<米テロ専門家がバイデンの大統領就任式とその周辺の危険を予測> アメリカ現代史上最も深刻な政治危機のなか、ジョー・バイデン次期大統領の就任式が1月20日に行われようとしている。ドナルド・トランプ大統領の忠実な支持者たちが、権力の移行を妨害しようと式典を狙ってくるのではないか、という警戒感が強まっている。だが専門家らは本誌に対し、ターゲットは必ずしも就任式とは限らないと警告する。 「警備の手薄な施設や人の多い場所、重要なインフラは、国内のテロリストや政府を困らせたい人々にとって以前から魅力的なターゲットだ」と、国土安全保障省でインフラ防護担当次官補を務めていたブライアン・ハレルは本誌に語った。 大統領選におけるバイデン勝利認定を阻止しようとしたトランプ支持者が連邦議会議事堂を襲撃し、5人が死亡、数人が負傷したのは1月6日のことだった。暴力と騒乱が収まったのちに、議会ではなんとか投票集計を終えることができた。だが今、バイデンがアメリカ大統領に就任するための式典に関連して、さらなる騒動発生の危険もささやかれている。 就任式が近づくにつれて、国内テロ対策を専門とする機関に勤めていた当局者らは、注意が必要だと警告している。「平和的な権力の移行は祝うべきだが、懸念が高まっているこの時期には、警戒が欠かせない」と、ハレルは語った。 次回の準備はしているが 法執行機関は、暴徒の議事堂への乱入を許した今回の失敗から学んだはずだ、と指摘するハレルは、トランプの任命により、サイバーセキュリティ・インフラストラクチャー・セキュリティ庁(CISA)の新設ポストについていたが、2年後の昨年8月に辞任した。 「1月6日に起きた重大な警備上の失敗にかんがみて、法執行機関も次の過激派やトラブルメーカーの襲撃に対処する心構えはできているだろう」と、ハレルは言う。「就任イベントの周辺で暴力行為を最小限に抑えるために何重もの警備や、ターゲットの隔離、増派チームの配備が予定されている」 だがこれらの措置が実施されても、流血の惨事が予想される、と彼は言う。「街頭での暴動は十分にありうる。最大の懸念は、武器が使われること、安全を確保した防御線の外での集団暴力、重要なインフラ(変電所など)が攻撃対象になることだ。だが国土安全保障省(DHS)が指定した国家特別安全保障イベント(NSSE)として、式典中は公園管理事務所、シークレットサービス、国土安全保障省、および連邦議事堂警察が、安全を確実にするためにかなり大きな存在感を示すことになる」 国土安全保障省は当初、1月19日から21日を国家特別安全保障イベント(NSSE)に指定し、シークレットサービスに安全対策を任せた。その後、ワシントン市長ミュリエル・バウザーからの公的な要請によって、期間の開始を1月13日に前倒しすることになった。 ===== NSSEの延長、災害前の緊急宣言発令、毎日の情報ブリーフィングなど、さらに厳しい措置を求めている公職者はバウザーだけではない。 国土安全保障省は、同省のチャド・ウルフ長官代行が11日に発表した声明に言及し、「この1週間の出来事と、就任に至るまでの安全保障情勢とシークレットサービスのジェームズ・マレー長官の勧告に照らして」NSSEを拡大したと本誌に語った。 「連邦、州、地元当局は引き続き連携して、この重要な式典のためにそれぞれの計画と配備要員を調整し続ける」と、ウルフは語った。 だが声明の発表後まもなく、ウルフは辞任を発表した。実は最近、ウルフの長官代行ポストへの就任が合法的ではないとの判断をカリフォルニア州の裁判所が示していた。 「権力の移行のこの重要な時期に、本省の重要な仕事にあてられるべき注意力とエネルギーが徐々に奪われている」と、ウルフは文書で声明を発表した。 ウルフの後任に予定されているのは、連邦緊急事態管理局(FEMA)のピーター・ゲイナー長官だ。ゲイナーは米海軍に26年間所属、イラクでの戦闘作戦を調整し、中佐の階級で引退した。 トランプ政権の4年間の間に長官(または長官代行)の地位を引き継ぐのはゲイナーで6人目となる。 難しい白人テロの防止 司法省に属するFBIに関していえば、2005年のハリケーンをきっかけにカトリーナ合同タスクフォースの司令官を務め、ワシントン統幕事務局にも属していたラッセル・オノレ退役陸軍中尉は、極右の白人至上主義者の脅威の増大をあえて知らないふりをしてきたせいで、連邦当局が十分に機能できない状態に陥ったことを懸念している。 「白人テロリストの監視となると、FBIは、ほぼ何もできない。彼らはテロリストと宣言されていないからだ」と、オノレは本誌に語った。「彼らはFBIが尊重しなければならないアメリカ市民であり、悪いことをしない限り、そうしたグループを日常的に監視することはない」 議事堂襲撃が可能だったのは、群衆が立法の象徴である建物に押し入ることに議事堂警察の幹部が「加担」していたからだ、とオノレは主張する。 オノレが就任式で懸念する事項のなかには、パイプ爆弾と単独犯による狙撃がある。だが特に確信しているのは、地下鉄や発電所など、セキュリティゾーン外の重要なインフラポイントの脆弱性だ。議事堂に侵入するほど厚かましい連中なら、「どんなものでも追い求めかねない」と、オノレは言う。 ===== 暴力に関しては、ハレルと同様にトラブルを予想しており、法執行機関は準備をしなければならないと語った。 「あなたが警察署長か、FBIか、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)か、陸軍の一員だとしたら、暴力の発生を予測しなければならない」と、オノレは言った。「誰かが『連中が何か悪いことをするかもしれない』と言って注意喚起するのを待っていてはいけない。そのために給料をもらっているのだから」 CNNは11日、ワシントンと同様に50州の議事堂で武装抗議活動が計画されているというFBIの情報を報じた。この報告は、バイデン、マイク・ペンス副大統領、ナンシー・ペロシ下院議長に対する脅威の可能性を指摘した。 主要なソーシャルメディアプラットフォームに投稿できなくなって以来、トランプは沈黙しているが、武装した民兵組織や頑固な親トランプ活動家は、国が政権移行を進めるプロセスの最中に、安全を脅かす大きな問題を作り続けている。 「今、アメリカには政府を打倒するためなら何でもやろうとする人々がいる」と、オノレは本誌に語った。 かつてトランプは望ましくないと考える移民の出身国を「肥溜め」よばわりし、非難されたことがある(「なんで肥溜めのような国からくる人々を受け入れるのか」)。オノレはその言葉を借りて、アメリカが今後9日間、あるいはもっと長期にわたって直面する深刻な状況を皮肉った。 「私は外国のことなんか言えない。自分たちがたいへんな状況にあるのだから。われわれは肥溜めみたいな国にいるんだ」