<世界で初の通常承認でのワクチン接種を開始するスイスだが、なぜか国民は否定的な反応> 新型コロナウイルスのワクチン接種が、世界で少しずつ始まった。EUでも12月27日ごろから開始されるというが、非EU国のスイスでは一足早く12月23日から始まる。 スイスでは、他国のような緊急使用ではなく通常承認で、これは世界で初めてのことだとスイスの治療薬の認可監督機関であるスイスメディックは発表している。 使用されるワクチンは、他国でも使われている米ファイザー(および独ビオンテックの共同開発)製だ。スイスメディックは、入手可能なデータを綿密に検討し、同社製の新型コロナウイルスワクチンが安全であるという結論に達した。その利点はリスクを上回るという。 16歳以上から接種でき、少なくとも21日の間隔をおいて2回接種が必要となる。成人では、2回目の投与から7日後に接種による予防率が90%以上になるという。 連邦保健局(BAG)によると、ワクチンを接種した人でも、感染を予防するかどうかはまだはっきりしていないため、今後、数カ月様子を見る。 接種は義務ではない。費用は国民が加入する基礎医療保険でカバーされ、もし医療保険でカバーされない場合でも州や国が負担するため無料で受けられる。 他社製含め1280万回分を確保 スイス政府は約300万回分を発注し、まずは約10万回分が届けられる。軍薬局でマイナス70℃の中で保管されてから、各州(26州)に配布される。各州では、2~5℃の保冷庫で最長5日間保管するという。 政府は、ファイザー製に加え、米モデルナ製ワクチン450万回分、英アストラゼネカ製ワクチン530万回分の調達もすでに決めている。モデルナ製とアストラゼネカ製は、現在スイスメディックが承認へ向けて検討中だ。 ワクチン接種は以下の人たちが優先的に受けることができる(上から優先)。 1.高齢者や、病気にかかっている高齢者など、特に危険にさらされている人 2.患者と接する医療従事者、特に脆弱な人たちをサポートするスタッフ 3.特に脆弱な人たちと緊密に接する人(世帯員) 4.感染や発生のリスクが高い共同施設の人たち(様々な年齢の人と居住している人たち) 12月は1の「特に危険にさらされている人」が対象で、1月4日から2、3、4と徐々に対象を広げていく。スイスの公共放送によると、12月23日から6州が高齢者施設などで接種開始するのを皮切りに、次週そして1月に入って始める州が続く。 ===== 優先者以外のすべての成人は十分なワクチン量が入手でき次第、接種を受けることができる。子どもと妊婦は研究データがまだ利用できないため、いまのところ「ワクチン接種戦略」の対象にしていない。 スイスメディックの承認長クラウス・ボルテ氏は、副作用について説明している。注射した上腕の箇所が赤くなったり痛くなったりすることはあり、倦怠感、吐き気、微熱なども現れるかもしれないが、それはワクチンが効いているという意味だそうだ(チューリヒのローカルテレビ番組TeleZüri)。 世論調査では多くの国民が懐疑的 一方、スイス国民の中にはワクチン接種に対してまだ懐疑的な人も多いようだ。スイスの公共放送が実施した第5回「コロナアンケート」(10月23日から11月2日まで実施、15歳以上4万人以上から回答)では、「新型コロナウイルスワクチン接種がスイスで承認されたと想像してみてください。次のうち、あなたにはどれが当てはまりますか」と質問した。結果は以下の通りだった。 ●すぐにワクチン接種を受ける 15.6% ●副作用がないことが証明されれば受ける 29% ●完全に予防されるなら受ける 7.6% ●周囲からの大きな圧力がある場合にのみ受ける 2.3% ●受けない=最初は待つ 17.5% ●受けない=ワクチン接種を受けない 28% 国内大手メディアTamediaが実施した世論調査(11月末実施、1万4千人以上が回答)でも「自発的にワクチン接種しますか」という質問に、27%がはい、26%がどちらかというと、はいと答え、25%がいいえ、17%がどちらかというと、いいえと答えた。男女別にみると、ワクチン接種をしたいと答えた男性は60%だったが、女性は46%にとどまったという。 否定的な反応も随分多いのは、なぜだろう。これについて、スイスの公共放送国内編集チームのミカエル・ペリコン副部長は、2つのことを指摘している。1つは、スイスでは西洋医療(現代医療)に不信感が抱かれ補完・代替医療の人気が高くなったため。もう1つは、ワクチン懐疑論が、口コミやユーチューブを通じて広まっているためだ(これは、2014年の政府の調査で明らかになったという)。 町の声を拾ったニュース番組が紹介した否定的な意見としては、「予防接種一般に懐疑的だから、新型コロナウイルスワクチン接種もしないと思う。それに、すべてが早く進み過ぎていて、ちょっと信用できない」「承認までの期間が早すぎる。接種はしない」「副作用に関してまだ何もわかっていない段階。絶対に接種は待つ」と、通常より承認が早いことに疑問を抱いている様子もうかがえた。 [執筆者] 岩澤里美 スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com