<小学校から始まる厳格な集団生活に馴染めない子どもが、2010年代に入って目立って増えている> 学校で荒れる子どもは、いつの時代も教師の悩みの種だ。2019年度の小・中・高校における暴力行為の発生件数は7万8787件となっている。学校がある日を10カ月(300日)とすると、全国で1日あたり263件も起きていることになる。 だが昔はもっとひどかった。全国的に校内暴力の嵐が吹き荒れたのは1980年代初頭、『3年B組金八先生』(TBS系列)が放映されていた頃だ。暴力行為は長期統計がないので変化を可視化できないが、当時に比べれば近年だいぶ沈静化しているのは確かだ。非行少年の数がピークの1983年と比べて4分の1に減っていることからも、それはうかがえる。よく言われるが、今の子どもは「大人しい」のだ。 だが最近の統計を見ていて気になることがある。<図1>は、近年の暴力行為発生件数の推移を校種別に見たものだ。 少し前は反抗期の中学生の暴力沙汰が際立って多く、次は高校生だった。しかし2013年に小学校が高校を上回り、2018年には中学校も抜いている。ここ数年、中高生の暴力行為は減っているが、小学生だけは増えていて、「暴力の低年齢化」としてメディアでも報じられた。 第2次反抗期の早期化により、高学年児童の暴力が増えていると思われるかもしれない。だが暴力行為の増加率が大きいのは低学年だ。<図1>によると小学生の暴力は2014年度から急増しているが、2014年度と2019年度を比べると、小学校2年生の暴力行為は5.0倍、1年生では6.6倍に増えている。相手に怪我をさせたケンカや、教室内の器物損壊などが多いとみられる。 ===== 近年、小1児童の学校生活への不適応が問題になっている。東京都教育委員会の実態調査の定義によると、「入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通りに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりするなど、授業規律が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数カ月にわたって継続する状態」で、関係者の間では「小1プロブレム」として知られている。小学生、とりわけ低学年の暴力増加は、この問題と関連しているとみていい。 小学校1年生は幼児期の生活の影響を留めているが、就学前の過ごし方に変化が起きている可能性がある。ベネッセ教育総合研究所は、就学前の乳幼児の遊び相手を5年間隔で調査している。9つの選択肢から該当するものを全て選んでもらう形式だが、「母親」と「友だち」の選択率に大きな変化がみられる<図2>。 この20年間で「友だち」が減り、「母親」が増えている。1995年では同じくらいの選択率だったが、その後どんどん乖離している。幼児は外で友達と遊ばなくなり、母親の庇護下に置かれるようになっている。子どもを狙った犯罪が多発しているので、子を外に出さない親が増えている、あるいは早期から塾や習い事に通う子が増えているためかもしれない。 小学校に上がるとタイトな集団生活が始まるが、同輩集団(peer group)で群れた経験に乏しい子どもがいきなりそこに放り込まれたら、諸々の不適応が起きても不思議ではない。幼児は庇護されるべき存在だが、大人が適度に見守りつつ、彼らだけの世界も尊重されなければならない。対等な仲間集団で欲求をぶつけ合い、それを調整する術を学ぶことで、他者との社会生活が営める社会的存在としての自我が育つ。 保育所・幼稚園と小学校の落差を緩やかにする必要もある。勉強のスタイルをとっても、前者では遊びを通した総合的な教育だが、後者では机に座って教科書を開く教科教育が中心となる。6歳の幼児が、そうした大きな変化についていくのはなかなか難しい。小学校低学年では、生活科を要とした「スタートカリキュラム」を組むことが推奨されている(新学習指導要領)。 年少児童の暴力増加は、幼児期の生活、さらには幼保と小学校の接続の在り方の問題と絡めて議論しなければならないだろう。 <資料:文科省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』、 ベネッセ教育総合研究所『第5回・幼児の生活アンケート』(2016年)> =====