<香港の状況は絶望的に悪化している。11月23日には民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)らが収監された。香港人は今、何を思い、どう反抗しているのか。16人の本音と素顔を伝える(5)> 勇武派の抗議者 大学生・盈(18) 2019年に高校生だった盈(イェン)は、平和的なデモから抗議活動に参加し始めた。 6月12日、逃亡犯条例の成立を阻止するためデモ隊が立法会前に集まったとき、彼女は初めて催涙ガスに追われ、恐怖で泣き出した。涙には素手同然の市民を追い詰める警察への怒りも混ざり、この気持ちに背中を押されて7月からデモの最前線に立った。 多くの香港人と同じく、盈にとって「大学の攻防戦」は忘れられなかった。2日かけて香港中文大学を守り切ったと思いきや、次により激しい香港理工大学での戦いが待っていた。 仲間と十字路で放水車やゴム弾の射撃を受けた夜、爆音が聞こえた。理工大学にいる全員を暴動罪で起訴すると警察が発表し、実弾使用を宣言した。隠れていた盈は、仲間とキャンパスを脱出するため、さまざまな方法を試みた。 高所からロープで飛び降りても、草むらで9時間待機しても上手くいかない。頭を打って血を流しながらも、とにかく逃げ出したかった。「ようやく安全な場所にたどり着いたら、親が迎えてくれた。ほぼ1カ月会ってない母は、ただ笑って大丈夫と言った」 彼女はたくましくなった。国家安全維持法に対しても、恐れる色は見せない。しかし、この法律のせいで抗争用装備を持つことさえ難しくなった。 前線の抗議者は途方に暮れるが、彼女は策を変える必要があると考えている。「(デモ隊同士の)閉鎖的空間から離れ、関心を持ち続けるよう市民へ路上で呼びかけることが重要だ。政治理念が違う人と意見交換しながら抗争し続ける」 自分の知識を充実させることも大事だと思い知った彼女は再度大学に戻り、現実味が欠けた「いつも通りの生活」を送っている。 盈は「光復香港・時代革命」を最初に掲げた香港本土(独立)派政治活動家・梁天琦の言葉を思い出す。「香港人には3種類しかいない。順民(従順な民)、暴民(抵抗者)と移民だ」 彼女は「暴民」としてここに残るつもりだ。 国家安全維持法の逮捕者 J(19) PHOTOGRAPH BY YUKITAKA AMEMIYA 国家安全維持法の逮捕者 J(19) 昨年の7月1日は香港国家安全維持法の施行の翌日で、香港返還記念日でもあった。デモの許可が下りなかったにもかかわらず、多くの市民が集まった。 Jはスタート地点にたどり着く前、職務質問で荷物を調べられた。携帯電話に貼られた「光復香港 時代革命」のシールが、国家安全維持法違反だと逮捕された。 デモには何回も参加したが、逮捕は初めてなので慌てた。「警察車両で『中国に移送する』と脅された。尋問された際、(警察官が)既に同意欄に丸を付けたDNA取得同意書を渡された。抵抗できないままDNAサンプルを採取された」 約20人しか収容できない拘留室に40人が押し込まれ、30時間の拘束後に釈放された。 家族は心配したが責めることはなかった。彼自身もデモに参加したことに後悔はないが、シールを持ち出さなければよかったと思う。「昨年の6月から一度も捕まらなかった。シールで失敗するなんて想像していなかった」 今は国外で勉強を続ける。いつか舞台美術について学ぶのを夢見る一方、香港では公正な裁判を受けられないからだ。「香港の法治は死んだ。警察が持っている僕のDNAがどう使われるのか分からない」 異国にいて、抗議活動に積極的に参加する。逮捕の恐れもあるが、いつか香港が必要としたら迷いなく帰るつもりだ。 ===== 在日香港人組織「Stand with HK at JPN」メンバー ウィリアム・リー(27) PHOTOGRAPH BY VIOLA KAM 在日香港人組織「Stand with HK at JPN」メンバー ウィリアム・リー(27) 2019年6月以降、日本の街頭にも香港の抗議活動を支援する香港人がいた。翻る「光復香港 時代革命」の旗の下、ウィリアムは素顔のままで取材を受けた。「香港でできないことを海外でやる。黙れと中国共産党政府が望むなら、より声を挙げていきたい」 サラリーマンである彼の会社で政治議論は制限されてないが、日本人同僚のほとんどは政治に興味がない。何度も日本のテレビ局に取材されたのに、会社の友人も彼のことに気付かない。 日本の現状には、民主化運動が始まる前の香港の面影がある、と彼は思う。「社会が穏やかで、みんなが幸せな生活を送り、現状に満足している。政治参加の動機がなく、特に若者の投票率が低い」 日本語で香港の状況を説明する周庭(アグネス・チョウ)が話題となったことで、日本人の香港への関心は高まった。在日香港人組織はこのチャンスを利用し、香港の最新状況を日本人へ解説しつつ、日本人と香港人が意見交換するイベントも開いた。 国家安全維持法施行後も自己規制せず、いつもより10倍以上多くの旗を掲げて渋谷でデモをした。ただ、この法律は香港にいる者だけでなく、海外にいる香港人や外国人にも適用される。「チームのみんなはもう一生香港に戻れない覚悟ができている」 帰れないのなら、異郷の日本であらゆる方法を試すしかない。在日香港人組織「Dawn of Hong Kong」と連携し、人権というテーマを掲げてめったに国際問題に声を上げない日本の国会を説得。香港国家安全維持法に反対する署名に超党派議員124人が賛同した。 「次の段階ではマグニツキー法(人権制裁法)と香港難民救済法案の日本版の成立を促す。ウイグルや内モンゴル、台湾など中国政府が抑圧している民族と声を挙げ続けたい」 過去1年間、香港のために国際社会で戦い、実際の行動で香港の希望を証明してきた。「香港は僕らの家。見捨てるなんてできない」 <2020年11月24日号掲載(盈とウィリアム・リーはウェブサイトのみ掲載)>