<コロナ感染が100万人に迫る国は、PCR検査を受けなくても陰性証明が手に入る!?> インドネシアの首都ジャカルタの玄関口であるスカルノハッタ国際空港(バンテン州タンゲラン)の空港警察は1月15日に、PCR検査などの検査結果に基づくコロナウイルスの「陰性証明書」を偽造して必要とする旅客に販売していたとして15人を逮捕したことを明らかにした。 逮捕者の中には同空港の空港関係者や検疫所関係者なども含まれており、大掛かりな組織的犯行とみて余罪やさらなる容疑者の捜査を続けている。これまでに判明しただけでも2020年10月以降、約200人の乗客に対して「偽の陰性証明書」を作成、販売していたという。 インドネシアではコロナウイルスの感染拡大防止策の一環として、国際線利用による入国者に加えて国内線で都市間を移動する乗客に対してもコロナウイルスに関するPCR検査や抗原検査の受診を義務化。「陰性証明書」を事前に取得して、航空機搭乗に際して提示することが求められている。 しかし航空機搭乗予定の乗客の中には「陰性証明書」の取得や空港への所持を忘れたり、あるいは検査の結果「陽性」になってしまった乗客がおり「偽の陰性証明書」の「顧客」になっていたという。 ジャカルタ首都圏警察報道官は、犯行グループはスカルノハッタ国際空港の主に国内線出発ロビーを中心に口コミやSNSを通じて希望者を集めて、正規の検査を一切受診させずに「偽の陰性証明書」を作成して渡していた疑いがもたれている、と明らかにした。 役割分担した組織的犯行 警察の発表によるとこれまでに逮捕した15人は21歳から54歳で、リーダー格の男性(52)は同空港の元警備担当者という。 リーダーなどが国内線出発ロビー付近で航空機への搭乗を予定しているとみられる乗客に近づいては密かに「検査なしでの陰性証明書を発行できるが必要か」と聞いて回っては顧客を探していたという。 希望者がいた場合は別の男たちが希望者の個人情報を聴取。複数の医療機関の名前を使った「偽の陰性証明書」を空港職員と検疫所関係者が作成していた。 偽造書類作成は空港検疫所のボランティアが協力して検疫施設内の場所を提供し、そこで作成作業を行っていたという。 さらに検疫所関係者らが完成した「偽の陰性証明書」を希望者の手元に届ける役割を担っていたとみている。 乗客は「偽証明書」1通について100万ルピア(約7400円)を支払っていたとされ、2020年10月以降に約200人を対象にして「商売」を行っていたという。 ===== 情報提供から内偵、本格捜査へ 地元紙などの報道によると2020年12月ごろに「偽の陰性証明書」が出回っているとの情報が警察に寄せられ、内偵捜査が続いていた。昨年12月以降だけで28通の「偽の陰性証明書」が確認され、本格的な捜査を始めた結果、今回の一斉摘発となった。 警察ではまだ空港や検疫所など内部の関係者が事件に関与している可能性が高いとみて追加捜査を続けている。 逮捕された15人には検疫法違反と感染予防法違反の容疑がもたれており、起訴されて有罪となれば最高で禁固6年の刑が科される可能性があるという。 1月にはジャカルタ市内で別の「偽の陰性証明書」シンジケートも摘発されており、警察では背後には大きな「偽造組織」が複数存在している可能性もあるとみて、捜査を強化している。 ワクチン接種も始まる インドネシアではコロナ感染が依然として猛威を振るっており、感染者は100万人に近づく勢いで、死者も2万6000人を超え、その勢いは衰える気配をみせていない。 1月13日にはジョコ・ウィドド大統領自らが中国製ワクチン接種の第1号となり、接種の模様をテレビで生中継。「ワクチンの安全性アピールとワクチン接種推進」を国民に訴えた。 その後閣僚や政財界、宗教界そして医療関係者へのワクチン接種が始まり、ワクチン接種によるコロナ対策もようやく本格化しようとしている。 その一方で今回のような「偽の陰性証明書」の摘発は、コロナ禍を商売にしようとする悪質な犯罪といえる。だが、いまだに多数派イスラム教徒の間には「コロナ感染は神の思し召し」「信仰心が篤ければ感染しない」と信じてマスク着用、手洗い励行、3密回避などの保健衛生上のルールを無視する人々が存在するのも事実。まさにインドネシアの混沌とした多様性の一面といえるかもしれない。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== 偽のコロナ陰性証明書作りの押収品 偽の陰性証明書といえ、発行は正規の検疫所内で作成されていた。 KOMPASTV / YouTube