<科学者たちを「政治的な圧力」から守るために米政府の補助金は受けず、研究開発費は全額自社で賄ったという資金力と矜恃> 新型コロナウイルスのワクチン開発に期待がかかる米製薬大手ファイザーは11月9日、ワクチンの開発にあたって、米ドナルド・トランプ政権が推し進める「ワープ・スピード作戦」からの助成金は受け取っていないことを明らかにした。 ワープ・スピード作戦は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃にトランプ政権が発足させた、ワクチン開発・供給の迅速化を図るための計画。契約企業と協力の上、2021年1月までに安全かつ効果的なワクチンを開発し、3億回分の供給をめざす内容だ。 ファイザーは同計画の下、少なくとも1億回分のワクチンを約20億ドルで政府に供給することに同意しているが、研究開発費については自社で賄っていると強調した。 同社の広報担当者は9日、本誌に宛てた声明の中で、「ファイザーはワープ・スピード作戦の協力企業の一員として、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチン供給を目指していることを誇りに思っている」とした上で、次のように述べた。「当社は政府との間で、前払いでワクチンを提供することに合意しているが、米生物医学先端研究開発局(BARDA)からの研究開発のための資金提供は受けていない」 外部からの圧力にさらされないために ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は9月、CBSニュースのインタビューに応じ、研究開発のための資金提供を受けなかった理由について、科学者たちを政治的圧力から「解放する」ためだと語っていた。 ワープ・スピード作戦の一環としてBARDAから資金提供を受けることができるのに、なぜファイザーは自らリスクを負って研究開発費を負担したのか。ブレナンからのこの質問に、ブールは次のように答えた。 「新型コロナウイルスのワクチン開発に、当社は少なくとも15億ドルを投じている。開発がうまくいかなかった場合、それで会社が潰れることはないだろうが、痛手であることは確かだ。それでも資金提供を受けないことにしたのは、当社の研究員たちが一切、政治に縛られないようにしたかったからだ」 ブーラはブレナンに、研究員たちが「科学的な挑戦」だけに集中できる環境を確保し、ファイザーとして外部からの介入や監視にともなう圧力にさらされることなく、ワクチンの開発を進めたかったとも語った。 「第三者から資金提供を受ければ、そこには必ず条件がついてくる。彼らは私たちの開発の進捗状況を確認したがり、今後の計画を知りたがる。報告を求めてくる」と彼は述べ、こう締めくくった。「それに、ファイザーが政治に巻き込まれるのを避けたかった」 ===== ファイザーは9日、ドイツの製薬会社ビオンテックと共同で開発しているワクチンの臨床試験について、暫定的な結果を発表。数万人が参加した最終段階の臨床試験で、新型コロナウイルスの予防に「90%以上の有効性」が確認されたと明らかにした。 ファイザーが発表した時点で、この結果について、専門家による相互評価の対象となる出版物での報告はなされておらず、科学者たちからはさらに詳しい情報の開示を求める声も上がっている。 ファイザーでは、さらなるデータを収集した上で、11月の第3週にも米食品医薬品局(FDA)に対して緊急使用の許可を申請する計画だ。 トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領は、この発表を歓迎。ペンスはツイッターに「トランプ大統領が築いた官民のパートナーシップ」が功を奏したとのメッセージを投稿した。 しかしファイザーのワクチン開発責任者であるキャスリン・ジャンセンはニューヨーク・タイムズ紙へのコメントの中で、トランプ政権のワープ・スピード作戦とは距離を置く姿勢を示した。 「我々はワープ・スピード作戦の一部ではない」と彼女は同紙に語った。「当社はこれまで、米政府からもほかの誰からも、資金提供を受けてはいない」 ファイザーはその後に発表した声明の中で、ジェンセンの発言は、「研究開発のための投資は全額、ファイザーがリスクを冒して負担した」事実を「強調した」ものだと説明した。 <追記>新型コロナウイルスの早期の開発は、感染予防より経済を優先するトランプ政権の目玉政策だった。大統領選挙前にはトランプは、ワクチンは大統領選挙前か直後にもできると繰り返し、選挙目当てと批判されていた。