<警官による黒人暴行の動画の視聴回数は1400万回を越えたが> フランスで、複数の警察官が黒人男性に暴力を振るう動画がネット上で拡散し、これまでに1400万回視聴されている。エマニュエル・マクロン率いる政府は、警察官の撮影を禁じる法案の成立を目指しているが、動画の拡散が法案の審議にも影響を及ぼすことになりそうだ。 オンラインニュースサイトの「ループサイダー」は11月26日、監視カメラの映像を公開。同21日に撮影された映像には、音楽プロデューサーのミシェル・ゼクレアがパリにあるスタジオで、数分間にわたって3人の警察官に殴る蹴るの暴行を受け、さらにもう1人の警察官がスタジオ内に催涙弾を投げ込む様子が映っていた。発端は、ゼクレアがマスクを着用しているか否かをめぐる口論だったと報じられている。 この動画が拡散したことで、フランスでは警察官による人種差別の問題が改めて注目されている。またフランス政府が、市民が(警察の暴力行為を抑止・記録するために)携帯電話で警察官を撮影することを禁じる法案を提出したことで、特に移民が多く暮らす地域では不安の声が高まっている。 現在、議会で審議が続けられている問題の法案は、市民が悪意を持って警察官の(顔が認識できる)画像や動画を公開することを禁じる内容だ。11月28日にはフランス各地で法案に抗議するデモが展開され、パリでも大勢の人がデモ行進を行った。 動画は「身を守るもの」か「攻撃材料」か 反対派は、新たな法案は報道の自由を脅かし、市民が警察の暴力を通報しにくくするものだと主張している。ゼクレアもAP通信に対して、「動画のお陰で自分の身を守ることができて幸運だった」と語っている。ゼクレアに暴力を振るった警察官たち(監視カメラに気づいていなかったと報じられている)は、映像が公開された後に停職処分となった。また検察当局は11月29日、4人の警察官に対する本格捜査を請求し、裁判所は4人のうち3人を引き続き勾留することを認めたという。 フランス24によれば、パリのレミ・ハイツ検事総長は問題の警察官らについて、武器を用いた意図的な暴行や人種差別的な発言、虚偽公文書の作成などの容疑で捜査を行うと述べた。問題の警察官らは、警察の記録文書に「ゼクレアが攻撃してきて1人の警察官の銃を奪おうとした」と記述しているが、監視カメラ映像はそれが嘘であることを示している。 ゼクレアは報道陣に対して、次のように語った。「警察官は私を守ってくれるはずの人々だ。私は暴行を受けるようなことは何もしていない。彼らを法律で処罰して欲しい。(暴行を受けて)もちろん怖かった。自分の身を守ってくれる動画があって幸運だった。こんなことがあってはならない」 ===== マクロンは今回の一件を「恥ずべきこと」と称し、警察と市民の間の信頼関係を再構築する方法について、早急に政府案を取りまとめるよう指示した。マクロンは動画を見て激怒し、ジェラルド・ダルマナン内相を大統領公邸であるエリゼ宮に呼び出したという。 「ミシェル・ゼクレア氏に対する暴行を捉えた映像は、すべての人にとって容認できない、恥ずべきものだ。フランスは、いかなる者による暴力行為や残虐行為も決して許さない。憎悪や人種差別の広がりを許してはならない」とマクロンはフェイスブックに声明を出した。「法の適用を仕事とする者たちは、法を尊重すべきだ」 またマクロンはツイッターへの投稿で、変革のための提案を取りまとめるよう要求し、次のように述べた。「日々私たちを守るために勇敢に働いている人々の一部による、不当な暴力は決して容認しない」 ダルマナンは、問題の警察官らの解雇を求めていく意向を表明。11月27日にフランスのテレビ番組に出演し、彼らは「フランスの警察の評判を傷つけた」と批判したが、一方で警察全体については擁護した。 「警察や憲兵のことは支持している」とダルマナンはツイート。「彼らの大部分は、困難な状況のなか素晴らしい仕事をしている」 各地で警察撮影禁止法案に抗議のデモ ダルマナンに対しては、極右の政治家として知られるマリーヌ・ルペンの支持者に媚びを売っているという批判の声もある。だがダルマナンは、今回の事件について、ゼクレアに対する暴力行為を「言葉にならないほどの衝撃」とはっきり批判しており、マクロンに至っては、動画を見て(怒りのあまり)「真っ赤になった」とも報じられている。 だが動画の暴力に怒りを表明した後も、マクロンに対しては厳しい批判の声がある。政府が、警察官に害を及ぼす意図をもって警察官の写真や動画を公開することを禁じる、新たな法案(グローバルセキュリティー法案)の成立を目指しているためだ。フランス各地でこの法案に抗議するデモが展開されている。 人種差別反対を訴える活動家のシハーム・アスベグは、AP通信に対して、「移民や人口密集地域に暮らす住民たちは、何十年も前から警察の残虐行為を非難してきた」と指摘。一般市民が撮影した動画が「権力の乱用や暴力行為、残虐行為など、フランスの警察が抱える制度上の問題」に注目を集める上で役に立ってきたと主張した。 ===== しかしパリで働く黒人警察官のアブドゥライ・カンテは、警察による暴力を強く非難しつつも、グローバルセキュリティー法案は、ジャーナリストや市民が警察による行為を撮影することを禁じるためのものではないと指摘。「問題は一部の人が、警察官の身元を特定して彼らを攻撃の対象にしたり、憎悪を煽ったりする目的で、警察官の動画をソーシャルメディアに投稿していること」であり、法案は、警察官の画像や動画が悪意をもって利用されるのを阻止するためだと説明した。 一方でエリック・デュポン・モレッティ法相は、「警察官への(彼らを攻撃の対象にするという)悪意は定義が難しい」と認め、政府としてはグローバルセキュリティー法案の一部に微調整を加えた上で支持する可能性があると述べたと報じられている。 =====