<各国の映画祭で絶賛された『ミナリ』がアカデミー賞の前哨戦で作品賞にノミネートされず> 昨年、韓国である映画『パラサイト』が米アカデミー賞で4冠を制し、大きな話題となった。世界中から今後の韓国映画に期待を寄せられているなか、ある映画の国籍をめぐって意見が分かれていることはご存じだろうか? 映画『ミナリ』は、1980年代アメリカ南部アーカンソー州の農場へ移民としてやってきたある韓国人家族の物語だ。アメリカンドリームをつかもうと土地を買い、様ざまな困難にいき当たろうとも希望を忘れず前を向き懸命に生きていく一家の姿を描いている。 主人公一家の大黒柱を務めるのは、『ウォーキング・デッド』で一躍スターとなり、その後イ・チャンドン監督の映画『バーニング 』では、第44回ロサンゼルス映画批評家協会賞にて助演男優賞も受賞したスティーヴン・ユァン。その他、彼の妻モニカ役に『人狼』『海にかかる霧』『最悪な一日Worst Woman(原題)』のハン・イェリ。モニカの母親スンジャ役は、韓国映画・ドラマ好きなら1度は目にしたことがあるであろうベテラン女優ユン・ヨジョンが演じている。 そして、監督はハリウッド実写版『君の名は。』の監督に抜擢され、自身も韓国系アメリカ人であるリー・アイザック・チョンがメガフォンを取った。 全米各地の映画賞ですでに8つの助演女優賞を受賞 映画『ミナリ』は、昨年の1月第36回サンダンス映画祭でプレミア上映され、審査員と観客賞をW受賞したことを皮切りに、すでに各国の映画祭にて上映され喝采を浴びている。今年のアカデミー賞に最も近い作品であると、すでに関係者の間では噂がもちきりだ。 作品賞はもちろんだが、主人公の義母を演じたユン・ヨジョンは、第46回LA批評家協会賞をはじめ、ボストン批評家協会賞、ノースカロライナ批評家協会賞、オクラホマ批評家協会賞、コロンバス批評家協会賞、Greater Westernニューヨーク批評家協会賞、アメリカ女性映画記者協会、サンセット・フィルム・サークル・アワードで「最優秀助演賞」を軒並み制し、こちらもアカデミー賞ノミネートが期待されている。 そして、昨年12月22日、ゴールデングローブ賞2021のノミネート作品が発表された。ゴールグローブといえば、米アカデミー賞の前哨戦として有名だ。もちろん、この映画『ミナリ』は、満場一致で作品賞候補作としてエントリーされると誰もが思っていた。しかし、作品賞の候補から落とされてしまった。なんとセリフの半分以上が韓国語だからという。 ゴールデングローブ賞の主催者側は、劇中の台詞の50%以上が英語以外の言語である場合「外国語映画賞」にカテゴリーされると主張している。おととし、中国系移民一家を描き、こちらも各国で絶賛を浴びた映画『フェアウェル』も、この基準によって作品賞ノミネートから外された。 『ミナリ』が外国語映画とされたニュースが報道されるや否や、アメリカでは「これは差別である」という批判の声が上がり始めた。 ===== ブラッド・ピットの映画会社が制作しても「外国映画」? そもそも『ミナリ』は、ブラット・ピットの映画会社として有名な「プランB」が制作を務めている。そして配給会社は、エッジの効いた素晴らしい作品を次々と生み出し、会社自体のファンも多い「A24」だ。どちらもアメリカの会社である。また、監督であるリー・アイザック・チョンも、主人公のスティーヴン・ユァンも、韓国系のアメリカ人だ。 映画『フェアウェル』で同じような門前払いという苦い経験をしたルル・ワン監督は、今回『ミナリ』が外国語映画賞にノミネートされたことを受けて、自身のツイッターで「今年、この作品以上にアメリカ的な映画は無かった」と投稿。「我われは、アメリカ人は英語のみ使うという古臭い規則を変えるべきだ」と抗議した。 続いてデビット・リンチ監督も自身のツイッターにて「『ミナリ』は私が今年見た中で最高の物語だった。それが例えどの言語だったとしても。」とコメントしている。 タランティーノの映画はOKだった また、ドラマ『glee/グリー』のマイク・チャン役で有名な香港系アメリカ人俳優ハリー・シャム・ジュニアは、クエンティン・タランティーノ監督の戦争映画『イングロリアス・バスターズ』は70%近くが外国語だったにもかかわらず、作品賞にノミネートされたことを例に異議を唱えている。 同じく、雑誌VANITY FAIRの編集者であり、映画/ドラマの編集者であるフランクリン・レオナルドも「映画『イングロリアス・バスターズ』の例を忘れてはいけない」と、ゴールデングローブを批判した。 今回の例は「映画の国籍とは一体何なのだろう」という問題を改めて考えさせられる騒動だ。この『ミナリ』は、正確に分類するならば、制作も監督も主演もアメリカ人なのだから、ある意味ハリウッドが手掛けた「韓国語の飛び交うアメリカ」の映画というカテゴリーが正しい。 しかし、アメリカ人の観客から見ると舞台はアメリカとはいえ、韓国語のセリフ部分は字幕が付いているので、韓国映画に見えるだろう。映画好きでない限り、わざわざ監督や主演俳優の国籍まで調べたりしないのだから。 アカデミー賞は多様化目指す 今後、このような騒動はますます増えていくと思われる。今や数カ国共同の合作映画など珍しくない。有能な監督をはじめ映画スタッフは自国だけでなく、世界を股にかけて活躍している。俳優たちも同じく、実力が認められればどの国でも起用される時代だ。こうなると、もう国でカテゴリーすること自体滑稽な気がしてくる。 アカデミー賞は2024年から多様性を重視したスタッフ構成、キャスト採用ではない映画には、「最優秀作品賞」を取る資格を与えないとしている。この規定が良いか悪いかは別として、今後ますます多様な人種と国籍の人々が、映画作品のために一つのチームとなる機会が増えていく。 ネットフリックスやアマゾン・プライムなどの動画配信サービスによる世界規模での新作発表も一般化し、映画は各国の作品に触れやすくなった。新しい才能同士が国を越えて映画制作する事例はすでに多くの国で行われている。これからは、映画に制作国や国籍をカテゴリー化し決めつけること自体、古い考えになっていくことだろう。 ===== アメリカでアメリカンドリームを追う物語がアメリカ映画じゃない? アメリカメディアもゴールデングローブ賞の決定に疑問を呈した。 Good Morning America / YouTube 8つも助演女優賞を受賞したベテラン女優ユン・ヨジョン 映画やドラマでお馴染みのベテラン女優ユン・ヨジョン。ここ数年はリアリティバラエティーにも挑戦している。 tvN / YouTube