<202人もの犠牲者を出したテロ事件の実行組織が、長年活動してきた資金の出所は意外なところだった> インドネシアの国家警察と対テロ特殊部隊である「デンスス88」は、同国のイスラム系テロ組織である「ジェマ・イスラミア(JI)」がコンビニエンスストアやガソリンスタンドなどの一般商業スペースに設置した募金箱を使ってテロ活動の資金を調達して武器購入、爆弾製造などの元手に充てていたことを解明したと発表した。 募金箱はいずれもJIが設立した孤児支援団体などを名乗ったNGO団体を装い、JIメンバーがボランティアとかたり、投じられた募金を回収していたという。 インドネシアの人口約2億7000万人の約88%という圧倒的多数を占めるイスラム教徒の間では「持てる者は持たざる者や困窮者を助ける」という喜捨(寄付)の精神があり、イスラム教礼拝施設である「モスク」などには「寄付のための箱や入れ物」がよく設置されている。 またインドネシアでは街中で生活困窮から道行く人に寄付を求める人の姿も珍しくなく、多くの人が小銭を手渡す姿が日常的にみられる。 こうしたイスラム教徒の相互扶助の精神を悪用したテロ組織による「募金箱」設置は、一般のイスラム教徒からも「イスラム教の精神を踏みにじるもの」と批判を浴びている。 善意を悪用した「寄付詐欺」の全容は未解明で、募金箱に投じられた寄付総額も現在のところ明らかになっていないが、過去約20年間にわたって募金箱作戦が続いていたとみられることからかなりの金額になると指摘されている。 逮捕したJIメンバー24人の捜査 インドネシアの主要メディアのひとつ「ジャカルタ・グローブ」電子版が12月2日に伝えたところによると、国家警察のアウィ・スティヨソ報道官はJIのメンバー24人を10月から11月にかけてインドネシア各地で逮捕したことを1日に明らかにした。 発表によると、スマトラ島南部ランプン州で8人、ジャワ島のジャカルタ首都圏の8人をはじめ、中部ジャワ州4人、西ジャワ州2人、バンテン州とジョグジャカルタ特別州で各1人の合計24人のJIメンバーをテロ関連容疑で逮捕したという。 この24人の中にはJIがこれまで関与した数々の爆弾テロ事件で、爆弾製造やメンバー募集などに関与した疑いがある幹部容疑者2人が含まれているという。 そしてこの24人の容疑者への取り調べの過程で、JIの活動資金の調達方法の一つとして「募金箱」が使われていた実態が明らかになったという。 ===== 逃走続けた爆弾製造の専門家 国家警察によると24人の中にJIの仲間から「プロフェッサー(教授)」と呼ばれていた高性能の爆弾製造専門家であるトフィック・ブラガ(別名ウピック・ラワンガ)容疑者が含まれていた。 トフィック容疑者は2002年にバリ島で発生した爆弾テロの首謀者で2005年に警察部隊との銃撃戦で死亡したJI幹部のアズハリ容疑者と関係があり、2004年のスラウェシ島中スラウェシ州ポソでのキリスト教会爆弾テロを手始めに多くの爆弾テロ事件で使用された爆弾の製造に関わった容疑で手配されていた。 同容疑者はポソからスラウェシ島のマカッサルを経由してジャワ島東部のスラバヤ、中部のソロなどを転々として逃走を続け、最終的にスマトラ島南部のランプン州に潜伏していたところを「デンスス88」によって11月25日に逮捕された。 当時ウピック容疑者を潜伏先の民家に匿っていた容疑でJIのメンバー7人も同時に逮捕されたという。 警察では「ウピック容疑者の逮捕はJIにとって大きな痛手であるはずだ」として今後さらに捜査を続けてJIを壊滅に追い込みたいとしている。 募金で集めた資金でメンバーシリア派遣 またJIの新規メンバー獲得を担当するリクルーターだったというケン・スティヤワン容疑者も今回の一斉逮捕者の中に含まれているという。 ケン容疑者は「脱急進派」を掲げる組織を創設、JIとしての活動を隠蔽して新規メンバーを獲得。新メンバーを軍事訓練のためにシリアに派遣する任務や資金調達を担当し、募金箱作戦にも関与していたとみられている。 警察ではこうしたシリア派遣の費用にも「募金箱」を利用して集めた多額の「寄付金」が流用されたものとみて、JIの資金の流れの全容解明を急いでいる。 苦し紛れの募金箱を利用した資金調達 今回摘発されたJIの募金箱は全国の複数の地方でコンビニエンスストアやスーパーマーケット、ガソリンスタンド、モスク、主要交差点、ATM(現金自動支払い預け機)センターなどに設置されていたことが分かっている。 「募金箱」にはJIが装った孤児のための施設や慈善活動組織の名前が使われており、多くの人々が疑うことなく寄付を投じていたとみられている。 こうしたイスラム教徒の善意に付けこんだテロ組織の資金集めについて「JIは1993年にマレーシアで創設され、2003年に非合法化されたインドネシアでも古い組織。それだけに新メンバーの獲得や資金調達も苦しい状況にあることから苦肉の策として募金箱という奇手を採用したのではないか」との見方が有力となっている。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== 雑貨店の募金箱には別のトラブルも インドネシアの雑貨店では募金箱を見かけることが一般的だが、募金泥棒という問題も。 SBTV Pangkalan Bun / YouTube