<「中国のハワイ」となって米西海岸への攻撃に利用されるか、「海洋版イスラエル」として中国に対する防波堤になるかはアメリカ次第> 台湾はアメリカにとって、尊敬と支援に値する「海洋版のイスラエル」になるだろう、と台湾有数の国防アナリストは本誌に語った。 台湾は、かつては理論上のものでしかなかった「中国の脅威」の最前線で、数十年にわたって存在してきた。だがその脅威は今、かなり現実のものとなり、アメリカの政界エリートたちも「目覚めた」、と国家安全保障の専門家である台北の国防安全研究院(INDSR)の蘇紫雲(資源と産業研究所所長)は述べた。INDSRは。蔡英文(ツァイ・インウェン)総裁の台湾政府からの資金援助を受けて設立された台湾初の防衛シンクタンクだ。 米政界ではジョー・バイデンをはじめとする中国通の政治家たちが、1990年代にはすでに中国共産党の拡張主義的野望を警戒していた、と蘇は指摘する。当時は、1989年の天安門事件のような事件にもかかわらず、アメリカとその同盟国は、中国との将来の関係を理想化し続け、中国が経済成長とともに自由主義的な国家に進化することを望み、そうなると予想さえしていた。 12日に公表されたトランプ政権のインド太平洋戦略に関する内部文書は、「平和的な中国」という西側の夢がついに打ち砕かれたことを確認するものだった、と蘇は言い、香港の民主化運動の崩壊は「最後の一撃」となる可能性が高いと付け加えた。 中国とは正反対の存在 「オバマ政権の後半から始まった中国の南シナ海への拡張政策、そして最近の香港問題と新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、すべてが中国政権に対する不信感を生み出している」と、蘇は言った。「20年前の中国の脅威理論が今や現実となった」 蘇の分析によると、アメリカの政策決定と学界における「目覚め」は、中国が今後数十年にわたって自国および世界の安全保障上の利益を脅かす戦略的脅威であるというアメリカ政府のコンセンサスを促進するうえで役に立った。 このトレンドのなかで、台湾は中国とは正反対の、西側と共通の価値観を抱く存在であるがゆえに「尊敬と支援」に値する国として浮上している、と彼は付け加えた。 台湾政府は米議会において超党派の支持を得ており、歴代のアメリカ政府は台湾の地政学的重要性を理解している、と 蘇は言った。しかし、国際世論の圧倒的な支持を獲得するという最後のハードルは残っている。 「台湾が中国の一部になれば、台湾は中国にとってのハワイのような軍事拠点となる。中国海軍はフィリピン海に簡単にアクセスできるようになる」と、蘇は説明した。「中国の原子力潜水艦は南シナ海からアメリカ西海岸を攻撃することはできない。西海岸を直接攻撃するためには、台湾から東の海域へのアクセスが必要だ」 ===== 米台関係で重要なもう一つの存在は、世界有数の半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)だ。同社の顧客は、ハイテク企業のアップルとクアルコムだけではない。米空軍のF-35戦闘機や中国のエレクトロニクス大手ファーウェイにも半導体を供給している。 TSMCの動向でアメリカと中国の主導権争いに一定の結果が出る、と蘇は予測する。結局、TSMCは、相互に依存する「戦略的三角形」を作るために、アメリカ、日本と協調するだろう。 同社がファーウェイにマイクロチップを供給し続けることはありえるが、台湾製品が主流になれば、国防総省が警戒する情報漏洩の「バックドア」となりかねない中国製の軍民両用技術を警戒する必要はなくなるだろう。 自衛力を高めることで、台湾は中国の無謀な軍事・外交政策を抑止し、インド太平洋地域の安全保障やアメリカの安全保障に貢献している、と蘇は語った。彼はかつて、台湾の国家安全保障会議および国防省の顧問も務めていた。 「アメリカは台湾が独立国家であると公然と認めることはできないが、台湾をひとつのものとして扱う。台湾はこれをてこに利用して、防衛能力を強化できる」と蘇は主張する。「それによってアメリカ、オーストラリア、日本の台湾に対する信頼が高まる。台湾は、海のイスラエルになることができる」 台湾防衛の意思が明確に 「台湾は今、国際世論を勝ち取らなくてはならない。イスラエルのように、台湾は尊敬と支援に値する存在になれるだろう。台湾は自由で民主的な社会であるがゆえに尊敬に値する。そして自らを守ることができる台湾は、支援に値する」 イスラエルのパレスチナとの紛争とは異なり、台湾の中国に対する抵抗は、大規模な人権侵害のそしりを受けるようなものではなく、台湾政府に対する支持に正統性を与えるはずだ、と蘇は主張した。「台湾は人権を守ることを望んでいる。他者の権利を侵害するつもりはない」 中国と台湾を隔てる台湾海峡は、最も狭いところで幅約130キロある。 「残念ながら、台湾は中国に近いが、幸いなことに台湾海峡は十分に広い。台湾への侵攻には、大規模な陸と海からの攻撃が必要になるだろう」と蘇は言う。 12日に機密解除されたインド太平洋戦略に関するホワイトハウスの内部文書は、中国による攻撃が発生した場合に台湾を守るというアメリカの意思をきわめて明確に示した。これによって、数十年にわたる難問だったアメリカ政府の中台関係に関する外交政策の「戦略的曖昧さ」が解決されたといっていい。 ===== 蔡が総統に就任した2016年以来、台湾政府は海峡の向こうにある中国人民共和国の政府と正式な交流を行っていない。台湾政府は、対話を受け入れると言いつつも、協議の前提条件として中国政府が主張する「一つの中国」の原則とそれを含むすべての要素を拒否している。 中国政府は中台関係の行き詰まりは、蔡総統と与党民主進歩党のせいだと非難しているが、台湾は責任感のある姿勢を貫いており、しかも重要なことに、挑発的ではない、と蘇は指摘した。 同時に、台北のトップ外交官らは、広報文化活動を含む外交的関わりを通じて、中国の侵略から身を守ろうとする台湾の意志を強調しながら、カナダからインドまで、さまざまな国と友好関係を結んだ。蘇によれば、これこそが蔡政権が取るべき正しい方向性だ。 INDSRの防衛アナリストは、台湾海峡で軍事行動を増加させた中国のやり方は、増大する中国の脅威をますます印象づける結果になったという。中国が警戒されるようになったのは「自業自得」だというのだ。 中国政府は、アメリカのバイデン次期大統領と外交チームは、トランプ政権より予測可能で、より協調的な米中関係に回帰する可能性が強いと分析してきた。 ===== バイデン次期政権の外交チーム──次期国務長官アンソニー・ブリンケン元国務副長官や次期国家安全保障担当補佐官に就任予定のジェイク・サリバン元副大統領補佐官(国家安全保障担当)、そして新ポストのインド太平洋調整官に指名されたカート・キャンベル元国務次官補らは、中国の台頭と脅威を坐視するわけがないと蘇は言う。 気候変動と核不拡散では中国と協力し、安全保障と人権保護では中国と対抗する「柔軟な封じ込め」戦略がバイデン政権の特色になるという。 台湾の旧友でもあるキャンベルは「アジアの先生」で、「中国の海軍増強には数十年前から懸念を示していた。彼の懸念は現実になった」と、蘇は言う。 「キャンベルが、中国と西側との橋渡し役を務めてくれるという中国政府の期待は裏切られるだろう」