱し、金融不安が広がるだろう。政府のあらゆる部門が一丸となって有効な政策を実施しなければ、コロナ禍がさらに悪化するのは目に見えている。 つまりホワイトハウスの主が誰になっても、「トランプのアメリカ」は続き、この国の機能不全は解消されないということだ。今回の大統領選は有権者がトランプ政治にはっきりとノーを突きつける最後のチャンスだったが、そのチャンスは生かされなかった。 自分たちを救うことに失敗した民主党政権への人々の怒り、あるいは外出規制で感染拡大を防ぎ、人々を救うために経済を停滞させる新しい民主党政権への共和党の怒りが、既に深まっているこの国の分断をさらに広げ、超党派の協力の望みをさらに砕き、場合によっては暴動すら招きかねない。 対立と分断を和解へと導き、アメリカを1つにまとめる政治を行う──そんなバイデンの構想は、今では見果てぬ夢と映る。オバマも同じことを目指したが、それによって共和党はさらに頑なになり、「オバマはインドネシア生まれのイスラム教徒だ」などという作り話がばら撒かれ、荒唐無稽な陰謀説を信じるアメリカ人が増え、その動きがQアノンの誕生にもつながった。 トランプの醜悪なアプローチがアメリカの有権者の半数近くの支持を勝ち得た今、バイデンが大統領になったところで、違いが分かるほど事態を改善できるとはとても思えない。トランプが再選されれば、改善どころか、悪化の一途をたどるのが関の山だ。 From Foreign Policy Magazine