<凶悪な犯罪者が帰ってくる。だが実際に起きたのはそれだけではなかった──> スマートフォンというツールによって、1人1メディア時代と言われるようになり、誰もが世界に向けて発信できるようになった。以前は、事故現場からの生中継などプロのTVクルーにしかできなかったが、今は誰でも決定的瞬間をスマホで撮影可能だ。 手軽にできるようになりよい面もある一方、そのたやすさに乗っかりエスカレートしてしまうと、一気に暴走をすることもある。しかも、それが「悪人を罰する」と正義を振りかざしている場合、果たしてそれは本当の正義なのか、一度立ち止まって考え直す必要がある。 今月12日、韓国ソウル近郊のアンサン市ではそんな人々が大勢押し寄せ騒動となった。ことの発端は、チョ・ドゥスンという一人の犯罪者の出所だった。 凶悪犯罪でも心神耗弱として減刑 チョ・ドゥスンは、2008年12月11日京畿道アンサン市にて、当時小学校1年生の少女に性的虐待を行い逮捕された。少女は顔面骨折と怪我、さらに局部の80%を破損するなど一生治ることの無い重傷を負ったが、犯行時、チョ・ドゥスンは酒に酔っていたため心神耗弱状態と判断され、懲役12年の刑が言い渡された。 チョ・ドゥスンの逮捕は社会的議論を呼び、これを契機として韓国では、性暴力に対する法案が次々と発議された。 2010年7月には「性暴行犯罪者の性衝動薬物治療に関する法律」が施行され、これにより、児童への性暴行犯罪者のうち、性衝動をコントロールできないと判断された19歳以上の成人犯罪者には性的衝動抑制のための薬物治療、つまり化学的去勢が施行されるようになった。 また、2011年10月からは、未成年者に対する性暴行犯罪の公訴時効が、被害未成年者が成年に達した日から起算されるようにも変更されている。 さらに、前科もあり強姦歴まであったチョ・ドゥスンが、たった12年の刑期を言い渡された理由の一つである「心神耗弱」も大きな問題となった。犯行当時、飲酒により判断能力が低下していたことから、韓国刑法10条2項「酒酔減軽」が適用され懲役12年になった。 これについて多くの韓国民は怒りをあらわにし、2018年には法改正によって「心神耗弱」減刑義務が廃止された。 ===== 出所したチョ・ドゥスンを待っていたのは そして、今年12年の刑期を終えたチョ・ドゥスンは12月12日に出所する運びとなった。出所するとはいえ、今後7年間GPS付き電子足輪の着用義務と、性犯罪者情報公開サイト「알림e」 に5年間の身元公開が義務付けられている。 当然のことながら、恐ろしい児童性犯罪者が出所することについて、世論は反対の声を上げ、2017年9月には、韓国大統領府のウェブサイトにある国民請願掲示板で「チョ・ドゥスン出所反対」の嘆願が上がり、なんと61万5千人もの国民が署名して話題を集めたほどだ。 しかし確定して既に執行中の刑期を変更できるわけもなく、チョ・ドゥスンは犯行から12年後となるこの12月12日未明、刑期を終えてソウル南部刑務所を出所、自宅のある安山市に戻ることとなった。 出所当日の12日、チョ・ドゥスンの乗った車が出てくると、多くの市民が車を取り囲み、ユーチューバーやその他動画配信者が生配信を始めた。一部の若者は車の上に乗り、飛び跳ね、またあるユーチューバーは車を足で蹴って壊そうとした。 アンサン警察署は20日、公務執行妨害及び共用物損壊疑いで拘束令状を申請したと明らかにした。さらに、警察は、チョ・ドゥスンに対して報復を予告し話題になった格闘技選手と、ユーチューバー2人も同じ疑いで調査した後、令状申請可否を決める方針であるという。 また、チョ・ドゥスンの自宅周辺にも多くの人が取り囲み、出所日数日前から警察がガードしなければならない状態だった。警察は、家の前で騒ぎを起こした20代の若者8人を騒乱行為と公務執行妨害などの疑いで調査し立件するとしている。 その他、警備の警察に喧嘩を売るような行為や、家の裏のガス管から壁を上って侵入しようとした者など、その行為はエスカレートしていった。出所の日に、近隣の住民からアンサン警察所へ、騒音などチョ・ドゥスン騒動に関連した通報は午前中だけで100件近くも上ったという。 騒ぎに乗じて再生回数稼ぐ動画配信 今回の騒ぎは、市民の怒りはもちろんだが、10〜20代の若者が中心となって騒ぎを起こしていたようにみえる。特にライブ中継をする人などユーチューバーたちが暴走している状態だ。 動画サイト「アフリカTV」は、韓国で人気の高い個人配信サイトだが、ある配信者はチョ・ドゥスンの生配信を3日間行い、放送中の広告収入でなんと1700万ウォンも稼いだという。 この配信者は、その後「この広告収入はアンサン市へ寄付する」と公表したが、このようにチョ・ドゥスンの出所を利用し大金を稼いだ配信者は大勢いただろう。 ===== チョ・ドゥスンの命を狙う男まで チョ・ドゥスンの住む近隣の住民は騒音以外にも、家を動画に撮影されたことによるプライバシーの侵害を訴えている。現在、アンサン市民はユーチューブの親会社であるGoogleコリアに居住地関連動画の削除要請を申請し、Googleコリア側は検討すると回答した。 さらに、地域住民にとって深刻な問題も発生した。アンサン市警察は16日、銃刀法違反で26cmの包丁を持ち歩く36歳の男性を逮捕している。この男性は出所したチョ・ドゥスンを殺す目的で、はるばる釜山から包丁を持参してやってきたという。地域の住民にすれば、チョ・ドゥスンに加えてこんな人物までが近所をうろうろしているとなると不安で外も歩けないだろう。 今年は新型コロナウイルスの感染を防ぐための自粛生活が長かったためか、溜ったうっぷんを晴らすかの如く世界各国で過剰反応を示す人々が急増したように思える。 チョ・ドゥスンに対する怒りは十分に理解できる。特に、同じ年ごろの子供をもつ親や、アンサン市の自宅近くに住む人びとはなおさらだろう。12年の服役で彼の罪が消えたとも思えない。一生をかけて償なっていくべきだ。しかし、その状況に乗っかり、ただ暴走したいだけの人びとはある程度規制する必要がある。 来年9月15日には、未成年者ばかり11人も連続性的暴行の罪で服役中のキム・グンシクが出所予定だ。そのときが来たら、今回のようにまたも騒動になり、配信収益稼ぎを目的としたユーチューバーたちに囲まれるようなことにならないようしっかりとした対策を願いたい。 そして何よりも、今年二十歳を迎える被害者女性の心のケアと、暴走し周りが見えなくなった人びとが彼女を探し出したりしないようプライバシーをしっかり守るなど、周りのサポート体制の強化をしっかりとしていただきたい。 ===== ダイインして行く手を遮る者も 刑務所を出たチョ・ドゥスンを待ち構えていたのは、非難する人びととユーチューバーたちだった......。 SBS 뉴스 / YouTube 暴走した正義のユーチューバーたち 警官に襲いかかる者、部屋めがけて投石する者、勝手にジャージャー麺の出前を取る者......。チョ・ドゥスンの家の周辺はまさに騒然となった。 Yonhapnews / YouTube