<うつ病と燃え尽き症候群は同じ? 一度なったら何度も再発する? 抗うつ薬は効く? ドイツで著書が高く評価される臨床心理士のクラウス・ベルンハルトは、最新の科学的知見に基づき、従来の治療法に異議を唱える。うつ病や燃え尽き症候群も、自分で断ち切ることができるというのだ> 「コロナ禍」という表現がもはや日常を指すものとなりつつある今、いつまでも先行きが見通せないことに大きな不安を抱えている人、あるいは長年にわたる不安障害に苦しんできた人たちから、大きな支持とたくさんの感謝が寄せられている本がある。 脳科学に基づく画期的なトレーニング「ベルンハルト・メソッド」によって、不安を自分の手で解決することを説いた『敏感すぎるあなたへ――緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』(クラウス・ベルンハルト著、平野卿子訳、CCCメディアハウス)だ。 2018年に出版された邦訳はアマゾンで80以上の評価が付き、星5つ中の4.2という高い評価。ドイツ語の原書に至っては、ドイツのアマゾンで1000以上の評価、星4.4となっている(参考記事:暴露療法は逆効果、不安を自分で断ち切るドイツ発祥の革新的メソッドとは?)。 著者は最新刊『落ち込みやすいあなたへ――「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』(同)で、うつ病や燃え尽き症候群も自分で断ち切ることができると説く。 そのためにもまずは、あなたがうつなのか、それとも燃え尽き症候群なのかを正確に区別することが重要だと強調する。原因がまったく異なるこの2つに対し、いまだに見当違いな治療が広く行われている上、特に後者には抗うつ薬はほぼ意味がないのだという。 原因を突き止めようとせず、症状だけを抑え込もうとしてはいけない 不安やパニック、うつや落ち込みには脳が関わっている。ヒトの脳については、かつては成人した後は一生変わらないとされていたが、現在では、死ぬまで変わり続けることが分かっている。言い換えると、脳を書き換えることで、人は死ぬまで変わることができるのだ。 臨床心理士である著者は、こうした最新の科学的知見に基づき、従来のやり方がいかに的外れかを指摘する。その上で、実践的で効果の高い療法を提唱し、多くの人が健全で健康な日々を取り戻す手伝いをしている。 そんな著者自身、若い頃に深刻なうつ病に苦しんだ経験を持つという。さらに、40代になってから重度の燃え尽き症候群になったことも告白している。どちらの場合も医師に勧められた療法が合わず、自分の直感を頼りに落ち込みから抜け出したという。 著者のように、うつ病や燃え尽き症候群から抜け出すことができた人はたくさんいる。一方、さまざまな治療法を試しても効果がないという人も多く、また、一度なったら何度でも再発すると言われることもあるが、「決してそんなことはない」と著者は断言する。 時には、ある食品を控えただけでうつが完全に消えた例もあるというが、多くの場合、原因はひとつではなく、数多くの小さな誘因が複雑に絡み合っている。それらは、個別に見ると無害であることが多いため、治療において見落とされやすいのだ。 ===== kitzcorner-iStock. 従来の(そして現在でも多く行われている)治療では、そうした本当の原因を突き止めようとせず、ただ症状だけを抑え込もうとする。だが、それでは家が火事になって燃えているときに、煙探知機の警報音だけをオフにするようなものだと著者は指摘する。 あなたは悲観主義か完璧主義か――うつと燃え尽き症候群の違い 著者によれば、うつ症状でカウンセリングに来る人は、2つのグループに分けられる。一方は、うつ病の人。もう一方は、燃え尽き症候群を経てうつになった人だ。この違いを見ずに薬だけを処方する医師もいるが、著者曰く、これは早期回復の極めて重要な手がかりだ。 いきなりうつになる人と、燃え尽き症候群からうつになる人とでは、考え方がまったく違うという。前者は、根拠のない悲観的な考え方を意図的にする傾向にあり、後者は、どちらかと言えば完璧主義。なかには、これら2つの要素を同じくらい持つ人もいる。 意図的な悲観主義になってしまうのは、過去の経験から前向きな考え方ができないからだ。ある期間は仕方がないとしても、それが長く続くと、脳はネガティブな思考ばかりが得意になり、ポジティブに考える力が低下してしまう。脳の構造から変わってしまうのだ。 一方、完璧主義者はいつも「時間が足りない」と感じている。そうやって自分を追い込んだ結果、やがて燃え尽きる。だから、そこからうつに移行することには、実は重要な役割がある。このうつは、言ってみれば、心身を強制的に休ませるための「緊急停止スイッチ」なのだ。 うつ病には、このように燃え尽き症候群の結果として起きるものが多いと著者は説明する。燃え尽き症候群には抗うつ薬は効果がないどころか、むしろ回復を遅らせる。重要なのは、そうなってしまった原因を知ることであり、多くの場合、それは「思い違い」なのだという。 ただし、燃え尽きてうつになる→うつの間に回復→また燃え尽きてうつになる......というサイクルを繰り返すと、双極性障害(いわゆる躁うつ病)になる。ダヴィンチ、ナポレオン、チャーチル、リンカーンなど、この障害を持っていたとされる偉人は多い。 近年うつ病が増加している要因は「抗うつ薬」にある? うつ病や燃え尽き症候群の原因は多岐にわたっており、精神的なものだけでなく、身体の不調から来ている場合や、何らかの栄養素や薬、アルコールが影響していることもある。本書では、それぞれの原因に合わせて、そこから抜け出すためのヒントが紹介されている。 ===== それと同時に、本書は、薬物療法における一律的な対症療法を批判する。実際、同じ種類の薬が、うつ病や燃え尽き症候群だけでなく、摂食障害や睡眠障害、椎間板ヘルニア、ストレスによる膀胱機能障害など、多くの精神的・身体的不調に処方されているという。 だが、うつ病というのは、さまざまな要因が相互に影響を及ぼすことで発症するものであり、心と体を一体として見ないことには一向に抜け出せないと著者は説く。確かに重度の場合には薬が必要だが、それでも服用は数カ月間だけで、うつ病は基本的に薬で治療する必要はないのだという。 また、うつ病の原因は脳内のセロトニンやノルアドレナリンの不足だと言う医師がいまだにいるが、うつ病を示す脳内物質はない。うつ病の人にセロトニンが欠乏しているという科学的根拠は一切なく、幸せとセロトニン濃度との関係も一度も証明されていないという。 したがって、これらの物質を操作する抗うつ薬にはほとんど意味がなく、そもそも「抗うつ薬」と呼ぶことが間違っていると指摘する医師もいる。さらに著者は、近年うつ病の患者が劇的に増加しているのは、これらの薬が大量に投与されたからではないかとも述べている。 「どうか的を射たセラピーを」著者のメッセージ 「どうか的を射たセラピーを」――これは著者が一貫して主張している点だ。心理療法や生活環境を変えることの他にも、有効な方法はたくさんある。太陽の下で運動するだけで良くなる人もいるという。 さらに本書には、脳を支配している「思い込み」から抜け出し、脳を新たに再起動することで、落ち込まない自分になるためのトレーニングの他に、やっぱり落ち込んでしまったときに素早く克服するための簡単なテクニックも用意されている。 著者は言う――「いずれにせよ、医学の歴史において、実証されていた方法があとになって間違っていた、いやそれどころか有害であることがわかったケースは、決して珍しいことではありません」。 そう言われると、果たして何を信じればいいのかという気にもなるが、前作に続き本書の日本語訳を手がけた平野卿子氏は、次のように書いている。 (前略)いまさらのように感じたのは、自分の身を守るのは自分しかいないということです。けれどもそれは、まわりに助けを求めないということではありません。他人に迷惑をかけなくないからと、苦しみを隠してはいけない。 激変した日常に誰もが振り回された2020年。「コロナうつ」という言葉も登場しているが、その一方では、今まさに燃え尽きようとしている人々も多いはずだ。 本書で紹介されているのは「小さな一歩」ではあるが、それは間違いなく、晴れやかな日々を取り戻す一歩となるだろう。 『敏感すぎるあなたへ―― 緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』 クラウス・ベルンハルト 著 平野卿子 訳 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます) 『落ち込みやすいあなたへ―― 「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』 クラウス・ベルンハルト 著 平野卿子 訳 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)