<クーデターを起こした軍司令官は、1月に中国の外相と会談を行っていた。安保理での制裁を免れるために、クーデター実行前に中国の支持を取り付けていた可能性もある> 2月1日にミャンマーの全権力を掌握した国軍は1月末からクーデターの可能性をほのめかしていたが、それは海外の観測筋にとってまったく予想外のことだった。 国軍総司令官のミンアウンフライン将軍を行動にかりたてたのは、昨年11月8日の総選挙におけるアウンサンスーチー率いる国民民主連盟の圧倒的勝利だったのかもしれない。それによって勢いづいた国内の民主化勢力が、国軍という組織から権力の一部を剥奪するのではないかという切迫した不安のせいなのか、それとも他の最近の出来事がきっかけになったのか、理由はまだ明らかになっていない。 今回のクーデターは、2020年11月の総選挙の不正を口実にしており、アメリカの大統領選挙におけるドナルド・トランプ陣営の主張と不気味に似ているばかりか、メリットに欠ける点も同じだ。 しかし今回最も重要だったのは、中国の動きだったかもしれない。1月に行われた中国の王毅(ワン・イー)外相とミンアウンフラインの会談がクーデターを決定する上で極めて重要な契機となった可能性があるからだ。中国とアメリカのこの危機に対する出方は、両国の関係の重要な節目になりそうだ。 中国は誰の味方か ミャンマー国軍は昨年11月以来、総選挙の不正を訴えてきた。だが軍幹部は、西側が主導する国連安保理の制裁や非難決議を、中国が盾となって防いでくれるという確信がないかぎり、行動を起こすことをためらったはずだ。隣国中国との経済的関係を拡大できれば制裁を相殺できるとの思いもあったかもしれない。その会談で話し合われた何かによって、軍幹部は、中国にはミャンマーの味方になる用意があると信じたようだ。 だが不思議なことに、中国政府はこれまで、ミャンマーの軍事政権よりもアウンサンスーチー率いる文民政府との距離を縮めてきていた。それは多分に国軍のせいだった。国軍は外国に依存することを極度に嫌い、国際的に孤立するほうを選んできた。社会主義国家として思想を同じくしていた中国のような国に対してさえ、態度は同じだった。 軍部が民主主義に適応するのに10年もがかり、中国が援助する総工費36億ドルのミッソン・ダムのような大型プロジェクトを停止したのは、中国に依存することへの恐れが原因だった。 だから、おそらくフラインが両国間の経済的関係を継続し、深化させると約束したことで、中国側がクーデター計画を止めることを躊躇したのだろう。中国が進めるダムの建設プロジェクトが、移転に対する地元住民の反発を無視して再開されるとなれば、それはミャンマーが中国に軸足を移す大きな兆候になるはずだ。 ===== それでもおそらく中国はフラインに彼の計画を進める許可をはっきりとは伝えなかった。だがフラインはいずれにしても、中国を味方に引き入れ、助けを期待することができると考えた。 中国がアメリカを尻目にアジアでの影響力を拡大する機会を逃すことはほとんどない。だからアメリカとその同盟国がミャンマーに制裁を課そうとする場合、中国当局はそこでリーダーシップを発揮して、自国の利益のために介入するはずだと踏んだのだ。 これは、ジョー・バイデン米大統領の新しいチームにとって初の、外交力を試される大きな問題であり、ミャンマーの人々と中国政府の野望の両方を見据えて処理されなければならない。アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は正しく、適切に、軍事クーデターに対する非難を表明した。 だが中国政府はクーデターへの全面的な支持を公表していない。少なくとも公の場では、国軍と国民民主連盟の和解を支持しているようだ。 フラインがはっきりした中国の支持のないままに、クーデターに踏み切ったという可能性もある。中国政府は取るに足りない属国の国内政治の計画を支持せざるを得ない立場に追い込まれることを不快に思ったのかもしれない。 そうであれば中国は、クーデターを起こしたミャンマー国軍をアメリカと協力して打ち倒す可能性もある。最悪の場合、ミャンマーは再び完全な鎖国状態に戻るかもしれない。だが一方、大規模な市民デモが起きる可能性も高く、より民主的な憲法と文民政府を取り戻すきっかけになる可能性のほうが高いだろう。 安保理で拒否権発動するか そこには思いがけないメリットがあるかもしれない。ミャンマーにおける「一帯一路」構想の展開に伴う中国政府の商業的利益を認める代わりに、アメリカは、中国のミャンマーへの影響力を借りてロヒンギャ難民の危機を人道的に解決させることができる。 ミャンマーだけでなく、米中間にも真の共通の利益が見つかるという実に楽観的な結末だ。 最も楽観的にことが運んだ場合、このシナリオがありうる。だが中国政府がクーデターを事前にそれとなく支持していたという可能性もある。その場合、アメリカは中国に対しこの問題をしつこく追及して、クーデターを支持するのか、しないのか、手の内をさらさせるべきだ。たとえば、中国はクーデターに対する安保理の非難決議に拒否権を発動するだろうか。 もしそうなら、中国は国内だけでなく周辺国でも、民主主義に対する締め付けをさらに強化することになる。習近平政権は、中央アジアの独裁政権を支持し、香港の新興民主主義を押しつぶすだけでなく、近隣の発展途上の民主主義国を積極的に覆すつもりだ、ということになる。 ===== そうであれば、アメリカには自由世界のリーダーとしての役割を再び主張するために必要なチャンスが与えられることになる。 バイデンのチームは、この状況を慎重に研究し、このクーデターのどこに中国政府がからんでいるのかを正確に判断しなければならない。 だがいずれにせよ、バイデン政権がこの問題を手際よく扱うなら、ミャンマーの人権と民主主義のために得られるものは多い。またアメリカが世界の舞台におけるイメージを回復する貴重な機会にもなる。 From Foreign Policy Magazine