<次期事務局長選のポイントは、国際貿易ルールを破り続ける中国の責任を追及し、実効性ある改革を推進できる候補であるかが重要に> この数カ月、米大統領選に世界の関心が集まる一方で、もう1つの重要な選挙はほとんど注目されていない。それは、前任者の退任に伴い3カ月間空席となっているWTO(世界貿易機関)の次期事務局長選びである。問われているのは、中国の国際貿易ルール破りに対抗するために、実効性あるWTO改革を推進できるかという点だ。 国際貿易システムは、長らく機能麻痺に陥っている。トランプ米大統領は2度の大統領選で既存の貿易システムを口汚く批判し、中国のWTO加盟によりアメリカで莫大な数の雇用が脅かされたと訴えた。これは、決して的外れな主張ではない。実際、中国は外国の企業や製品を差別的に扱い、外国企業に知的財産の移転を強要するなどしている。 中国の台頭はさまざまな面で国際システムの欠陥を浮き彫りにした。WTOも例外ではない。WTOの紛争解決システムは、中国の行動を是正するのに有効とは言い難い。 しかも、現行のWTOの制度では、ある国が先進国か途上国かの判断を自己申告に委ねている。中国はこれを利用して、世界第2位の経済大国でありながら「途上国」を名乗り、途上国向けの優遇措置を受け続けている。 そこで、WTOの次期事務局長選が大きな意味を持つ。WTOの事務局長選は、加盟国の全会一致が原則。候補者は2人に絞られている。ナイジェリアのンゴジ・オコンジョ・イウェアラ元財務相と韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長だ。現時点で多数の国が推しているのはオコンジョ・イウェアラだが、トランプ政権は兪を支持していて、全会一致が形成できていない。 兪が韓国の通商交渉責任者として中国に強い姿勢で臨んできたのに対し、オコンジョ・イウェアラには中立性の面で懸念の声も上がる。ナイジェリアは、インフラ整備のために巨額の融資を受けるなど、中国と複雑な経済的関係があるからだ。 アメリカの次期政権は、どのように行動すべきなのか。 まず、トランプ政権の方針を覆すことを優先させて行動することは避けたほうがいい。2人の候補者の両方と面談し、WTO改革へのビジョンと、中国が国際貿易システムをゆがめていることへの見解を問いただすべきだ。 オコンジョ・イウェアラは、貿易ルールを守らない中国のような国の責任を問う姿勢を鮮明にしなくてはならない。それを受けて中国のオコンジョ・イウェアラ支持の姿勢に変化があれば、中国が貿易ルールの徹底を恐れていることが露呈する。 オコンジョ・イウェアラの姿勢が不十分だと判断できれば、米次期政権は兪への支持を各国に呼び掛けるべきだ。それにより中国を孤立させ、誠実に交渉する意思がないことをはっきりさせればいい。 ===== 次期政権は、独自の関税措置によって中国に対抗しようとするのではなく、同盟国と足並みをそろえて、WTOの既存の仕組みを通じて新たなルール作りを目指すべきだ。まずは、中国の国有企業への補助金や技術移転の強制を問題にすればいいだろう。 実態に反して「途上国」を自称する国が優遇措置の恩恵に浴せる仕組みを改めること、そしてWTO加盟国が互いに無条件で最恵国待遇を適用し合うことも提唱すべきだ。 WTOの裁定は、アメリカ経済に大きな影響を与える。次期政権は、WTOにおける自国のリーダーシップを強化するよう努めるべきだ。 <2020年12月8日号掲載>