<多国間主義で同盟国と手を組んで対抗してくるバイデン新政権は、強硬だが孤立していたトランプより手ごわいライバルとなる> 米大統領選で勝利した民主党のジョー・バイデンに対し、中国政府はなかなか祝意を表明しなかった。ロシア政府などはいまだに祝意を示していない。だが驚くにはあたらない。両国とも理由は説明していないが、地政学上の懸念に由来する「希望的観測」が背景にはあるとみられる。 トランプ政権は、超大国間の競争を国家戦略の正式な軸とした。だがバイデン政権は多国間主義を採り、同盟諸国を軽視したり弱体化させるのではなく、強化させる競争戦略を推進するだろう。リベラルな国際秩序を弱体化させようとする中露の動きを押し戻し、大国間競争の行き過ぎを巻き戻す狙いだ。 トランプ政権の2017年国家安全保障戦略は、歴代政権のアプローチとははっきりと異なるものだったが、一方で、党派を問わず安全保障畑の人々の間で生まれつつあった「共通認識」を反映したものでもあった。対テロ戦争後の世界では、何より中露の強権主義に対抗しなければならない、という認識だ。 ちぐはぐだったトランプ外交 問題は、トランプ政権がそれを実行に移したやり方にあった。 トランプ政権の対ロシア関係は、控えめに言っても複雑で首尾一貫しないものだった。アメリカの対露政策がちぐはぐであることは、政権発足後すぐに明らかになった。アメリカの政府機関がほぼ足並みを揃えて大国間の競争政策を推進する一方で、ホワイトハウスはそれとは大きく違うことを言ったりやったりした。 ヨーロッパの同盟諸国に対しても、トランプ政権はちぐはぐなアプローチを採った。NATOには「計り知れないメリット」があると言う一方で、NATOからの脱退やをちらつかせて脅したりした。 また中国について言えば、トランプは習近平を持ち上げたりしつつも、中国政府主導の略奪的輸出促進策に対しては制裁関税などの手段を用いて過去に例がないほど厳しく抑え込んできた。 だがその一方で、トランプはインド太平洋地域の同盟諸国と団結して中国に対抗すのではなく、中国に課したのと同じ制裁関税を同盟諸国にも課した。韓国に対しては、在韓米軍の駐留経費の負担額を約5倍に増やさなければ米軍を撤退させると脅したし、中国が標的のTPP(環太平洋経済連携協定)からは脱退した。 ===== バイデンが国家安全保障戦略の柱を引き続き大国間競争に置くとすれば(そう考える理由は十分にある)、より多国間的なアプローチを押し進めようとする可能性が高い。経済政策では特にそうで、バイデンはアメリカと同盟諸国すべての発展を追求するという謳い文句の下、ヨーロッパやアジアとの大きな貿易摩擦問題を早期に解決しようとする可能性がある。 続いて、同盟国間の既存の貿易・投資協定を拡大し育てていくことに力を入れるかも知れない。TPPへの加盟もあるかも知れない。上院は自由貿易主義の共和党が多数を占めており、その支持を取り付けるのはそれほど難しくないかも知れない。 2021年の課題としては、自由主義諸国の経済の強化・活性化のために、中国から西側への投資に厳しく監視すること、ロシア産の化石燃料への依存度を下げるために協力することが挙げられる。新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退を克服するためにも、多国間主義での取り組みは助けになるはずだ。 中露にとって望まない未来が待っている? 防衛や安全保障の分野でも、アメリカが今後は多国間主義で取り組むことを、中露は覚悟すべきだろう。ヨーロッパではまず、NATOの集団的自衛権行使に関与する姿勢を改めて示したり、ドイツ駐留米軍の削減という近視眼的な計画を破棄したり、ロシアの西側に対するハイブリッド戦争への対抗措置の強化などが行われるだろう。 またアジアでは、アメリカは日本やオーストラリア、インドと足並みをそろえて中国の「近隣諸国いじめ」に対抗するだろう。そのためには、韓国と日本の関係改善にも力を尽くすことになる。 防衛や安全保障、経済の政策分野において、多国間主義の取り組み強化は同盟国やパートナーとの関係強化につながり、アメリカの比較優位を高めることになる。ロシアや中国には同盟の相手がいないから、分断をあおったり、団結を邪魔したり、西側コミュニティからメンバーを奪ったりしようとするのだ。 大国間の競争においても多国間主義的な取り組みを進めれば、戦いの条件は同じになる。ロシアにとっても中国にとっても、これは見たくない光景だ。