<香港の状況は絶望的に悪化している。11月23日には民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)らが収監された。だが、香港人の目に現状はただの暗闇とは映らない。彼ら香港人は今、何を思い、どう反抗しているのか。16人の本音と素顔を伝える(1)> 昨年6月に逃亡犯条例改正案への大規模デモが始まって以来、今年10月末までに香港では1万144人が逮捕され、2285人が起訴された。今年6月末には香港国家安全維持法が施行。状況は絶望的に悪化しているが、香港人の目に現状はただの暗闇とは映らない。 そのキーワードが「攬炒」(ランチャオ、「死なばもろとも」の意味の広東語)だ。反政府派の香港人は、たとえそれが香港にとって損だとしても、中国政府への制裁を国際社会に呼び掛ける。 香港の「滅び」で中国政府が譲歩し、その結果、香港がこの窮地を破って鳳凰のように火の中で生まれ変わることを願う。 7月1日、香港の道端に「我哋真係好撚鍾意香港(ウチらは香港がクッソ好きだ)」と書かれた黒い旗が現れた。いつも理屈っぽく、クールな香港人がようやく「この街への愛」を言葉にした。 希望があるから反抗し続けているのではなく、反抗し続けないと希望がない――そう信じる香港人の今を追う。 国際工作組織「攬炒チーム」創設者 劉祖廸(27) 昨年6月、香港政府と中国政府を「攬炒」する可能性を示唆した香港のネットユーザー「我要攬炒」の書き込みが注目を集めた。その後わずか1年で、このネットユーザーは「攬炒」を香港抗議活動の理念として広め、世界にも知らしめた。 香港国家安全維持法の施行から3カ月後、「我要攬炒」こと劉祖廸(フィン・ラウ)は身分を明らかにし、新たな闘いを始めた。 「攬炒(ランチャオ)」とは「共に滅びる」を意味する広東語だ。だが、劉は単に滅びるだけではなく、香港がその国際的な経済的地位を犠牲にしても、鳳凰のように火の中で生まれ変わることを求めている。 彼と彼のチームはこの考えの下、各国香港のデモを組織し、世界の主要紙に香港支援広告を一斉に出し、欧米や日本の国会議員を説得し、香港官僚への経済制裁を促した。 劉の語調は穏やかだ。今はイギリスにいるが、それでも安全は脅かされる。100万香港ドルの報酬で誰かに命を狙われ、見知らぬ人に頭を殴られ重傷を負った。遺書も用意している。 「『攬炒』はすでにみんなの血となり肉となった。僕が消されても、誰かがこの意志を継いでくれるはずだ」 彼はこうも言う。「かつて香港人は政治に関心を持たず、若者も中国のトレンドに乗る最悪の状況だった。香港人意識が最高に高まった今は最良の時代だ」 ===== キリスト教協議会元議長 袁天佑(69) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HE キリスト教協議会元議長 袁天佑(69) 今年5月、香港の20人の牧師・神学者がネットで実名を掲載して「香港2020福音宣言」を発表した。約1カ月後に香港国家安全維持法が施行されると、「国家分裂を策動する意図がある」と中国政府派の新聞に評され、袁天佑(ユン・ティン・ヤウ)牧師の名前も挙げられた。 昨年定年を迎えた袁だが、これで動きを止めることはなかった。社会問題に関する意見を各所へ提出し、それで教会内外から批判を受けている。 一番多い「罪名」は、宗教が政治に関わるなという指摘だ。「教会は信仰にだけ言及すべきと思う人がいる。しかし、信仰は生活のあらゆる事柄と関わっている。政治と関係ないわけはない」 抑圧や圧迫に対して教会が責任を逃れることはできないと、袁は考える。雨傘運動から逃亡犯条例改正案反対デモまで、デモ現場近くにある教会はデモ隊が避難・休憩できるよう何度も開放され、「善きサマリア人」の精神を発揮してきた。 聖書の「テモテへの第二の手紙」1章7節を、袁は香港人に贈る。「神が私たちに下さったのは、臆する霊ではなく、力と愛と慎みとの霊である」 元記者・元立法会議員候補 何桂藍(30) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HE 元記者・元立法会議員候補 何桂藍(30) ネットメディア「立場新聞」の記者として人気だった何桂藍(グウィネス・ホー)は、メディアの新たな可能性を広げる野心を抱いていた。しかし政府が続々と報道の自由を狭めるなか、政治制度を変える必要性を実感した。 記者として、昨年7月の市民襲撃事件の現場をただ1人ライブ中継した。暴力にさらされても中継を続けたことで、「立場姐姐(姉さん)」として一気に知られるように。 今年1月には、報道の現場から議場を目指して歩み出した。「香港の選挙は既に『民主体現の場』ではなく、中国政府に対抗する場になった。街の力を議会へ持ち込み、香港人と歩んでいきたい」 何の第一歩は、今年7月の民主派の出馬を決める予備選挙に自身が立候補することだった。彼女は選挙区で得票トップだったが、政府は「『一国二制度』への支持が疑われる」との理由で、立候補申請を取り消した。9月の立法会選挙自体も、コロナ禍を理由に1年延期した。 記者でも議員でもなくなった彼女だが、毎日欠かさずに路上で演説している。「強硬な抗議手法に頼りすぎるのも良くない。民主化運動を進めるには、自分が得意なことをすればいい」 香港人にとって、政治改革への希望は人生の一部になった。「その価値観が揺るがなければ、状況が悪化しても民主化運動を支えられる」 <2020年11月24日号掲載>