<プーチンは「信頼できない派閥のボス」、メルケルは「あまりに保守的」、サルコジは「二枚舌」──各国指導者への辛口評価のオンパレード> 全2巻の刊行が予定されているバラク・オバマ前米大統領の回顧録の第1巻『プロミスド・ランド(約束の地)』が、11月17日に発売された。この本でオバマは、在任中に会った各国の指導者にかなり辛口の評価を下している。 ロシアのウラジーミル・プーチンは米地方政界の派閥のボスを思わせ、フランスのニコラ・サルコジは「大げさなレトリック」が大好き。中国の指導層については「世界秩序の覇権を握る準備ができていなかった」と書いている。 初めて国際舞台に立つ前に感じた不安も、率直に明かしている。「私に世界の指導者の1人になる準備はあるのか。外交の手腕、知識、体力、命令を下す威厳は十分なのか」 2008年大統領選で民主党の指名を確実にした後にはエルサレムのユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪れ、当時の率直な気持ちと神への祈りを記した紙を壁の隙間に差し入れた。しかし「主よ、私の罪を許し、おごりと絶望からお守りください」と書いた紙は何者かに抜き取られ、ニュースとなって世界を駆け巡った。 「神と私の間だけの言葉のはずだった。だが翌日にはイスラエルの新聞に載り、やがてインターネット上に永遠に刻まれた。(中略)私にとって公私の境目はなくなろうとしていた。思考と行動の全てが世界の関心事になっていた」 最も興味深い逸話の1つは、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領(当時)との間で米ロ関係を「リセット」したいというオバマの望みが、本当の実力者であるプーチンに会って崩れ去ったというものだ。その頃プーチンは首相だったが、大統領に返り咲くタイミングを計っていた。 オバマとの会談でプーチンは「永遠に続くかに思われた独白」を展開し、「それまで彼とロシア国民がアメリカから受けたという不正義、裏切り、侮辱を全て並べ立てた」。 さらにプーチンは、ロシア側がオバマの前任者であるジョージ・W・ブッシュに対し、テロ組織のアルカイダやイラク大統領だったサダム・フセインに関する機密情報を提供すると申し出たのに、ブッシュは「忠告を聞かずイラクを攻め、中東全域を不安定化させた」と不満を述べたという。 プーチンの長広舌はさらに続き、NATOがいかにロシアの勢力圏を侵食し、民主主義を無謀に推進しているかをまくし立てた。全ては、その後10年の米ロ関係に影を落とすことになる問題だった。 市議会の実力者のよう 側近からプーチンの印象を聞かれたオバマは、シカゴで草の根の声を政治に反映させる「コミュニティー・オーガナイザー」としてキャリアを出発させた経験からか、「奇妙なほど、よく知っているタイプだった」と答えた。 ===== 「米地方政界の派閥のボスみたいだ。核兵器と国連安全保障理事会の拒否権を持っていることは別にして」と、オバマは言った。「周りは笑ったが、私は大真面目だった。まさにプーチンは、シカゴやニューヨークの政界を牛耳っていた人物を思わせた。タフで抜け目なく、感情に流されず、得意の領域から逸脱しない。利益供与や賄賂、脅し、ペテン、そして時には暴力を使うことも取引のためならいとわない」。そういう人物は「信用できない」とオバマは書く。 オバマはトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領や、チェコのバツラフ・クラウス大統領(当時)ら東欧の指導者の一部にも不信感を抱いていた。民主主義の実現に向けた彼らの関わり方を、薄っぺらなものに感じていた。 エルドアンについては「私の要請におおむね誠意を持って対応してくれた」としながら、「さまざまな不満や、批判されたと感じたことについて話すときには、声が1オクターブ高くなった。民主主義や法の支配の推進に向けた彼の取り組みは、自身の権力維持の役に立たなくなったらあっさり放棄するだろうという印象を強く受けた」と書く。 クラウスについては「(2008〜09年の)経済危機を受けたナショナリズムや反移民感情、EU懐疑主義の高まり」を象徴する人物ではないかと懸念するようになった。「冷戦終結後に世界に広まった、民主化や自由化、統合化に向けた希望の波が引き始めていた」と、オバマは書く。「驚いたことに、クラウスは米上院の共和党議員に交じってもなじんだろうし、エルドアンはシカゴ市議会の陰の実力者として君臨しそうな人物だった」 オバマはヨーロッパの同盟諸国に対しても、特にギリシャの債務危機問題が深刻化した2011年以降は不信感を募らせていった。ドイツやフランスのように財政が比較的健全な国に景気刺激策の導入を強く促したが、「努力は無駄に終わった」と言う。 中国の覇権はまだ遠い オバマはドイツのアンゲラ・メルケル首相を「正直で知的で優しい」人物と高く評価していた。だが一方で、彼女があまりに保守的で、ドイツ政治の制約を抜け出せないことも認識するようになった。 やはり中道右派の指導者だったフランスのサルコジについては、二枚舌で全く信用ならない人物だと分かったと言う。「彼は自国のことについて明確な方針を立てられる様子ではなかった。まして、ヨーロッパのことなど考えられるはずがなかった」 ===== 中国については、世界の覇権を握る準備ができていないという見方を詳しく書いている。「国際舞台でアメリカの優位を脅かしそうな国があるとすれば、それは中国だった」と、オバマは書く。「しかしG20首脳会議に出席した中国の指導層を見て、この国がアメリカを脅かすとしても、それは何十年も先だと確信した。そしてアメリカが戦略上のミスを犯さない限り、そんな事態は起こらない」 「これが在任中に経験した国際的な舞台で感じたことだ」とオバマは締めくくる。アメリカとの協調に前向きな国は多かったが、「狭量な利己心を満たす以上の行動を取ることに消極的な国も多かった」。 「そしてリベラルで自由な市場に基づく国際的制度を支える原則──個人の自由、法の支配、財産権の保護、中立的な紛争解決、政府の最低限の説明責任──を守るためにアメリカと共に努力する国々は、その原則を世界規模で促進するには外交や政策の専門家だけでなく、経済的・政治的な影響力が不足していた」 From Foreign Policy Magazine <2020年12月1日号掲載>