<バイデンは「団結」を訴え、トランプ後のアメリカが始まった。だが「トランプ主義」はまだ死んでおらず、共和党自体も今後はイデオロギー的な再生を迫られるのではないか> (※本誌「バイデン 2つの選択」特集より) 政治に新たなユニティ(結束、団結)の風を吹かせる。ジョー・バイデンはそう誓って、1月20日に晴れて第46代アメリカ合衆国大統領となった。その場が大勢の州兵や警官に守られていたのは、前任者ドナルド・トランプの残した混乱と怒りの傷が深く、新大統領の歩むべき道が険しいことの証左だ。 長年の盟友たち(上院共和党を仕切るミッチ・マコネル院内総務を含む)にも見放されたトランプは、就任式の始まる数時間前に寂しく首都ワシントンを去った。新大統領の就任式に前任者が出席しないのは、実に152年ぶりのことだった。 少しでもいいからユニティを取り戻そう。バイデンはそう訴えた。この4年間で、それがいかに「民主主義の下でも失われやすいものであるか」を思い知らされたからだ。 新型コロナウイルスのせいで、就任式の会場に歓喜する国民の姿はなく、代わりに無数の星条旗が揺れていた。バイデンは言った。 「赤い州と青い州を争わせるような野蛮な戦争は終わらせよう。......みんなで出直し、互いの声にもう一度耳を傾けよう。......政治が、全てを焼き尽くす山火事であってはならない」 バイデンは史上最高齢の78歳で大統領となった。ほぼ半世紀にわたる彼の政治生活は、今まさに集大成の時期を迎えた。過去2回の大統領選では惨敗を喫し、3度目の挑戦でようやくその座を射止めた。 トランプの「遺産」を全否定 しかもバイデンには、議会で長年にわたり共和党と協力してきた実績がある。上院の外交委員会と司法委員会を率いていた時期の手腕は高く評価されている。 バラク・オバマ政権を副大統領として支えた8年間では、米軍のイラク撤退などで主導的な役割を果たし、米史上屈指の影響力を持つ副大統領と評された。 最初の100日間でトランプ時代の政策の多くを覆すと、バイデンは宣言した。 最も緊急を要するのは新型コロナウイルス対策だが、就任初日には大統領令で地球温暖化対策の国際合意であるパリ協定への復帰や国境の壁の建設中止を命じ、主としてイスラム圏を対象とした入国制限も撤廃した。 不法移民対策では、8年間での市民権取得への道筋を示す法案を議会に送付。トランプが表明したWHO(世界保健機関)からの脱退も撤回した。 いずれも前向きな動きだが、まだ「トランプ主義」は死んでいない。 先の選挙でトランプに投票した有権者は7400万人、1月6日の連邦議会の承認手続きでもバイデンの勝利を認めなかった共和党議員は上下両院合わせて147人いて、大統領として最後の演説でトランプが言った「米史上で最も偉大な政治運動」なるものの継続に懸けている。現に共和党支持の有権者の過半数は、今も選挙は違法だったと考えている。 ===== 2度目の弾劾裁判の行方 だがアメリカの立憲政治のシステムは、怒りと分断の4年間に耐えて生き残った。ピュー・リサーチセンターの調べでは、トランプの退任時の支持率は史上最低の29%だった。そして国民の過半数が、最後には法の支配に従った。 一貫してトランプを擁護してきたマコネルでさえ、あの連邦議会議事堂襲撃には「大統領による扇動」があったと非難。また、暴動に参加した右翼の扇動家100人以上が逮捕され、数万人がSNSのアカウントを凍結された。 トランプが去ったことで、共和党内の過激派は大きな「旗印」を失った。もしも2度目の弾劾裁判で有罪となれば、トランプが国政に復帰する道はほぼ閉ざされる。 そうでなくとも、ニューヨーク州検事局などの司法機関が実業家時代のトランプに対する刑事捜査を進めているから、これから何年かは訴訟対応に振り回されることになるだろう。 そして共和党自体も、今後はイデオロギー的な再生を迫られるのではないか。なにしろ宿敵・民主党は(少なくとも今のところ)驚くほど結束を固めている。 民主党が雇用の維持・回復といった問題で(コロナ危機への対応もあって)左傾化を強めているのは事実だが、バイデンが政権の主要ポストに指名した人物はほぼ全員が経験豊富なプロであり、イデオロギーで動くタイプではない。 新政権の増税案や公的支出の野放図な拡大に共和党が抵抗するのは間違いないにせよ、老朽化したインフラの再建といった問題では超党派の合意ができる余地がある。 最大の問題は、「政党」としての共和党がトランプと完全に縁を切れるかどうかだ。遠からず始まる2度目の弾劾裁判で、上院共和党はどう出るのか。 1年前に行われた1度目の弾劾裁判では、共和党上院議員は団結して「無罪」に票を入れた。 しかし今回、マコネルは同僚の議員たちに、自身の良心に基づいて投票するよう促している。そして自分が「有罪」票を投じる可能性も示唆している。 トランプに有罪を宣告すれば、共和党はトランプ以前の姿を取り戻せるかもしれない。しかし熱烈なトランプ主義者との仁義なき戦争が始まる恐れもある。ちなみにトランプ自身は、新たな「愛国者党」の立ち上げも示唆している。 そうは言っても、トランプ自身が熱烈な支持者から見限られた兆候もある。直近の報道によれば、あの議事堂襲撃でも主導的な役割を果たした極右集団「プラウド・ボーイズ」はSNSへの投稿で、トランプを「どうしようもない負け犬」とこき下ろしたらしい。 これでトランプも終わり、とは言うまい。だが「トランプ後のアメリカ」が始まったのは確かだ。 From Foreign Policy Magazine <2021年2月2日号「バイデン 2つの選択」特集より>