<コロナと不況対策は待ったなし。新大統領就任を確実にしたバイデンだが、「ねじれ」が待つなか、最初の100日をどう乗り切るのか。オバマ政権時代に抵抗姿勢を貫いたマコネルとの対話が肝になるが、2人の間には個人的な関係もある> (本誌「バイデンのアメリカ」特集より・前編) 世界中が胃の痛くなる思いで各地の開票作業を見守るなか、ドナルド・トランプ現大統領御用達のFOXニュースも含む主要メディアがついに「バイデン当確」を報じたのは11月7日の土曜日だった。しかし、政権移行に向けた準備はその前から水面下で始まっていた。 激戦州での票の出方に一喜一憂することも、現職大統領の独断的かつ勘違いな勝利宣言に動じることもなく、テッド・カウフマン(大統領選で勝利を確実にしたジョー・バイデンの地元デラウェア州選出の元民主党上院議員)率いるバイデン陣営の政権移行チームは、ズームや電話会議を利用し、時にはソーシャルディスタンスに留意しつつも対面で、綿密な協議を重ねていた。 前副大統領のバイデンが今夏の民主党全国大会で打ち出した壮大な政策プランを実現していくには誰を、どのポジションに就けるのがベストなのか──。 投票が終わってからも情勢は激しく動いていた。連邦議会上院で民主党が念願の過半数を取り戻すのではないかという甘い期待は、すぐに遠のいた。おそらく共和党重鎮でケンタッキー州選出のミッチ・マコネルが、今後も上院院内総務にとどまるだろう。 そうであればバイデン政権は当初から議会の「ねじれ」を抱えることになり、公約実現のハードルは高くなる。公共事業への大胆な支出拡大はもちろん、移民問題や気候変動、医療保険制度、そして警察改革の進展にもブレーキがかかる。 「投票の終わった日の夜が明けるまでに、バイデン政権の『最初の100日』が実り多きものになるという期待はしぼみ、オバマ政権の7年目以降に立ちはだかったマコネルの壁が再び姿を現した」。政権移行チームのあるメンバーは本誌に、匿名を条件にそう語った。 「議会の上下両院とも味方だったら、この作業はもっと楽しかったはずなのだが」 新政権を待ち受ける諸問題をさらに複雑にするのが、新型コロナウイルスの爆発的感染だ。アメリカだけでも感染者数の合計は1000万人を超えた。 匿名の政権移行チームメンバーはこうも言った。「今は新型コロナウイルスの話ばかりだ。まだ(多くの改革を断行する)夢は捨てていない。だがどこまで実現できるか、自信はない」 夢を捨てないために、当座の対策として考えられるのは大統領令の連発だろう。大統領令は議会の承認なしで出せる。まずはトランプの出してきた数々の大統領令を取り消すことだ。 その上で、閣僚や政治任命の幹部職員の戦略的配置で政策実現の道を確保する。さらに主要な課題を絞り込み、バイデン自身の豊かな議会経験と敵をつくらない人柄を武器として、上院共和党を仕切るマコネルと話をつければいい。 ===== アメリカのコロナ死者20万人を追悼する(ワシントン) WIN MCNAMEE/GETTY IMAGES 上院の共和党が足かせに バイデンは7日の晩、地元ウィルミントン(デラウェア州)で勝利宣言をした際、直ちに仕事を始める、そして新型コロナウイルス対策の専門チームを立ち上げると宣言。自分の決意を次のように語った。 「今のアメリカが私たちに求めているのは、まずもって良識と公正の精神を発揮し、科学の力と希望の力で難関に立ち向かうことだ。このウイルスを封じ込める闘い。繁栄を築く闘い。みんなの健康を守る闘い。この国で人種間の平等を達成し、根深い人種差別を根絶する闘い。そして気候変動を食い止めて地球を守るための闘いがある」 その上で、バイデンは選挙戦中にも機会があるたびにそうしてきたように、全国民の和解を呼び掛けた。 「皆さん、もちろん私は誇り高き民主党員です。しかし今はアメリカ人みんなの大統領になります。私に投票しなかった人たちのためにも、私に投票した人たちのために働くのと同じように頑張ります」 そう言い切ったバイデンは、大統領として「最初の100日」をどう乗り切るのだろう。 長年の盟友で、かつては上院の院内総務を務めたこともあるトマス・ダシュル元上院議員に聞くと、自分は今回の政権移行チームに直接には関与していないと前置きした上で、こんな答えを返してくれた。 「問題は4つある。第1はもちろん新型コロナウイルス対策。100年に1度の深刻な感染症を何としても抑え込まねばならない。第2は経済。バイデンは2009年、世界金融危機後の景気回復に必要な政策の実行で先頭に立った。あの経験を生かして、現下のコロナ禍と経済問題に取り組めばいい。第3は、以前から重視してきた気候変動の問題。まずはパリ協定に復帰し、アメリカの責任を果たすべきだ。そして最後は、国際社会におけるアメリカの地位の回復と同盟諸国との関係修復だ」 議会対策で最優先すべきは、もちろん新型コロナウイルスのもたらした経済的被害の救済策だ。中小企業への支援、個人への追加的な現金給付、州政府や地方自治体への財政支援の強化などが含まれる。 論理的には、新大統領の就任を待たずに議会が動き、既に「死に体」の現職大統領を差しおいて、与野党の合議で必要な立法措置を講じることも可能だ。しかし選挙の結果さえ受け入れないトランプが、そうした法案に署名する保証はない。だから現実問題としては、1月20日の新政権発足後の対応になるだろう。 ちなみに、新議会の構成はまだ決まっていない。民主党が上院の過半数を取り戻す可能性も、まだ残っている。ただし大方の予想では、その可能性は票の再集計や裁判を通じてトランプが逆転勝利を手にする可能性と同じくらい小さい。 ===== 上院選でまだ決まっていないのは、ジョージア州の2議席。11月3日の投票ではどの候補も過半数に達しなかったので、年明けの1月5日に改めて決選投票が実施される。 そこで民主党が2議席とも勝利すれば50議席となり、50対50で共和党と拮抗する形になる。その場合、上院議長を兼ねるカマラ・ハリス新副大統領には最後の一票を投じる権限があるから、民主党が上院を支配できる。 しかしジョージアは伝統的に共和党の牙城だから、民主党2議席奪取の可能性は限りなく低い。言い換えれば、共和党は現有の53議席に届かないが、それでも上院の支配権を維持する可能性が高い。 そうなればバイデンの選挙公約を実現するのは難しい。誰もが医療保険に加入できるようにする改革も、最低賃金を連邦レベルで時給15ドルに引き上げる提案も、温暖化対策に巨費を投じる計画も、1000万を超す不法移民に一定の権利を付与することも困難になる。 それでもバイデンは、このコロナ不況から脱するための経済刺激策を成立させる必要がある。具体的には道路や橋の再建、緑地整備や上下水道の補修、電力網の近代化といった大規模なインフラ関連事業を通じて雇用を創出するための法案だ。 立場は敵だが親しい関係 「マコネルは、前政権の8年間を通じて、オバマとバイデンに徹底抗戦の姿勢を貫いた。今度の選挙でも、そのせいで共和党が議席を減らすことはなかった。だからマコネルには、今までのやり方を変える理由がない」と言うのは、オバマ政権時代にバイデンの首席補佐官代理を務めたスコット・ムルハウザー。 「マコネルらは従来どおりの抵抗姿勢を維持するだろう」 そのとおりだが、別な可能性もある。バイデンとマコネルは、長年の個人的な関係を合意形成に役立てるかもしれない。2人は共に1942年に9カ月違いで生まれ、ほぼ四半世紀にわたり上院で活動を共にしてきた。15年に亡くなったバイデンの長男ボウの葬儀にも、マコネルは参列している。 オバマ時代にマコネルの首席補佐官補を務めたロヒット・クマールによれば、バイデンとマコネルは互いに尊敬し合っており、それが結果を生んだこともある。 「私はこの2人が一緒に働くところを見てきた」とクマールは言う。「この2人なら協力関係を築けると思う」 当時上院民主党を率いていたハリー・リード(ネバダ州選出)との協議が暗礁に乗り上げたとき、マコネルが副大統領時代のバイデンに頼ったことが3度あるとクマールは言う。ジョージ・W・ブッシュ政権の大型減税が期限切れを迎える寸前の2010年、連邦政府の債務超過危機が迫った2011年、そして大規模増税と歳出削減の発動を余儀なくされる「財政の崖」に立たされた2012年のことだ。 ===== バイデン陣営はまた、2年後の中間選挙で改選時期を迎える共和党上院議員の動向にも期待している。 激戦の予想される州では、法案成立の実績が欲しい現職共和党議員がコロナ対策などでバイデン政権に協力する可能性がある。共和党はぎりぎりで上院の過半数を制している状態だから、マコネルとしても現職が議席を失うリスクは回避したい。 「協力的な共和党議員はかなりいる」と言うのは、ミシガン州共和党の元幹部で、与野党の和解を促す「リンカーン・プロジェクト」の立役者であるジェフ・ティマーだ。 「穏健派の一部を取り込んだグループを形成し、バイデンを中道派の側に引き寄せたい。(法案の)採決のたびにバイデンが極左のバーニー・サンダース(上院議員)に頼るようでは困るから」 ※後編:党内左派の人事でバイデンの力量が試される、「妥協はバイデンの持ち味」 に続く <2020年11月24日号「バイデンのアメリカ」特集より>