フィリピン・ルソン島ラグナ州ロスバニョス町の庁舎敷地内で12月3日午後8時45分ごろ、同町のシーザー・ペレス町長(66)が正体不明の男性とみられる犯人から銃撃を受けて射殺される事件が起きた。地元警察は現場から車で逃走した殺人犯の行方を追っているが、これまでのところ有力な手掛かりはみつかっていないという。 地元メディアの報道によると、ペレス町長は、麻薬関連犯罪の撲滅を目指すドゥテルテ大統領の肝いりで捜査当局が作成した「麻薬犯罪に関与した疑いのある人物リスト」に名前が記載されていたという。ただ、今回の射殺事件が麻薬犯罪と関連したものであるかどうかは現時点では判明していない。 フィリピンではこうした麻薬犯罪に関連した捜査で、司法手続きによらない現場での「超法規的殺人」を含めた強硬手段が横行しているほか、地方公共団体の長や司法関係者さらに記者などのマスコミ関係者に対する襲撃、射殺事件があとを絶たず、人権団体やキリスト教組織などから「法に基づく公正な対応」をドゥテルテ政権に求める声が高まっている。 庁舎裏口に駐車した車から銃撃 3日夜、町役場庁舎の裏口から出て乗車しようとしたペレス町長が襲撃され、町長は頭部に1発、胸部に2発の銃弾を受けて近くの病院に搬送されたが、約30分後に死亡が確認されたという。 地元紙「インクワイアラー」などによると、庁舎の裏口に設置された監視カメラに事件の約2時間前から不審なバンが停車しており、犯行後に現場から走り去っていることから、銃撃犯はこのバンの車内から発砲して逃走したとの警察の見方を伝えている。 ベレス町長は町のゴミ分別やプラスチック製レジ袋の使用禁止など環境問題で指導力を発揮したほか、仕事に即応できるようにと庁舎内に泊まりこむことも多かったなど、町政の手腕に対する評価は高く、麻薬事案への関連は否定していたという。 ラグナ州知事や周辺の市町村関係者からは犯行を強く非難する声明が出され、特に州知事は警察に対して「迅速な捜査で犯人の逮捕」を要求する事態となっている。 3年間で19人の自治体幹部が殺害 地元紙の報道などによると、過去3年間で殺害された市町村など地方公共団体のトップやナンバー2など幹部は合計で19人に及ぶという。 2018年7月2日にはルソン島北部タナウアン市で市役所の朝礼に参列していたアントニオ・ハリリ市長が付近の藪に潜んでいたスナイパーによって狙撃、射殺される事件も起きている。 この事件が起きた7月には他にも3日にルソン島北部ジェネラルティニオの町長、7日にルソン島カビテ州のトレスマルティレス副市長、11日に南部タウイタウイ島のサパサパ副町長が射殺されている。 ===== 最近では2020年11月10日にはルソン島イロコス地方パンガシナンにある地元コミュニティーラジオ局のコメンテーターで週刊誌のコラムニストでもあったベテランジャーナリスト(62)が自宅前で射殺されている。 同事件の犯人は未だに逮捕されたとの報道はなく、犯行の理由もこのジャーナリストの政府に批判的なコメントやコラムに原因の可能性がある、という見方くらいしか分かっていないという。 ドゥテルテ大統領が政権についた2016年以来、殺害されたマスコミ関係者はこの事件で19人目となった。 副大統領が町長射殺を強く非難 今回のペレス町長射殺事件を重く見たレニ・ロブレド副大統領は6日、ラジオ番組に出演して「こうした殺人が日常化しているフィリピンの現状を憂う。犠牲者の家族に正義をもたらし、加害者に法の裁きを受けさせることができない現状は政府が国民を守ることができていないという状況である」と、ドゥテルテ政権、さらに捜査機関である警察を強く非難した。 そのうえで「市長や町長、裁判官、弁護士そしてメディア関係者などの殺害が普通になっている事態をどうして我々は許しているのだろうか。これでは同様の事件がさらに続くだけだ」として、徹底した捜査で加害者を逮捕することが、殺人の連鎖を断ち切ることに繋がるとの考えを強調した。 ドゥテルテ大統領の指示した麻薬関連事案の徹底的な捜査ではこれまでに46人の地方公共機関関係者が「関与濃厚者リスト」に名前が挙げられている。 リストに名前が挙がった大半の人物は関係を否定しているが、こうした人物が襲撃や殺害の対象になるケースも多く、当該人物の身辺保護が人権上から求められている。 今回射殺事件が起きた庁舎の正面入り口には夜間警備員が配置されていたが、ペレス町長が利用した裏口には当時警備員がいなかった。またペレス町長の身辺警護に当たっていたボディガードもいたが、犯人が庁舎裏口付近に駐車した車両の中から発砲したため、銃撃を防ぐことができなかった、と「インクワイアラー」は伝えている。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== またひとり、地方の首長が凶弾に 何者かに銃撃され死亡したシーザー・ペレス町長について伝える現地メディア ABS-CBN News / YouTube