<本部機関の上級ポストは欧米人に独占され、途上国出身者には平等なチャンスが提供されていない──世界で最も多様性に富んだはずの組織内部で不平等の実情が明らかに> 誰もが平等で、人種や民族で差別されない世界を目指す。それが国連の使命。だからこそ世界各地の民族独立運動を応援し、アメリカでは黒人の公民権運動を、南アフリカではアパルトヘイト(人種隔離政策)反対闘争を支援してきた。 しかし今、人種的な正義を求める運動が世界中で盛り上がるなかで、国連内部のお粗末な実情が明らかになってきた。職員、とりわけ幹部職の採用・登用に当たって、途上国の出身者に平等なチャンスが提供されていないという。 193の加盟国を抱える国連は、世界で最も多様性に富んだ組織の1つと言える。しかし批判的な人たちに言わせれば、実は国連自体が多様性を欠いている。 国連の職員で最も多いのは今もアメリカ人だ。ドナルド・トランプ米大統領は国連におけるアメリカの影響力低下に繰り返し不満をぶつけてきたが、昨年4月に公表された職員構成に関する報告によれば、今も全職員の6.75%に当たる2531人がアメリカ人だ。イギリスやフランス、イタリア、スペインなどの欧州諸国からも、人口比で見ると不当に多くの職員が採用されている。 途上国出身の人も現場レベル、とりわけコンゴ民主共和国やマリのような紛争地帯では多数が採用されている。しかし待遇がよくて地位も高い本部職員(ジュネーブの欧州本部職員を含む)に関しては、圧倒的に欧米系が多い。 最悪なのは自然災害や紛争などによる非常時の人道支援を指揮する人道問題調整事務所(OCHA)だ。OCHAは1991年に国連総会の決議で設立され、国連の各種機関の支援活動を統括している。 差別主義は終わっていない OCHAの職員採用については、欧米出身の幹部職員からも批判がある。アングロサクソン系の人ばかりが登用されており、まるで新植民地主義の国のようだと。エジプト出身のブトロス・ブトロス・ガリやガーナ出身のコフィ・アナンが国連事務総長に起用された例はあるが、それはシンボリックな意味しか持たない。アフリカの出身者にとって、国連機関の「ガラスの天井」は今も厚くて割り難い。 筆者らが入手した内部資料によると、OCHAではアフリカ諸国出身者が全体のポストの23%を占めているが、本部に勤める幹部職員はほとんどいない。アジアや中南米、東欧諸国の出身者はさらに少なく、それぞれ全体の16%、4%、3%にとどまる。 OCHAの指揮系統を見ると、上層部を占めるのは欧米人ばかりだ。過去13年間、OCHAを率いてきた4人はいずれもイギリス政府の元高官。しかも南米の英領ギアナ(現ガイアナ)出身の黒人女性で英上院の院内総務を務めた後にOCHAの代表となったバレリー・エイモス(在任2010〜15年)を除けば、全員が白人男性だ。 OCHAの活動先の大部分はアフリカやアジアの国々だが、その上級職員の大多数はOCHAの予算に多額の拠出をしている欧米諸国の人で占められる。世界各地にあるOCHA現地事務所のトップも、約54%は欧米諸国の出身者が占める。アジアやアフリカ、中南米、東欧圏の出身者を合わせたより多い。 ===== もっとひどいのはニューヨークにある国連本部で、職員の71%は欧米人。政策立案やコミュニケーション戦略などの主要部門に限れば、少なくとも90%が欧米系だ。 こうした不公平には職員の間から怒りの声が上がっている。とりわけ批判されているのは、2017年9月にOCHAトップに就任したマーク・ローコック。エコノミストで、英国際開発省の元事務次官だ。 「OCHAは人種差別と新植民地主義の問題を抱えている。その問題は上層部から始まっている」。職員の1人は今年3月、国連の内部監察機関に、そう申し立てている。「ローコックは権力と影響力を持つ組織内の要職を、常に白人やイギリス人に引き継がせている」 告発状には、「OCHAのウェブサイトで幹部職員の紹介ページを開くと、目に飛び込んでくるのは(ほぼ)白人ばかりで、国際的な援助活動にも白人の視点がずっと取り入れられてきたことに気付かされる。掲載されている写真の15枚中12枚が白人だ」とある。「有色人種の写真は3枚だけであり、黒人に至っては皆無だ」とも。 実際、OCHAで指導的な地位にある職員の顔触れを見ると、1人を除いて全員が欧米の出身者だ。 第2次大戦後に国連を創設するに当たり、イギリスが要となる役割を果たしたのは事実。だからこそアメリカやフランス、ロシア、中国と並んで国連安保理の常任理事国になれた。そして今も、この5カ国が国連の重要ポストを握っている。 例えば、経済社会部門のトップを務めるのは10年以上前から中国の外交官で、彼は自分の立場を利用して中国の「一帯一路」構想を推進している。フランスの政府高官は20年以上にわたって平和構築部門を率いており、アフリカや中東など、フランスが今なお外交的な影響力を手放したくない地域のミッションを統括している。2007年3月から政治部門のトップを務めているのは米国務省の出身者だ。そしてロシアも、2017年に新設されたテロ対策部門のトップに自国の高官を送り込んでいる。 アメリカの元外交官で政治担当の国連事務次長を務めたジェフリー・フェルトマンは筆者に、自分がワシントン時代の部下を国連に連れて行くのは「不適切」だと思ったと語った。しかし彼が就任した時点で、既に職員の大半はアメリカ人と日本人、そしてイタリア人で占められていた(ただしその多くは家族に途上国出身者がいた)という。「私は常に思っていた。各国の政治状況を注視し、その動きに対応して動く仕事である以上、この組織ではスタッフの構成にも(現実の多様性を)反映させるべきだと」 アントニオ・グテレス国連事務総長は以前から、国連内部に途上国、とりわけアフリカ出身者の数が足りないと考え、懸念を表明してきた。もう差別は解消されたと信じて「ポスト差別主義」の時代を標榜するのは幻想だとも指摘している。 アフリカは二重の犠牲者 「国連は平等と人間の尊厳を核とする新たな国際的総意に基づいて創設された。以後、世界に非植民地化の波が広がった」。グテレスは今年7月のネルソン・マンデラ記念講演(南アフリカのネルソン・マンデラ財団が主催する恒例のイベント)でそう語った。「だが自己欺瞞に陥るな。依然として世界は植民地主義の残滓を引きずっている」 ===== 元ポルトガル首相のグテレスは、西欧人として(代行職を除けば)4人目の国連事務総長だ。彼はこの演説で「アフリカは二重の意味で犠牲者だ」とも指摘した。「まず、植民地支配の犠牲となった。そして第2に、あの大戦を経てアフリカの人たちが独立を果たす以前に設立された国際機関においても、正当に代表されているとは言えない」 だがグテレス自身も人種問題でつまずいた。世界各地で人種差別に対する抗議デモが盛んになった今年6月、国連の人事部門は国際公務員の倫理規定を盾に、抗議デモへの参加を控えるよう職員に指示した。特定の加盟国における社会情勢には中立を守るべし、というわけだ。 外交筋によると、グテレスも当初は人事部門のこの見解を支持していたが、批判を浴びたので翻意し、職員が個人としてデモに参加するのは自由だと表明した。実際、アフリカ系アメリカ人の国連高官として最も有名でノーベル平和賞も受賞したラルフ・バンチ(故人)も、かつて公民権運動たけなわの時期に、アラバマ州セルマで故キング牧師と並んで行進していたのだ。 その後、グテレスはオンラインの職員集会で改めてこう釈明した。国連は「人種差別に直面した職員に中立的な立場を取るよう強いたりはしない。個人として連帯の意思を表明し、あるいは平和的な抗議行動に参加することは禁じない」と。 8月には、国連職員を対象とした人種問題に関する調査が中止に追い込まれた。回答者に肌の色を尋ね、その選択肢に黄色(イエロー)が含まれていたからだ。イエローは歴史的にアジア系の人々に対する差別的表現と受け止められるため、撤回を求められることになった。 アメリカで黒人男性ジョージ・フロイドが警官に殺され、その後に激しい抗議行動が起きたことを受け、国連の職員団体は6月に、アフリカ系職員を対象として人種差別に関する調査を行った。回答を寄せたのは2000人超。筆者が入手したその調査報告によると、職員の約52%が何らかの形で人種差別の経験ありと回答していた。 「あらゆる分野に差別がある。職種や昇進、研修にも」と、ある匿名の回答者は述べていた。「本部の仕事にアフリカ人が採用されることはまれ」だという回答もあった。上級職に就くのは圧倒的に欧米諸国の出身者で、「アフリカ人の自分は危険な勤務地に張り付けられている」という訴えもあった。 多様化は絵に描いた餅 国連憲章で、職員の採用は実力主義に基づくが「可能な限り地理的に広く採用する重要性に配慮する」と定められている。だが職員の間には、グテレス体制下のOCHAで途上国出身者の活躍の場を増やすための努力があまりにも少ないという不満もある。 OCHAの広報担当は、多様化の努力がもっと必要だと認めつつ、2017年にローコックが国連事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官に着任してからは改善が見られると語った。「OCHAでは多様化推進の決意を実行に移している」 ===== ちなみに広報担当官のゾーイ・パクストンはイギリス人で、以前は英国際開発省でローコックの部下として働いていた。「上級職に外部から多様な人材を採用する、国内担当から国際担当へと昇進させるなどの努力を重ねてきた」と言う。 パクストンによると最近OCHAでは欧米諸国以外の出身者を2人、上級職に起用した。フランスとスリランカの国籍を持つラメシュ・ラジャシンガムが人道問題担当の国連事務次長補代行、ヨルダン人のムハンナド・ハディがシリア担当の地域人道問題調整官を務めている。 ほかにも空席の上級職がいくつもあるため、「(非欧米人の)割合を増やす機会」があるとのことだ。2016年以降に欧米出身者の人数をOCHA全体の3分の2から2分の1くらいに減らしたとも、パクストンは言う。とはいえ「まだやるべきことがあり、ここで止まることはない」。 現場で働く職員でも、欧米人の割合は2016年以降、49%から42%にまで減ったという。国連全体では専門職の下級職員に占める欧米人の割合が60%から42%以下に減った。だが上級職に欧米人が起用されやすい傾向は変わっていない。 OCHA幹部15人を見ると、欧米人でないのは1人だけだ。広報のパクストンはローコックの国際開発省時代の部下だし、事務次長室も欧米人3名で切り盛りしている。うち首席補佐官もイギリス人で国際開発省の出身、副首席補佐官はスウェーデン人、秘書官はカナダ人だ。 OCHAは国連事務局のその他の機関に比べ、予算のかなり多くの部分を豊かな加盟国からの寄付に頼っている。それが採用や昇進にも影響しているようだ。国連本体の予算で運営されている部門では、より地理的多様性が高い。 内部の批判派によると、ローコックはその裁量権を用いて上層部を欧米人で固めてきた。最近スウェーデン、イタリア、ノルウェーなどの出身者を要職に起用したが、事前に募集をかけず、その他の職員は応募できなかったと多くの内部関係者が証言する。またニューヨーク本部では昇進の見込みがないことを理由に、士気が低下しているとされる。 昨年の内部調査によると、働きやすさや革新性、職員の定着率でOCHAは他部門に見劣りする。「非倫理的行為に関してあらゆる職位の者が責任を果たしていると考えるOCHA職員は半数に満たない(47%)」ことも判明している。 とりわけ本部職員の士気低下は深刻で、現地勤務の職員に比べて「権限が少なく、やる気が出ない」と感じているようだ。働きやすさや男女の平等についても、本部より現地事務所のほうがましだという。 だから「本部職員の間では満足度が相対的に低い」し、「ストレスは多く、上層部への信頼度は低く、昇進についての不満は高い」という。悲しいかな、人道支援の司令塔が人の道から外れている。 From Foreign Policy Magazine <2020年11月17日号掲載>