<望まない形で妊娠しても、出産しないという選択が許されない国は多い> 今年1月1日、韓国で堕胎罪が無効化された。しかし、効力失効となった現在もこのことについて韓国社会では賛否両論が飛び交っている。 韓国の堕胎罪とは、韓国刑法269条のことである。そこには、「婦女が薬物やその他方法で中絶する時、1年以下の懲役または200万ウォン以下の罰金に処せられる」と書かれている。また、270条では「医者、漢方医、助産師、薬剤師または薬種商が婦女の嘱託または承諾を受けて中絶させた時には2年以下の懲役に処せられる」と書かれているが、こちらも今回一緒に効力を失った。 もちろん、これまでも人工妊娠中絶が認められるケースはあった。韓国母子保健法第14条により、本人または配偶者が伝染性疾患、遺伝学的精神障害や身体疾患がある場合、強姦(準強姦含む)での妊娠、法律上婚姻することができない血族または姻戚間での妊娠、妊娠の持続が保健医学的理由で母体の健康を深刻に害する憂慮がある場合を理由に、妊娠した本人と配偶者(事実婚含む)合意のうえ、人工妊娠中絶施術は認められてきた。しかし、裏を返せばそれ以外の人工妊娠中絶は不法とみなされてきたのだ。 廃止ではなく「保留状態」による無効化 今回の269〜270条の無効化により、妊娠した女性が人工妊娠中絶を決断したとき、本人及び医療関係者が処罰されなくなった。しかし効力を失ったとはいえ、廃止されたわけではない。というのも、効力を失ったのは憲法裁判所が2019年4月11日堕胎罪について憲法違反の決定を下し、2020年12月31日を法改正時限と決めたのにかかわらず、政府と国会は年末まで改正法を立法化できなかったのだ。 現在、韓国国会に発議された堕胎罪をめぐる法案は政府案を含んで6件ある。このうち半数の3件は堕胎罪完全廃止を訴えている。政府案は妊娠14週まで中絶許容案。その他2件は、妊娠10週未満まで中絶可能としている。堕胎罪は効力を失い罪には問われなくなったが、現状はあくまで「保留状態」だ。しかし廃止に向けてかなり前進したといえる。 これまで、韓国の女性団体を中心とした人びとは、この堕胎罪刑法廃止に向けて長い間戦ってきた。とくに世間の注目を集めたのは2016年9月、違法な中絶手術を行ったとして、保健福祉省が施術した医師に対する処罰強化を発表したことで、翌10月には女性たちがソウルの中心部チョンロで「검은 시위(黒いデモ)」と称した抗議行動を行ったことだ。 黒いデモと呼ばれるようになったのは、抗議した韓国女性たちが、全員黒い服に身を包んで行進したからだ。これは同じく2016年ポーランドで政府の全面的な堕胎禁止法案提出に反対した女性たちが、生殖に関する自己決定権をはく奪されたことを哀悼して黒い服を着用して抗議集会を開いたことからきているという。 ===== 経験少ない医師に妊娠中絶手術の教育が必要に 今回、堕胎罪が無効になる1月1日を前に、廃止を求めていた女性たちは、コロナウイルスの感染対策で集会が禁止されているため、メッセンジャーアプリのカカオトークのグループトークにて、オンラインでのカウントダウンを行ったという。 また、堕胎罪廃止を支持してきた革新系新聞ハンギョレでは、「堕胎罪廃止」と銘打った特設ウェブページ(http://www.hani.co.kr/arti/delete)を開設し応援してきた。特設ページには、堕胎罪に関する年表や、デモ活動の写真、さらには効力失効までの時間を表示するデジタル時計でカウントダウンを行うほどの熱の入れようだった。 もちろん、人工妊娠中絶はセンシティブで簡単なことではないため、様ざまな課題は残されている。 まず、一番大きな問題は、医師だ。妊娠中断を犯罪で規定した1953年以後、医学大教育課程で人工妊娠中絶施術関連の教育が徐じょに減らされていった。 もしも今後、中絶手術を望む女性が増えたとしても、失敗などは許されない分野だからこそ、今後は中絶手術の教育や実習を増やしていく必要がある。 さらに、先日行われた国会公聴会では「妊娠22週までの人工妊娠中絶を認めた場合、取り出した胎児は生きている可能性もある。その場合医療陣が胎児を殺さなくてはならず、その苦しみも考慮すべきだ」という医療現場からの意見も重要視された。 これに関しては、先日大韓産婦人科学会と大韓産婦人科医者会が「妊娠22週以降の人工妊娠中絶は行わない」という意思を記載した共同声明を公式発表するなど、医療の現場でも混乱が続いている。 カトリック司教は100万人の「廃止反対」署名 そして、堕胎罪については倫理問題も大きくかかわっている。堕胎罪廃止についてはカトリック系教会から強い反対意見が出ている。カトリック司教会議議長であるキム・フィジュン大主教と数名が、2019年3月ソウル憲法裁判所に堕胎罪廃止反対の100万人余りの署名と嘆願書を提出したことは有名だ。また、先月21日韓国キリスト教公共政策協議会は「国会は堕胎罪関連法を改正すべきだ」という主張の声明文を出した。 さらに韓国国会の国民同意請願の掲示板に投稿された「堕胎罪廃止反対」の請願は、10万人の同意を得て所管の国会保健福祉委員会と法制司法委員会に回付されている。 もちろん、すべての妊娠が望まれたもので、すべての赤ちゃんが幸せに包まれながら生まれてくることが理想だろう。しかし、そうでない妊娠も確実に存在する。 今回の韓国の例のように廃止へ一歩近づいた国もあれば、昨年10月にはポーランドで実質的なすべての人工妊娠中絶(胎児の異常なども含む)が違法という裁判判決を出した国もある。また、2019年にはアメリカのアラバマ州やミズーリ州などで中絶禁止法が可決されたことに反対し、SNS上で自分の中絶体験を語る#YouKnowMe運動が起きるなど、中絶をめぐる議論は世界各国で起きている。 さて、日本でも刑法第2編第29章に「堕胎の罪(刑法212〜216条)」がしっかりと記載されている。今回韓国で起きた事例は、日本の女性たちにも他人事ではない。 人工妊娠中絶に関しては、宗教や倫理問題が関わるので複雑だ。賛否両論あるのは当たり前である。だからこそ、今回の韓国の例をきっかけに「堕胎の権利」と「女性そして医師にのみ罪が課せられる現実」について一度考える必要がある。 ===== 1月1日から堕胎罪が無効に、そのために混乱も 堕胎罪が1月1日から廃止ではなく無効となった韓国。そのために医師は自らの信念にかかわらず求められれば人工妊娠中絶を処置しなければならなくなり、一方で女性の方も手術以外に薬物による中絶をするといった手続きが決められていないという問題が発生している。 YTN News / YouTube