<大統領選の結果を覆すため、1月20日の大統領就任式まではどんな命令があるかわらない。その時のための秘密の対応策が作られている> 大統領選挙での敗北をいまだ認めないドナルド・トランプ米大統領は、退任までにどんな行動に出るかわからない──米国防総省と米軍上層部はそう警戒感を募らせている。 国防総省の高官たちは、トランプが戒厳令を発出した場合の対応を議論し、首都ワシントンを管轄する軍司令部は、次期大統領の就任前に「治安維持」を目的とした部隊が必要になる可能性に備えて、緊急時対応策を練っている。匿名を条件に本誌に語った軍高官によれば、緊急事対応の作成はホワイトハウスや国防総省内のトランプ支持派には内密に進められている。知られると潰されるおそれがあるためだ。 米海軍の元将官は、「軍に携わって40年以上になるが、この種の議論が必要になったのは初めてだ」と語る。他の6人の軍関係者たちは、軍が大統領選挙の結果を覆す計画に関与することは絶対にないが、トランプが引き起こす危機に軍が巻き込まれることはあり得ると不安を口にした。 彼らが特に心配しているのは、トランプが民兵組織や親トランプ派の自警団を動員して、政権移行の邪魔をさせたり、首都ワシントンに暴動を引き起こしたりする可能性だ。 トランプが握る「前例のない権限」 かつて法務総監を務めたある人物は、「新型コロナウイルスの感染が拡大している非常時の今、大統領は前例のない権限を手にしている。一部の支持者の声を真に受けた大統領が、自分は何でもできる、自分は法を超越した存在だと思い込む可能性もある」と語った。 戒厳令の発出は、今後の危険を想定した考え方として間違っている」と述べた。軍事法規である戒厳令には、軍自体を取り締まるという重要な要素が欠けており、一部の軍高官がトランプの違法な動きに呼応したり、黙認したりする可能性があるからだ。 この元法務総監も他の複数の専門家も、現在の軍内部にそのようなグループは存在しないと考えているが、それでも不正や混乱が発生したり、軍事力が行使されたりする可能性は残る。とりわけトランプが民主的なプロセスを揺るがそうとし続けた場合、事態が彼の意図しない方向に進むことも予想される。 ライアン・マッカーシー米陸軍長官とジェームス・マコンビル陸軍参謀総長は12月18日に出した共同声明の中で、「アメリカの選挙結果の決定に、米軍は一切関与する立場にない」と述べた。 ===== だが国防総省は本誌の取材に対して、軍は選挙結果に関与しないと複数の幹部の言葉を引用した正式回答をよこしたものの、選挙後の危機対応や戒厳令の可能性に関してはコメントを拒否し、ホワイトハウスに質問すべきだと述べた。そしてホワイトハウスもコメントを拒否した。 この問題について取材に応じてくれた軍関係者たちも、トランプの怒りを買うことを恐れて匿名を条件とした。戒厳令の発出であれ、投票機の押収であれ、連邦議会による1月6日の投票人投票結果承認の阻止であれ、選挙への信頼を傷つけようとするトランプの試みに公に反対の姿勢を表明すれば、トランプが余計にそれを実行しようとするのではないかと恐れたのだ。 北米を管轄する北方軍の元司令官は「現時点では、大統領が来月(2021年1月)何をする気か全く分からない」と述べ、こう続けた。「軍制服組の指導部に分別があることは確かだが、こんなに常軌を逸した状態はこれまでに経験がないし、どんなことでも起き得る」 「軍を使って選挙のやり直しを」 ある意味、軍は既に選挙結果をめぐる問題に巻き込まれている。トランプが先日恩赦した、元陸軍中将でトランプ政権の最初の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリンは、17日に保守派メディア「ニュースマックスTV」の番組の中で戒厳令に言及。大統領は軍を使って投票箱を押収し、一部の州で選挙を「やり直す」べきだと語った。 「大統領は軍の能力を使い、選挙をやり直させることができる」とフリンは主張。「大統領は、起こり得るあらゆる事態に備えて計画を立てるべきだ。今回の選挙と、この国の選挙の完全性が、今のような状態になるのを許すことはできないからだ」 フリンのこの発言に、多くの元軍高官から非難の声があがった。コリン・パウエル元国務長官の首席補佐官だったロレンス・ウィルカーソン中佐はMSNBCの番組で、フリンは「自らの制服を汚した」と語った。 ニューヨーク・タイムズ紙とCNNによれば、フリンは前述のテレビ出演の後、週末に大統領執務室に呼ばれ、そこで改めて提案を行った。これ以降、側近たちは大統領が何を考えているかについて口を閉ざしており、軍関係者たちは、一連の議論に国防総省は無関係だと主張。軍内部には、トランプに大統領の座を維持させるために武装部隊を動員することを支持する者はいないと述べている。 ===== だが戒厳令をめぐる議論に関心があり、大統領の心のうちについて憶測を巡らせている関係者たちによれば、トランプは3月に、自分には「人々が知らないような多くのことを行う権限」があるのだと語っていたという。 この発言の翌日である3月13日、トランプは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて国家非常事態を宣言した。公衆衛生サービス法、スタッフォード法と国家緊急事態法の3つの法律に基づく国家緊急事態は、現在に至るまで続いているのだ。 戒厳令報道の後、トランプ自身はすぐに「戒厳令=フェイクニュース」とツイッターで否定したが、ホワイトハウス関係は、トランプが言う「人々が存在さえ知らない権力」は現実にを及ぼす可能性があるという。トランプは実際に極秘の権限を持っているし、その力にずっと魅了されてきたからだ。新型コロナウイルス感染拡大初期にホワイトハウス内で行われた議論を知る立場の軍関係者や国家安全保障会議(N S C)関係者によると、トランプは安全保障担当チームから大統領が非常時に幅広い分野で行使できる強大な権限について説明を受けていたという。その中には、暴動を鎮圧するための秘密の軍事作戦や、政府の存続のための極秘計画なども含まれていたという。