<世界的なBLM運動に韓国人が連帯しないのはなぜか──その理由は、長い間直視できていない自国の差別の現実にある> この夏、世界中の人々が街頭でデモに加わり、アメリカのBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動に対する支持を表明したとき、私は1人の韓国人として、韓国でも連帯のデモが行われるものと思っていた。 なにしろ、韓国の民衆が大規模デモにより当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領を退陣させたのは、わずか数年前のことだ。それに韓国は、Kポップの人気ボーイズグループ、BTS(防弾少年団)を生んだ国でもある。BTSと所属事務所はBLM運動に100万ドルを寄付し、ファンも直ちに同額のカンパを行ったことで知られている。 しかも韓国には、民主化運動のデモ隊と機動隊が激しい衝突を繰り返し、市民に対する警察の暴力が横行していた1970~80年代の痛ましい記憶も残っている。1987年には、警察の拷問により学生運動家の若者が命を奪われたこともあった。 ところが、BLM運動に対して、韓国人はおおむね傍観者であり続けた。韓国での反応が盛り上がりを欠いた主な理由は、アメリカの人種差別の実態への知識不足と、自国の人種差別を直視しない姿勢にある。 韓国社会ではこれまで、露骨な人種差別が重大な社会問題になることはなかった。学校教育で教えられる反日感情が時折燃え上がることはあるが、国内に際立った人種対立は見当たらない。 アメリカで黒人男性が白人警官に命を奪われたと聞けば、たいていの韓国人は憤慨するが、戸惑いも感じている。「アメリカで警官が市民を暴行」というニュースをうまく理解できないのである。韓国人の感覚では、警察の暴力は独裁国家で起きることであり、民主主義国家では起こり得ないことだからだ。 もう1つ韓国人がなかなか納得できないのは、BLM運動のデモ(ほとんどは平和的なものだ)で、ごく一部とはいえ略奪や暴力行為に走った人たちがいたことだ。多くの韓国人はデモで略奪が行われたことを知り、1992年のロス暴動を思い出した。この暴動では、韓国系の商店が黒人の暴徒に襲撃されて甚大な被害を被った。そのときの韓国メディアの偏った報道もあって、アメリカの黒人に偏見を持つ韓国人も少なくない。 外国人に対する苛烈な差別 韓国人の中には、バラク・オバマ前大統領の就任によりアメリカが既に人種差別を克服したと思い、いまだに社会の仕組みに人種差別が深く根を張っていることが目に入っていない人も多い。そのため、黒人たちが警察署以外の場所を襲撃する理由が理解できず、黒人への偏見を深めてしまうケースも見られる。 ===== 一方、社会に大きな亀裂を生むような差別問題こそなくても、韓国の国内にも差別は存在している。 韓国で働く約150万人の外国人労働者たちは、過酷な環境での生活と就労を強いられる半面、社会の一員になる機会は与えられない。不法滞在者は、警察による強制捜査で命を失うことすらある。2018年に内戦下の中東イエメンから500人以上の亡命希望者が韓国にやって来たときは、約70万の人々が政府に強制送還を求める請願を行った。 韓国政府はこの数十年、韓国人男性と外国人女性の結婚を奨励してきた。主に農村の男性が結婚相手を見つけて、子供をつくれるようにするためだ。ある調査によれば、そうした外国人花嫁(主に東南アジア出身)の半分近くが夫による暴力を訴えているという。 もちろん、人種差別は韓国だけの現象ではない。東アジアのほかの国々にも差別の問題がある。中国政府は、新疆ウイグル自治区などで少数民族を大量に強制収容所に送ったり、強制的に不妊手術を受けさせたりしている。 日本でも、在留資格を持っていない外国人が入管施設に長期間・無期限に収容されている。昨年は、抗議のハンガーストライキを行っていた収容者の男性1人が死亡した。 差別は、コロナ禍でも起きている。今年2月に新型コロナウイルスの感染拡大がニュースになり始めると、韓国、日本、香港、ベトナムではすぐさま、飲食店が中国人客を締め出そうとした。 ただし、韓国社会にも変化の兆しはある。BTSなどのKポップアーティストが反差別の姿勢を鮮明にしていることはその1つだ。 若い世代には変化の兆しも 韓国人の若いアーティストたちがそのような行動を取るようになった背景には、アメリカの大勢のファンの存在がある。昨年、アメリカの音楽専門チャンネルMTVがKポップアーティストを主要な賞にノミネートしなかったとき、ファンはソーシャルメディアでMTVの人種差別を批判し、授賞式をボイコットした。そうしたファンの多くが黒人だった。 それに、BTSのプロデューサーも述べているように、グループの音楽的アイデンティティーの土台には黒人音楽がある。Kポップの源流は、ヒップホップとR&Bなのだ。 しかし、社会に変化を起こすためには、まず教育を変える必要がある。韓国の教育は、子供たちの間に不健全なレベルのナショナリズムを育てている。それが東アジアの国々に共通する差別意識と、過去の出来事に基づく反感、そして過度に同質性の高い社会ならではの文化的無知と相まって助長されている。 ===== 問題は、外国人労働者や難民に対する差別だけではない。女性や性的少数者、障害者、貧困層に対する差別も存在している。 韓国のメディアは自らの偏見を自覚し、国民の意識を高めるように努力しなくてはならない。Kポップアーティストは、多様性が弱点ではなく強みであることを自国のファンに理解させるべきだ。 韓国の若い世代の中には、BLM運動が人種差別だけでなく、差別全般に関わる運動であることを理解できる人たちも現れ始めている。 輸出の拡大や世界規模のブランドの構築に成功しただけでは、グローバル化を果たしたとは言えない。韓国の若者たちがそのことに気付き、ソーシャルメディアで大々的な反差別運動を展開する日がいずれやって来るかもしれない。好きなアイドルについてツイートするだけでなく。 From Foreign Policy Magazine <2020年12月22日号掲載>