<新型コロナウイルスのワクチン開発成功と発表したドイツの「バイオンテック」社の創業者夫婦はトルコ系移民家庭出身で、そのことも話題になっている......> 新型コロナウイルスのワクチン開発成功(90%以上の人の感染を防ぐことができると発表)のニュースにドイツが沸いている。イエンツ・シュパーン保健相が、約10か月という驚異的な速さでパンデミック終焉の可能性が見えてきたこと、またその立役者がドイツ企業であることを非常に誇らしい面持ちで発表した。「今週2つ目のすばらしいニュース」と報じる報道機関もあった。 移民の成功物語 1つ目のすばらしいニュースとはアメリカ大統領選でのバイデン氏が当選を確実にしたことだ。ドイツでのバイデン氏の評価は非常に高い。ドイツ公共放送連盟ARDの調査によると、10人中9人がバイデン氏当選を「好ましい」「非常に好ましい」と考えている。 また、移民家庭出身である副大統領選出のカマラ・ハリス氏についても大きく報じられた。実は、今回ワクチン開発に成功したバイオンテック(bioはドイツ語では「ビオ」だが、社名はここでも「バイオンテック」bye-on-techと発音されている)の創業者はトルコ系移民夫妻である。 夫妻には春頃から注目が集まっていたが、その功績が、移民、とくにトルコ系ドイツ人に対する根強い差別解消につながるのではないかと、こちらの面でも大きな期待が寄せられている。 何世代も埋まらない亀裂 6月以降、アメリカのBLM運動の影響を受け、ドイツでも人種差別や外国人差別に関する議論がさかんに行われてきた。とくに、147万以上の移民(2019統計)、さらにドイツ生まれや一部トルコ系などを加えると約400万人以上ともいわれる最大のコミュニティを形成するトルコ系の人々の抱える問題は、その歴史から見ても格別なものだ。 1961年、ドイツは外国人労働者の募集に関してトルコと協定を締結。その後73年の募集停止までの12年間で約90万人が「ガストアルバイター(ゲストワーカー)」として西ドイツに移住した。73年以降は、ドイツ国内にいるトルコ人の家族らがやってきた。 あくまでも一時的な労働力招聘と考えられていた計画だが、人間の人生の数年を都合よく切り取れるはずがない。トルコ人たちはやがてドイツに根づき、ドイツ生まれの二世、三世が育っていった。しかしながら、大量にやってきた労働者への反発も強く、ドイツ社会とトルコ人コミュニティとの間の亀裂は2020年の今でも深いままだ。今年2月にも、ハーナウ市で外国人、とくにトルコ系を標的とした銃乱射事件があり、多数の犠牲者が出た。 ===== ガストアルバイターの息子から医学教授へ バイオンテックの共同創業者およびCEOのウグル・サヒン教授の父親も、当初ドイツのフォード自動車工場でガストアルバイターとして働いていた。サヒン教授は4歳のとき、母親とともに南トルコからドイツへと移り住んだ。 一方、妻で共同経営者のエズレム・テュレジュ博士はドイツで生まれた。父親はイスタンブール出身の医師で、ドイツの小さな町の自宅で診療所を開いていた。2011年のドイツ誌インタビューでは、幼い頃は人助けのために尼僧になりたかったと語っている。彼女はまた政府主導のプロジェクトBMBF 2020で、「変えられないことは受け入れるが、自分たちの力の及ぶ範囲ならば決意と勇気を持って集中する」と述べている。 サヒン教授はもともと癌研究が専門だった。ザーランド大学医療センター勤務中にテュレジュ博士に知り合い、2001年に、免疫療法の抗がん剤を開発するためにGanymed Pharmaceuticalsを立ち上げた(のちに売却)。Ganymedはトルコ語の「苦労して手に入れた」という意味の言葉に似ていると、テュレジュ博士はインタビューで述べている。二人は2002年に結婚。二人とも式当日に研究室に顔を出したと言われている。 9日の発表以降、バイオンテックの株価は急上昇。18%の株式を保有するサヒン教授は現在、ドイツで最も裕福な100人の1人だ。だが、二人ともそんなことには興味がないと、各インタビューで述べている。移民である二人が最高学府で医学を学び、企業を立ち上げるまでの苦労は並大抵のものではなかっただろう。 ドイチェ・ウェレによると、バイオンテックでは現在、60か国から1,300人以上を雇用しており、その半数以上が女性だという トランプのプロジェクトとは距離 月曜日にバイオンテックと、パートナーの米ファイザー社がワクチン開発成功を発表すると、マイク・ペンス現副大統領が、これは「トランプ氏によって築かれた官民パートナーシップのおかげ」だとツイートした。だがニューヨークタイムズによると、ファイザーはトランプとワープスピード作戦(対新型コロナワクチンの開発・製造を異例の速さで進める政府主導のプロジェクト)から距離を置いている。(ちなみに、バイオンテック社内プロジェクトは「ライトスピード」という名称だ。ドイツにとって新型コロナがまだまだ他人事だった1月にすでに始動していた。) 7月、ファイザーは政府と19億5000万ドルの契約を結んだが、これは事前購入契約であり、ワクチンが納品されるまで支払いはない。ファイザーは、これまでワクチン開発で先端にいたモデルナやアストラゼネカとは異なり、ワクチンの開発や製造を支援するための連邦資金は受け入れていないという。 ファイザーの副社長兼ワクチン研究開発責任者であるカトリン・ジャンセンは8日のインタビューで「私たちは一度もワープスピードのメンバーだったことはない」と言い、「米政府からも誰からも、資金を受け取ったことはない」と述べている。 ただ、ファイザーの広報担当者は9日、同社がワクチンのサプライヤーとしてワープスピードに参加することを明らかにした。 ===== BioNTech CEO on vaccine progress with Pfizer