<どんな経済支援策よりもワクチン、貿易摩擦削減と脱炭素への取り組み。議事堂襲撃事件の衝撃が走るアメリカだが、「トランプ」と「新型コロナウイルス」という、2つの現象の先に見える経済と株式市場の展開を読む> (※1月5日発売の本誌「2021年に始める 投資超入門」特集より。編集部注:一部の情報は2020年12月末時点のものです) 2021年のアメリカ経済と株式市場では、2つのドラマが複雑に絡み合って展開される。トランプ以後と、新型コロナウイルス以後の物語だ。 言うまでもないが、トランプ時代は1月20日に終わる。たとえ彼が敗北を認めなくても、その日が来れば新しい大統領が宣誓をし、ホワイトハウスの主となる。 ジョー・バイデンは直ちに、前任者より合理的かつ前向きな経済政策を採るだろう。景気刺激策、失業者や資金の乏しい自治体への支援、貿易関係の改善、そして再生可能エネルギーなどへの積極的な投資も打ち出すはずだ。 ただし、新型コロナウイルスのほうはまだ終わりが見えない。2度目の冬が来ても、残念ながらアメリカでは危険な感染拡大が続いている。それでも米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長によれば、4月になれば「基礎疾患のない健康な若い男女も、大手のドラッグストアでワクチン接種を受けられるように」なるという。 この1年、アメリカでは経済も市場も波瀾万丈、想定外の苦難に見舞われたが、その後は回復基調を維持している。新しい1年についても、大方の専門家は明るい見通しを示している。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の調査に答えたエコノミストたちは、2020年に2.7%のマイナス成長(2009年の金融危機以来の落ち込み)だった米経済が2021年は3.7%のプラスに転じると見込む。ゴールドマン・サックスも、主要株価指数のS&P500種が年末までに2021%上昇すると見込んでいる。 それでも先行きは不透明だ。新政権誕生までの空白期間にも、新型コロナウイルスによる公衆衛生の危機と経済の悪化は無慈悲に進行することだろう。 もちろん一方では、経済にも株式市場にも追い風となりそうな動きがいくつも期待できる。それに新型コロナに関しては、もはや「危機が終わるかどうか」ではなく、「いつ終わってどのように景気が回復に向かうか」の問題になっている。 ジェローム・パウエル議長率いるFRB(米連邦準備理事会)は、米経済と国際資本市場の両方を支えるために必要なことは何でもすると確約している。超低金利を維持し、公開市場での資産購入や融資の拡大策も続ける構えだ。 パウエルは2020年12月1日に議会で、FRBは今後も「あらゆる手段を動員して」景気を支えると表明した。今の超低金利が続くなら、財政難の自治体や資金繰りの苦しい企業や消費者は債務の借り換えや新規の借り入れをしやすい。つまり、2021年もFRBは金融政策でアメリカ経済を支えてくれるということだ。 FRBのおかげもあって、コロナの危機が続いている今もマクロ経済の状況は改善しつつある。2020年春には約2000万の雇用が失われたが、11月までに1000万弱の雇用が回復された。4月には14.7%まで悪化した失業率も、11月には6.7%にまで改善していた。 ===== 消費と雇用の回復には、連邦政府の景気刺激策も追い風となった。2020年3月に成立した総額2兆2000億ドルの支援策(通称CARES法)により、全世帯への現金支給や失業保険の給付延長、雇用維持を目的とした緊急融資などが行われた。 しかし大統領選が迫った秋口には追加支援策で与野党が合意できず、多くの施策が期限切れを迎え、用意した資金も尽きた。選挙後も現職大統領による抵抗で混乱が続いたため、期待された与野党協調はなかなか実現しない。このままだと、次はワクチン効果を待つしかない。 ワクチンが一般に普及すればどんな支援策よりも経済を回復させる後押しとなる VICTORIA JONES-POOL/GETTY IMAGES 「ステイホーム」企業に恩恵 2021年にワクチン接種が想定どおり進めば、どんな法律よりも経済の再生に役立つ。ロックダウン(都市封鎖)の形態は州によって(同じ州内でも都市によって)大きく異なっていた。そして政府の規制や国民の消費抑制によって、現実の経済活動は大きく損なわれていた。 「ワクチンは経済と市場にとって、バイデン政権の政策より重要な転機となる」。そう言ったのはゴールドマン・サックスのストラテジスト、デービッド・コスティンだ。ファイザー社によるワクチン開発の成功は「これから徐々にでも社会を正常化させる前向きな話」だと評する。 ワクチン接種が進めば経済分野、とりわけホテルやレストラン、スポーツジム、輸送、小売りなど「人手」に依存する業種が急速に息を吹き返すだろう。それによって経済成長や株価にもよい影響が出るはずだ。ワクチン接種で免疫を持つ人が増えれば、それだけ多くの人が私生活でも仕事の面でも元の状態に戻れる。 「この感染症の炎が下火になり、外に出て歩き回っても安全と誰もが感じるようになれば、消費がどっと増えるだろう」と言うのはノーベル経済学賞の受賞者で民主党支持のポール・クルーグマン。「そうなればジョー・バイデンは(ロナルド・レーガン元大統領が景気の回復を自画自賛した)『モーニング・イン・アメリカ』的な景気回復を謳歌できる」かもしれない。 もちろん、マクロな数字で見えるのは表面的なことだけで、実際の景気回復局面には勝者もいれば敗者もいる。株式市場でも同様だ。 いわゆる「ステイホーム」の時期には、テレビ会議アプリのズーム、自宅で使うワークアウト用品のペロトン、オンラインショッピングのアマゾンといった企業の株が大きな恩恵を受けた。 2020年11月のニューヨーク・タイムズ紙によれば、アマゾンは全世界で毎日1400人も雇用を増やしていた。同年1~10月の新規雇用者数は42万7300人。今や全世界の従業員は120万人を超え、1年前の1.5倍以上だ。ただし、遠からず大幅な人員削減を余儀なくされるのは間違いない。 多くのエコノミストが危惧するのは、長期にわたる構造的なダメージだ。もともと資金力のある優良企業はコロナの危機も巧みに乗り切るだろうが、彼らの成長の陰では往々にして中小企業が犠牲になる。 2020年にはズームなど「ステイホーム」企業の株価が上昇したが MARK MAKELA/GETTY IMAGES ===== 業種によっては、回復期の到来まで生き延びられなかった企業も多い。全米レストラン協会の2020年9月の報告では、同年3月以降に全米で約10万軒の飲食店が長期休業または閉店に追い込まれた。 スポーツ用品店、百貨店、小さな食品スーパーなどでは、破産申請後に清算を選んだところが多い。将来の再建を思い描くこともできなかったからだ。 トランプ以後の政治にも、まだ不透明感が漂う。当座の問題は、1月5日に行われるジョージア州の上院選決選投票の行方だ。争われるのは2議席。勢いに乗る民主党が2議席とも確保すれば、上院でも民主党は事実上の過半数を獲得できる。(編集部注:1月5日、民主党は勝利し、2議席とも確保した) そうなれば思いどおりに法案を通せるから、失業者の救済も医療機関への支援も州政府や自治体への財政支援も、さらにはインフラ更新や医療制度の充実、再生可能エネルギーへの新規投資も進むだろう。 回復期の到来まで生き延びられず、息絶えた飲食店も多い EDUARDO MUNOZ ALVAREZ-VIEW PRESS-CORBIS/GETTY IMAGE 環境投資で株式市場も動く こうした政策は、いずれも景気回復に拍車を掛ける。ただし決選投票で共和党が1議席でも勝利し上院の多数を維持した場合は、財政規律を口実にして歳出増加に反対し、予算の膨張に抵抗する可能性がある。 いずれにせよ、アメリカがトランプ以後の新しい時代に入るのは既定事実だ。共和党の抵抗があっても、バイデン政権は力強い経済成長に向けた政策を実行するだろう。例えば学生ローンの返済免除策。家賃も払えない大卒の若年層にとっては大きな救いとなるに違いない。 貿易面でも、良好な国際関係の再構築に向けた合理的で一貫した取り組みが期待される。バイデン自身には過去に保護主義に傾いた時期もあるが、トランプに比べればずっと自由貿易を支持している。貿易障壁を緩和し、各国との摩擦を減らそうと努める可能性が高い。 最も大きな変化が期待できるのは環境政策、とりわけ脱炭素化に向けた取り組みだ。バイデンは既に、アメリカは温暖化ガス排出量を削減するパリ協定に復帰すると明言している。 また環境保護局だけでなく、エネルギー省や財務省などの主要官庁も巻き込んで政策転換を進めるから、脱石油や省エネ、クリーン・エネルギーの普及に向けた税制改革なども進むと思われる。 そうした変化が経済と株式市場に及ぼす影響は大きい。現に電気自動車専業のテスラなどの株価は政府の支援を見越して高騰。カリフォルニア州の厳しい排ガス規制を覆そうとするトランプ政権の訴訟を支持していた自動車最大手ゼネラル・モーターズは支持を撤回し、2025年末までに電気自動車開発に270億ドルを投じると発表している。 ともかくも、最悪だけれど忘れ難い1年は過ぎた。だから今は楽観的になっていい。ただし油断は禁物だ。コロナの危機も国内の深刻な政治的分断も終わってはいない。どちらも危険で、先は見通せない。それが現実。 そう思えば、2021年の年明けは、ある意味で1年前の今と似ていなくもないが。 <2021年1月12日号「2021年に始める 投資超入門」特集より>