<イギリスEU離脱の混迷とコロナ禍で、南北分割のデメリットと統一のメリットが明らかに──統一を訴える主張には、アイルランド全島から共感が寄せられている> あなたがこの記事を読む頃には、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に伴う通商交渉に合意が成立しているかもしれない。あるいは、成立していないかもしれない。 この「合意に基づく離脱か、合意なき離脱か」という議論は、英国民が2016年の国民投票でブレグジットを選んで以来、ずっと続いてきた。 あのとき北アイルランドとスコットランドが、EU残留を選んだことを忘れてはならない。それなのにテリーザ・メイ前首相とボリス・ジョンソン首相は、2つの地域の声を完全に無視してブレグジットを推し進めてきた。 それはブレグジットの中核には、「小英国主義」つまりイングランドの尊大な自意識と近視眼的な世界観があるからだ。そこで南北アイルランドの利益が考慮されたことは一度もない。 ようやくアイルランドに注目が集まったのは、1998年の北アイルランド包括和平合意が、ブレグジットによって脅かされる可能性が明らかになったときだ。 以来、EU加盟国であるアイルランドと、イギリスの一部である北アイルランドの間にハードボーダー(厳格な国境管理)が出現するのを防ぐために、アイルランド政府とEU当局者、そして米議会が懸命に努力してきた(その背後にはシン・フェイン党の働き掛けがあった)。 だが、北アイルランドがイギリスの一部である限り、ブレグジットはアイルランドにマイナスの影響しかもたらさないだろう。1998年の和平合意は一段と脅かされ、合意を受け、警察活動に人権を反映させるため定められた欧州人権条約に準ずる英人権法も廃止されそうだ(同法は、北アイルランド紛争における英軍の行動について、英政府の責任を問う意味合いもある)。 ブレグジットは、近年拡大してきたアイルランドと北アイルランドの協力関係(医療、エネルギー、環境、インフラなど156分野にわたる)も試練にさらすだろう。 これまでの経験から、アイルランド人は英政府が約束を守らないことを知っている。ジョンソンも例外ではない。だから今回EUとどんな合意を結ぶのであれ、ハードボーダーを回避することはないし、アイルランドの利益を守ることも、1998年の和平合意を維持することもないだろう。 ブレグジットをめぐる論争でプラス面が1つあったとすれば、アイルランド統一の関心が高まったことだ。 それはどのような形になるのか。どうすればアイルランドは、リパブリカン(強硬なアイルランド統一派)、ロイヤリスト(強硬なイギリス支持派)、ユニオニスト、カトリック、プロテスタント、そしてこうした伝統的な分類に当てはまらない多くの人が共存できる場所になれるのか。 ===== 交渉に手こずるジョンソン英首相 TOBY MELVILLE-REUTERS また、統一アイルランドの憲法や政治構造はどのようなものになるべきなのか。派閥抗争にどう対処し、合意と平等と敬意と多様性を尊重する統一国家をつくるには、どうすればいいのか。 北アイルランド包括和平合意は、北アイルランドが将来、「イギリスとの統一または連合」について住民投票を行うことができると定めている。このためブレグジットを機に、この条項に基づきイギリスとの関係を見直すべきではないかという議論が、にわかに盛り上がっている。 統一はEU復帰への道 EU首脳が2017年、北アイルランドが(EU加盟国である)アイルランドと統一した場合、自動的にEUに復帰することができるとの見解を示したことも、この議論に拍車を掛けた(これに対し、やはりイギリスからの分離とEU加盟を希望するスコットランドの場合、一から加盟手続きを踏まなければならない)。 北アイルランドの人々にとって、アイルランド統一はEU復帰の道でもあるのだ。 最近、影響力のある研究機関が統一の是非を問う国民投票等に関する重要な論文を相次いで出した。その全てが国民投票と統一に向けた計画の必要性を指摘している。 北アイルランドのアルスター大学チームが発表した論文「憲法上の将来を熟考する」は統一をめぐる住民投票を含め憲法改正に関する議論を検証した。ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)憲法ユニットの中間報告も、「住民投票のプロセスや統一アイルランドの国の形について、あるいは連合の継続(北アイルランドがイギリスに帰属し続けること)を選択する場合でも、いずれも事前に検討し計画すること」が重要だと指摘している。 アイルランド民族主義の有力な市民団体「アイルランドの未来」も提言書をまとめ、事前の計画と十分な情報の共有、データに基づく議論の重要性を訴えている。これらの調査報告を受け、私たちは市民が中心となって変革の土台を築くため全島規模の市民議会の開催を呼び掛けている。 残念ながら、アイルランド政府は今のところ統一の是非を問う国民投票の実施に難色を示している。政府のこうした姿勢は今に始まったものではない。統一を掲げるシン・フェインが前回の総選挙で大躍進を遂げ、第2党になった事実が物語るように、世論は建設的な変革を求めているが、歴代の政権はかたくなに民意に背を向けてきた。 ===== 筆者アダムズは統一を目指す CLODAGH KILCOYNE-REUTERS ブレグジットの移行期間は31日をもって終了するが、その1週間ほど前の23日は南北の分割統治を定めた「アイルランド統治法」の成立から100年に当たる日だった。この取り決めが失敗だったことは自明の理である。北アイルランド経済の脆弱性はその証左の1つ。そして長年続いた紛争がそこに加わる。 ブレグジットとコロナ禍で、分割のデメリットと統一のメリットが一層明らかになった。今や全島規模で、ますます多くの人が統一を訴える主張に共感を寄せている。 バイデンの姿勢に期待 国外に離散したアイルランド人、とりわけアイルランド系アメリカ人は統一の是非を問う国民投票の実施と統一そのものをめぐる議論を広げる上で重要な役割を果たすだろう。これまでも彼らの声を受けて、歴代の米政権がアイルランドの和平プロセスの進展と成功に大きく貢献してきた。ブレグジットとアイルランド統一についても、アイルランド系アメリカ人の要望を受けてジョー・バイデンとカマラ・ハリス率いる次期米政権が多大な貢献を成すだろう。 バイデンは11月の米大統領選後、ハードボーダーの復活に反対する考えをはっきりと表明した。ジョンソン、アイルランドのミホル・マーティン首相、エマニュエル・マクロン仏大統領との話し合いでも、バイデンはその点を強調した。「北と南の国境を再び閉鎖するという考えは端的に言って正しくない。国境は開かれたままにすべきだ」 バイデンはさらに「北アイルランドに平和をもたらした(1998年の)合意をブレグジットの犠牲にすることは断じて許さない」とも明言した。 離脱交渉の結果がどうなるにせよ、北アイルランドでブレグジットを支持した民主統一党への批判が広がるなど、アイルランド島全域でEU残留を望む声が高まっている。その結果、アイルランドの将来をめぐる議論に関心を持つ市民もかつてなく増えている。 私たちの世代でアイルランドを統一できると私は確信している。私たちの世代のアイルランド系アメリカ人は、彼らがその樹立を支援し統一された新生アイルランドに真っ先に帰還するだろう。 <本誌2021年1月12日号掲載>