<女性の生きづらさが社会問題になっている国で、ひとりの日本人女性の行動が波紋を呼んで──> 日本では知られていなくても、海外に在住してその国で有名になりタレントとして活躍している日本人は少なくない。"さゆり"こと、藤田小百合さんもそのひとり。 米国留学中に知り合った韓国人留学生を通じて、韓国文化にハマり、2006年には韓国に留学。そして2007年韓国で大人気だった外国人女子トークショー番組「美人たちのおしゃべり」出演してからは、その不思議ちゃんキャラが韓国人にウケ、今現在も韓国でタレント活動を続けている。 そんな彼女がとったある選択が、今韓国社会に一石を投じていることをご存じだろうか? さゆりさんは、今月4日韓国で男の子を出産した。去年の10月、生理不順を理由に産婦人科で検査を受けたところ、卵巣年齢がなんと48歳という診断結果だった。その時点で彼女は40歳。医師から今後自然妊娠する可能性の低さを説明されたときの彼女の心情を考えると心が痛む。 同年代の筆者も、この問題には何度もぶつかってきた。自分のキャリア、パートナーとの問題、迫ってくるタイムリミット。今はその気がなくても10年20年後になって後悔するのではないだろうか......。そのたびに人生の選択を強いられる気分だ。 パートナーはいないが母になることを選択 さゆりさんの決断は早かった。「今日から私は母になる」 10月の診断から4カ月後の2月20日には日本へ帰国。未婚でパートナーもいなかった彼女は、精子バンクにて精子提供を受けて体外受精施術を受けた。 その後、3月19日に1度目の施術で見事に妊娠。彼女のYouTubeチャンネル「さゆりのVLOG」の動画を見ると、医師からは卵巣の状態や実年齢からみても「5〜7回は施術が必要だろう」と言われていたと語っている。カメラの前で妊娠検査キットを握りしめ、「妊娠した!」と喜びながら、同時に少し不安そうな複雑な表情はとてもリアルだ。 その後、お腹の中の赤ちゃんはすくすくと成長し、今月無事出産したという。出産から12日経った今月16日、彼女がインスタグラムでファンに向けて出産報告をアップすると、たちまち韓国では注目が集まった。 未婚女性が精子バンクからの精子提供で子供を産むことについて、賛否両論飛び交うだろうとは予想していたが、コメント欄を見ると「応援します!」というコメントが押し寄せている。 コメントを読むと特に若者や女性たちから多くの支持を集めているようだ。「出産は女性の選択肢の一つであり、それを一人でも選んださゆりさんはかっこいい」という意見が多い。 もちろん反対派も存在する。理由は大きく2つに分かれているように見える。特に精子バンクを利用したことについて「これが当たり前になると、エスカレートしていき、精子の選り好みが始まるのではないか? ショッピングするように良い遺伝子を求めることは、ある意味命の選択になるのでは?」という意見もあった。 ただ大部分は「離婚など理由があって仕方なく片親になるのではなく、初めから分かっていながらシングルマザーになるのはどうなのか?」「子供が欲しいというエゴなのでは?」という指摘だった。 ===== 保守的だった韓国社会にも変化 ところが、今月18日に公表された、韓国統計庁が毎年発表している「社会調査結果」の2020年版の統計によると、韓国人の13歳以上の男女の30.7%(男性32.6%、女性 28.8%)が「未婚でも子供をもつことができる」に賛成している。また、59.7%が「結婚しなくても同棲だけでいい」と答えるなど、韓国人はこれまで結婚について比較的保守的なイメージがあったが、ここ数年で変化の流れが速まっているように感じる。 さゆりさんが施術のために日本へ帰国したことも、韓国では大きく取り上げられた。彼女が日本で精子バンクを利用したのは、現在韓国では未婚者への人工授精施術が不可能だったからだ。 現在日本を含む、アメリカ、イギリス、スウェーデン、スペイン、ベルギーなど多くの国が未婚女性への人工授精施術が認められ、出産事例も多い。一方、韓国では2017年に制度改正され、医療機関が未婚女性への人工授精施術をしても処罰されないことにはなっているものの、「大韓産婦人科学会内部倫理規定」で禁じられており実際には施術ができない状態だ。 この点について、韓国では今、女性の権利・妊娠の選択自由をテーマに議論の的になっている。 国会議員たちもさゆりに共感? さゆりさんの出産については、韓国の公営放送KBSのニュースでも大きく取り上げられ、規定改正への動きが国会議員たちの間でも論議されるようになった。特に「共に民主党」のハン・ジョンエ政策委議長が先頭に立ち、関連法律検討と改善をするよう働きかけている。 先日の公開会議でハン議員は、「保健福祉省は、不必要な指針の修正を行うため、ただちに協議措置を行ってください。 指針の補完と併せて制度改善に必要な事項については、国会で検討いたします」と宣言した。さらに、「共に民主党」キム・テニョン院内代表も、国会でも制度改善にむけて調整を始めると発言し、今後この問題に対する議論が本格化する見込みである。 ひとりの日本人女性の行動が、韓国の女性たちの生き方を左右する規制見直しのきっかけとなったのだ。 今、家族の形は様々である。筆者の友人のブラジル人男性は、同性婚をしてパートナーと子供を育てている。このように欧米では、同性同士のカップルが養子をもらうことはすでに、特別ではない世の中になった。 「子どもには、男女の親が2人いなくてはいけない」「シングルペアレントでは、子供は不幸になる」「血が繋がっていなくては自分の子供ではない」「女は子供を産むべきだ」 今もなお、出産については様々な意見がある。どの意見が正しいか、人それぞれでかまわない。 ただし、それを押し付けることはあってはならない。誰が何と言おうと、技術の進歩により選択肢が増えていき制度改正は進む。これからはシングルであっても、未婚であっても、男女/女女/男男でも、子供を産んだり育てたりする権利を選べる世の中になっていくのだ。いつの日か男性の妊娠技術が開発されれば、家族の形はさらに広がるのではないだろうか。 ===== 韓国社会に一石を投じたさゆりさんの選択 産婦人科での検査、人工授精での出産の決意、日本での施術などを彼女が語る動画 ふじたさゆり / YouTube この投稿をInstagramで見る 사유리 sayuri さゆり(@sayuriakon13)がシェアした投稿 さゆりさんがインスタグラムに投稿した出産報告 sayuriakon13 / Instagram