<しかもトランプが大統領でいる限り危険は続く。次は戒厳令で軍が巻き込まれる可能性もある> 1月6日の朝、いつも通り政治ニュースをチェックした。いちばん大きなニュースは、ジョージア州で行われた上院の決選投票に関するもの(投票の結果、上院でも民主党が過半数を獲得した)。新型コロナウイルス感染拡大の記事もあった。 だが目を引いたのは、ワシントン・ポストのデービッド・ナカムラ記者が書いた記事だ。連邦議会ではその日、米大統領選の最終的な手続きである選挙人投票の集計確認作業が行われる予定だが、ドナルド・トランプ大統領の敗北を信じず、ジョー・バイデン前副大統領の勝利を決して認めようとしない勢力が計画している抗議運動が「クーデター」に発展するか否かを論じたものだ。 記事には数人のリベラル派の専門家のコメントが引用されていた。騒ぎになる可能性はあるが、1月5日の段階では「クーデターという公式の学術的な定義に当てはまるような状況には至っていない」と、彼らは異口同音に述べた。 なかには冷静な対応を呼びかける専門家さえいた。抗議デモがクーデターにまでエスカレートするなどと警告すれば、それ自体が自己成就的な予言になり、現実になりかねない、というわけだ。 トランプの演説に煽動され、暴徒と化した支持者が連邦議会議事堂に乱入した、というニュースが流れたのは、その数時間後のことだ。 まさにクーデターそのもの 上下両院合同会議における選挙人団の票集計の確認手続きは中断を余儀なくされた。報道によれば騒ぎのなかで銃弾が放たれ、負傷者も出たという(のちに一人が死亡)。トランプ支持の男がナンシー・ペロシ下院議長の椅子に座ってふんぞり返る写真は、議事堂が事実上占拠されたことを物語っていた。 ニュース専門ケーブルテレビC-SPANの報道では、上下院の重鎮らは「非公表の場所」に避難したとのこと。現場の模様を伝える記者たちも自分がどこにいるか明かさなかった。暴徒に襲われかねない状況ゆえ、当然の自衛手段だ。鎮圧のために州兵も出動した。 この光景を見れば、もはや否定できない。今回起きたことはクーデターの企て、すなわち「法的枠組みに反して権力を奪取する暴力的な試み」にほかならない。 トランプが、自らの退任を決定づける手続きを妨害するよう暴徒を煽ったのだ。憲法に基づく統治は停止を余儀なくされた。南部諸州が連邦から離脱した南北戦争中でさえ、選挙や政権交代が延期されたことはない。アメリカは今や当時よりもはるかに重大な統治の危機に直面している。 ===== 言い換えれば、今回の騒乱は、1991年8月に旧ソ連の守旧派が当時のミハイル・ゴルバチョフ大統領を軟禁した事件や、1993年10月にロシアのボリス・エリツィン大統領(当時)と議会派が対峙し、多数の死傷者が出た事件に匹敵するような出来事だ。 専門家がこれまで「心配ない」と言い続けてきたことが現実になったのだ。 ここ数年、アメリカの政治学者は民主主義の危機を盛んに論じてきた。ワシントン・ポストの記事にコメントを寄せた顔ぶれも例外ではない。 トランプが一向に敗北を認めず、緊張が高まるなか、政治学の論客たちは2派に分かれた。「既存の制度がアメリカを救う」「最終的にはアメリカの民主主義の伝統が守られる」という楽観派と、少数ながら大規模な騒乱が起こり得ると警告する悲観派だ。 議事堂占拠はクーデター未遂と言っていい。研究機関センター・フォー・システミック・ピース(CSP)の用語集でも、クーデターを「(必ずしも政権の権限の本質や統治形態に変化がなくとも)行政府の指導体制と前政権の政策に大きな変化をもたらす反政府派/与党または政治エリートの一派による執行権限とオフィスの暴力的な掌握」と定義している。 歴代の国防長官が警告 トランプとその熱狂的な支持者たちが、合法的な投票、集計、集計の確認を執拗に妨害し、さらにはマイク・ペンス副大統領にバイデンの勝利を認定させまいと圧力をかけるなど異常としか言いようがない手段に出た今回の事態は、まさにこの定義に当てはまる。 暴徒とその扇動者たちの動機については今後の取調べを待つにしても、結集を呼びかけたトランプ支持者のオンライン・フォーラムの意図は明らかだ。トランプ自身のツイートと同様、彼らは一貫して公然と、トランプが政権の座にとどまれるよう、大統領選の結果を覆そうと訴えてきた。 1月20日の大統領就任式が近づけば、政権移行を妨害する試みに軍隊が巻き込まれる可能性もある。1月4日のワシントン・ポストに10人の国防長官経験者が連名で意見記事を寄稿し、「選挙結果をめぐる争いに軍を巻き込めば危険なことになる」と異例の警告を発したのも、トランプが戒厳令を出すなどして軍隊を介入させる懸念があるからだ。 それでも楽観的な人々は総じて、希望的な観測を頼りに現状を見る。真実よりも、自分たちの願望を見ようとするのだ。だが政治学者の立場から言えば、今起きているのは、武装した民兵と権力奪取の試みは紛れもないクーデターだ。 アメリカ政治には暴力の歴史もあることを十分に認識している専門家も少数いるが、大多数は選挙の見通しを示すことにかまけ、その結果がどんな意味を持つのかかは考えなかった。 アメリカは危険な段階に突入しつつある。アメリカの民主主義がいかに脆いかを知る者たちが「危険な数カ月」と称した政権移行期間は、まだあと数週間残っており、今もトランプが政権を握っている。 From Foreign Policy Magazine