<敗北を認めないトランプの支持者が議事堂に乱入、催涙ガスがまかれ銃撃で死者まで出た騒乱の一日> アメリカ合衆国の歴史における大きな汚点として刻まれることになる光景だった。 アメリカの民主主義の砦(とりで)とも言える首都ワシントンの連邦議会議事堂。そこへドナルド・トランプ大統領の支持者がなだれ込んだ。 議会ではジョー・バイデン次期大統領の勝利を承認する手続きが行われており、トランプ支持者はそれを阻止しようとした。任期終了間近のトランプは「選挙は盗まれた」と、根拠のない主張を繰り返していた。 トランプ政権とワシントン市当局は、暴徒鎮圧のために州兵数千人を動員。ホワイトハウスのケイリー・マケナニー報道官は6日午後、州兵部隊が「他の連邦治安維持機関」と共に到着するとツイートした。ナンシー・ペロシ下院議長とワシントンのミュリエル・バウザー市長の要請を受け、コロンビア特別区の州兵1100人が総動員されて議事堂に派遣されたと報じられた。 ワシントンの西に隣接するバージニア州のラルフ・ノーサム知事も、自らの指示で州兵200人がワシントンに向かうと発表。だが、それ以外にどの部隊が到着するのかは明らかではなかった。 国防総省のジョナサン・ホフマン報道官は声明の中で、クリストファー・ミラー国防長官代行が議会指導部と接触しており、ライアン・マッカーシー陸軍長官はワシントン市当局と協力して対応していると語った。「治安機関の対応は司法省が主導する」と、ホフマンは断言した。 大混乱のせいで気分を悪くして横たわる議員 TOM WILLIAMSーCQ-ROLL CALL, INC/GETTY IMAGES バイデンは地元デラウェア州からの演説で、議会占拠と暴動を激しく非難した。「これは抗議活動などではなく、反乱だ」と、彼は言った。 「私たちの民主主義は、近現代に経験のない前代未聞の攻撃を受けている」と、バイデンは続けた。「力を合わせれば、できないことはないはずだ。今日のこの惨状を目の当たりにして、私たちは痛感した。共和党も民主党も、それ以外の独立派も、団結しなくてはならない。それがアメリカ合衆国だ」 そしてバイデンは「トランプ大統領よ、責任ある態度を示せ」と呼び掛けた。 ===== 暴徒が議事堂に押し寄せたのは、ホワイトハウス近くで開かれたトランプ支持者の集会の後だった。集会で演説したトランプは、議会に行って選挙の手続きに抗議せよと支持者をあおった。 議事堂内で胸を撃たれた女性が死亡したと報じられた。この日の午後、議事堂では前例のない光景が展開された。捜査機関は議事堂の敷地内で即製の爆弾を発見している。 トランプにも制御できない 法律上、首都コロンビア特別区の州兵に対してはワシントン市当局に指揮権限がない。指示できるのは最高司令官であるトランプであり、その指揮統制権限を委任される形でマッカーシー陸軍長官の指揮下に入る。 議事堂で暴力的な抗議行動が始まったとき、ワシントンには約340人の州兵が配置されていた。だが武装はしておらず、しかも議事堂から離れた地域に配備されていた。 ワシントンのすぐ北にあるメリーランド州モンゴメリー郡の警察小隊も、6日の午後遅くに議事堂に到着した。議事堂内にはFBIの特殊部隊もいた。 国防総省とCIAで勤務した経験があるエリッサ・スロトキン下院議員(民主党)は6日、マーク・ミリー米陸軍参謀総長と会談の後、州兵部隊には現地の法執行機関と協力して議事堂内のデモ隊を排除し、「秩序を回復する」権限があるとツイートした。 バージニア州知事が動員した州兵が誰の指揮下で活動しているかは、しばらく明らかではなかった。だが各州と地域が相互に結んだ援助協定によって、コロンビア特別区州兵と同じく、州外の部隊が陸軍長官の指揮系統に入ることは可能だ。 ガスマスクを手に避難する議員たち TOM WILLIAMSーCQ-ROLL CALL, INC/GETTY IMAGES 激しさを増していく暴動は、選挙結果を覆そうというトランプの試みが手に負えない状態になりつつあることを示していた。共和党内からの圧力を受けて、トランプはデモ隊に向けて「平和的な行動を。暴力はなしだ!」とツイッターで呼び掛けたが、議事堂内にいる暴徒に表に出ろとは、はっきりと言わなかった。 選挙結果を覆す試みには反対だったマイク・ペンス副大統領は、デモ参加者は法を最大限に適用して起訴されることになると語った。その後トランプはビデオメッセージでデモ隊に「家に帰る」よう呼び掛けたものの、ここでも根拠のない選挙不正の主張を繰り返した。 バイデンは演説の中でトランプに対し、自らテレビ演説を行って暴力を非難するべきだと促した。「少数の過激派が違法行為に走っている」とバイデンは語り、「暴徒たちを引き下がらせ、民主主義の手続きが進められるようにするべきだ」と呼び掛けた。 ===== ニューヨーク・タイムズ紙やCNNなどのメディアは、「より力強いメッセージを出すべき」と促す側近たちの助言にトランプが耳を傾けていないと報じた。 連邦議会では大統領選の結果を認定する手続きが進められていたが、この騒ぎで中断した。共和党議員は選挙の後、バイデン勝利の認定を支持する多数派と、選挙に大規模な不正があったというトランプの根拠のない主張を支持する少数派に分裂していた。 イバンカが消したツイート しかし政治的立場が異なる議員たちも、暴徒化したトランプ支持者が議事堂に乱入して議会手続きを中断させたことについては、一様に非難した。共和党議員やトランプ政権の元幹部の一部も、支持者をあおったとして大統領を非難。デモ隊を撤退させて、大統領選の敗北を認めるよう促した。 共和党のアダム・キンジンガー下院議員は、議会占拠はトランプ支持者の「クーデター未遂」だと断じた。同じく共和党下院議員で、海兵隊員としてイラクに2度派遣されたマイク・ギャラガーは「イラクでもこんな光景は見たことがない」と語った。「大統領はこの事態を終わらせるべきだ。選挙は終わったのだ」 押し入ったデモ参加者を武装した警察官が制圧 STEFANI REYNOLDSーBLOOMBERG/GETTY IMAGES ワシントンの議事堂に暴徒が押し入ったのと同じ頃、全米各地でも同様の事態が発生していた。 ユタ州では州議会議事堂にトランプ支持者が続々と押し寄せ、職員が避難する事態になった。カンザス州ではデモ隊が州議会議事堂に侵入したが、地元メディアによれば大きな騒ぎにはならなかった。ジョージア州では民兵組織のメンバーが州議会議事堂に集まり、ブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官が避難する羽目になった。 ワシントンの議事堂内は大混乱に陥っていた。ピーター・ウェルチ下院議員(民主党)はこうツイートした。「いまロタンダ(議事堂の円形広間)で催涙ガスが発射されたという。座席下にあるガスマスクを装着するよう指示が出た」 トランプの取り巻きも、事態を制御できなくなったようだった。大統領の娘イバンカと顧問弁護士のルディ・ジュリアーニは、暴徒に対して「愛国者」と呼び掛けつつ、抗議活動は平和的に行うよう促した。 「愛国者たちへ──セキュリティーの侵害や法執行機関への敬意を欠くいかなる行為も、受け入れられないものです」と、イバンカはツイートした。「暴力はすぐにやめるべきです。平和的に行動してください」 その後、彼女はこのツイートを削除した。 From Foreign Policy Magazine <本誌2021年1月19日号「トランプは終わらない」特集より> (トランプ自身、また「トランプ現象」はこれで終わりを迎えるのか――。1月13日発売の本誌では、連邦議会占拠事件が浮き彫りにした「欠陥」、今後のアメリカに残す「爪痕」について特集します)