<新型コロナのパンデミックで世界の映画界が停滞した2020年。アジアを代表する映画祭は何を見せてくれたのか> 今年はコロナウィルス感染拡大で、これまでに前例のないほど混乱の1年となった。世界の映画祭は次々と開催延期や中止、もしくは異例のオンライン開催を発表せざるを得ない状態だった。 世界3大映画祭の一つ「カンヌ国際映画祭」が5月に開催されるか否か、世界中から注目されていた頃が今となっては懐かしい。結局、今年のカンヌは開催中止となり、6月にカンヌフィルムマーケットのみオンラインで行われた。9月に行われたカナダの「トロント国際映画祭」は、劇場定員を50人に減らし、マスクを義務化、オンラインとオフライン併用した上映での小規模開催で行われた。 アジアの映画祭も中止や延期 アジアの映画祭も軒並み中止や延期を発表した。上海国際映画祭は、6月から7月末に変更され、4月の香港国際映画祭も規模を縮小した形で開催。どちらもオフラインを極力避ける方向でイベントスケジュールが組まれた。 国際映画祭の楽しみといえば、各国からやってくるゲストだが、今年はコロナによる感染対策のため、国外はもちろん国内のゲストの訪問も少なく、オンラインでの舞台挨拶があればいい方で、基本的に映画の上映のみを中心に開催された映画祭がほとんどだった。 そんななか、今やアジアを代表する映画祭に成長した「釜山国際映画祭」は今年どうなるのか、各国の映画関係者たちからは注目が集まっていた。映画祭期間中に行われるフィルムマーケットでも、アジアを中心とした映画の買い付けには、下半期の重要な役割を果たす市場である。 中止か開催か、ギリギリまで憶測が飛び交っていたが、結果予定より2週間遅らせ、10月の21日より9日間いつもより小規模での開催に踏み切った。映画祭の期間中に行われるイベントや企画は中止されたが、映画界に元気がない今、多くの映画ファンに喜ばれ、成功的に幕を閉じた。 今回は、そんなコロナ禍での異例の開催となった今年の釜山国際映画祭の様子を見てみよう。 コロナ禍でも客席を埋めた映画ファン 今年は、メイン会場であるシネコン「映画の殿堂」6スクリーンで68カ国から192作品の映画が公開された。ちなみに昨年は、85カ国303作品の上映だった。累計観客数も1万8311名と、昨年の18万9116名と比べると約10分の1となってしまった。 だが、上映館数と数席飛ばしの客席数を考えれば納得がいく。それどころか、使用座席の稼働率では、なんと同映画祭史上最高の92%を記録し注目を集めた。 コロナ対策でも数々のアイデアで世界を驚かせた韓国だったが、映画祭の開催でも数々のアイデアが話題となった。 まず、映画祭のチケットは、完全オンラインとなり人との接触無しでのチケッティングが行われた。元々韓国ではチケットレスが進んでいたため、スマートフォンでの発券システムも問題なく受け入れられたようだ。 ===== オンラインならではの舞台挨拶を実現 今回の釜山映画祭で、特に海外から評価が高かったのが舞台挨拶である。他の映画祭と同様、オンラインでの舞台挨拶を中心に行われたが、釜山では監督や出演者との質疑応答をネットからオープンチャットでも質問を受け付けた。 通常は、映画館の会場でスタッフがマイクを渡し観客が質問するが、今回のようなチャットでの質問なら大勢の人の前で緊張しながら発言する必要もなく、気軽に質問できるため、映画への意見や質問がたくさん飛び交ったという。 さらに画期的だったのは、ベトナムやタイなど、制作された国の劇場と同時に上映を開始し、終了後には両国の観客がオンラインで一緒に舞台挨拶に参加できるという取り組みだ。国境を越えた釜山映画祭として各国の映画祭チームで話題となった。 今年は、舞台挨拶が135回行われ、そのうちオンラインが90回。実際にゲストが釜山を訪れステージ上で行われたものが45回だったそうだ。今回のオンライン舞台挨拶の成功は、今後コロナが収まっても取り入れられ、世界中の観客と作り手とをつなぐシステムになるかもしれない。 また、映画祭中に行われるフォーラムについても、ユーチューブを利用したオンラインで行われた。観客からの質問は、舞台挨拶同様チャットから可能にしたことで、手軽さからオフライン開催時よりも多くの質問が寄せられ、トークも盛り上がったという。開催後1週間オンライン上で見ることが可能にした点も好評だったそうだ。 フィルムマーケットも前年以上の参加社 さて、冒頭にも書いた通り、釜山映画祭のフィルムマーケットは、アジア映画を売り買いする映画関係者にとっては来年以降公開する作品の買い付けに重要な市場である。釜山は今年、他の映画祭フィルムマーケットと同様にオンライン開催を発表していた。 しかし、オンライン形式のフィルムマーケットは、各国のバイヤーやセラーからは不評なのだ。確かにオンライン会議なら今どきどの会社も行っており、わざわざマーケット登録費を払ってまで参加する意味があまりないというのが本音である。 釜山映画祭のマーケットではどうなるかと思いきや、意外にも去年より参加社が増えて、20カ国205社が参加し成功的に終わったという。 細かい改善部分はあったものの、オンラインとオフラインを上手に使った映画祭が出来上がった。また、将来コロナが収束しても、今後の映画祭にも生かせるアイディアがたくさん生まれた点は、さすがである。 ===== 日本映画の活躍も 釜山映画祭といえば、毎年たくさんの日本映画を上映し、さらに人気俳優や監督たちが大勢訪れるとして有名だ。今年は当然日本からは訪問できなかったが、それでも日本勢の活躍が目立った。 まず、春本雄二郎監督の『由宇子の天秤』が、ニューカレンツアワードを受賞した。これは、新人監督コンペティション部門の最高賞で、長編映画2作目までの監督に送られる賞だ。 さらに、釜山国際映画祭と同時開催となった「アジア・フィルム・アワード」では、新人監督賞には、『37セカンズ』を撮ったHIKARI監督が選ばれた。この賞は、2007年より香港国際映画祭、釜山国際映画祭(その後2013年より東京国際映画祭)が、アジア映画を対象に選ぶ映画賞のことである。 黒沢清監督に「歴史問題」の質問も また、韓国でも人気の黒沢清監督の新作『スパイの妻』の上映と、オンラインでの記者懇談会が行われ盛況だったと韓国メディアは大きく報じた。今年9月に開催された「第77回ヴェネツィア国際映画祭」にて、最優秀監督賞にあたる銀獅子賞を受賞した話題作であることはもちろんだが、第2次大戦中の旧日本軍731部隊を扱った映画であることから、韓国の記者からは、戦争犯罪に関して「日本がした過去を指摘するというメッセージなのでしょうか?」といった質問も飛び出した。 これに対し黒澤清監督は、「政治的なメッセージを入れた映画ではない。時代と結合したエンターテイメント映画を作ろうとした」としながら、「良心的に受け入れたら嬉しい。当時をまじめに描こうとした」と答えている。 韓国の記者とのオンライン懇談会は活気に満ちたものとなり、当初1時間の予定が30分も延長して1時間半行われたそうだ。 毎年、開閉幕作品はその映画祭を象徴する作品が選ばれるため、どんな作品が取り上げられるか注目が集まるものだ。今年の閉幕作には日本のアニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』が上映された。 『ジョゼと虎と魚たち』と言えば、2003年公開の犬童一心監督による実写版は、韓国でも上映され多くの韓国民に愛される映画となっている。その後、主演を務めた2人も韓国で注目が集まり、妻夫木聡は日韓合作映画『ノーボーイズ ノークライ』に、池脇千鶴は韓国映画『おいしいマン』にそれぞれ主演で起用されている。 今年の釜山映画祭は、規模の縮小はあったものの、ITに強い部分やアイディアをやってみる精神など、韓国らしさを生かしながら開催された。日本では10月末より11月9日まで「東京国際映画祭」が開催されているが、映画祭・フィルムマーケット共に、こちらはどのような成果を見せてくれるか楽しみである。 ===== コロナ禍のなか開催された釜山国際映画祭 舞台挨拶やフィルムマーケットをオンラインにしてウィズコロナ時代の映画祭を模索した釜山国際映画祭 MBC Busan / YouTube