<「アメリカにとって最大の脅威はイランの核武装。その阻止に向けた最善の手段」が核合意への復帰だと、元当局者らが主張> 米安全保障・外交分野の元当局者41人が、ジョー・バイデン大統領にイラク核合意への早期復帰を求める公開書簡を連名で送った。復帰しなければ新たな戦争に道を開きかねず、アメリカにとって大きな負担が生じるという。 核合意はバイデンが副大統領を務めたオバマ政権下の2015年に結ばれたもので、バイデンはもともと復帰には前向きな姿勢だ。ただ現在は、復帰の条件でイランと折り合わず非難の応酬が続いている。 ドナルド・トランプ前米大統領が2018年に核合意から離脱して以降、イランも合意の遵守をやめてしまった。またイランは、革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官や核兵器開発を主導していた核科学者モフセン・ファクリザデの暗殺、そしてアメリカが新たに科した経済制裁に対する報復として、核開発を推し進めてきた。 バイデンは、アメリカが制裁を緩和し核合意に復帰するより先にイランが核開発を縮小すべきだと主張。だがイラン政府は、アメリカが先に制裁を緩和するよう求めている。 アメリカの保守派からは核合意復帰に反対する声がさかんに上がっているが、その背後には、イランの核開発を自国の存在に関わる受け入れがたい脅威と捉えるイスラエルや湾岸諸国の存在がある。イランが弾道ミサイルの配備を強化していることや、周辺国において代理戦争を行っていることも問題視されている。 トランプ政権のアプローチを全否定 だが今回の公開書簡によれば、核合意は深刻な紛争のきっかけになりかねないイランの核武装を防ぐ唯一の手段だという。 「われわれはイランがアメリカの安全保障に突きつけている脅威についてはっきり認識している。最も大きな脅威となるのは、イランの核兵器開発だろう。イランの核武装を防ぐことこそ、アメリカの対イラン政策の最重要目標でなければならない。そして核合意は今も、目標達成に向けた最善の道である」 トランプは核合意は抜け穴だらけだ、制裁強化によりもっと厳しい核合意を作ると息巻いたが、トランプ政権の制裁も外交的手段も軍事行動もその役には立たなかった。イランの指導部はトランプの「最大限の圧力」作戦に勝利したと気勢を上げた。 ===== 公開書簡では、トランプの戦略は「アメリカの安全保障に深刻な悪影響を与えることが証明された」とし、そのアプローチは「外交の否定であり、内容のないけんか腰の言葉への依存」だったと分析。「米軍や地域の同盟国に対する攻撃を増加させ、中東における紛争の可能性を増大させた」と断じた。 トランプはイランに対する軍事行動の拡大を繰り返しちらつかせた。ソレイマニの暗殺の後には、イラン国内の文化財に対する広範な爆撃作戦の可能性にまで触れた(戦争犯罪に該当する行為だ)。 軍事の専門家からは以前から、イランとの間で紛争が起きる可能性が指摘されていた。そんな事態になれば大きな財政負担になるとともに、アメリカ人や一般市民が相当数、犠牲になるのも避けられない。 「イランと戦争になれば本当にひどいことになるだろう。アメリカが勝利することに疑う余地はなくとも、イランとの武力紛争は受け入れがたい負担をアメリカにもたらし、最終的にアメリカの安全保障が後退する」 「われわれは早急に路線変更しなければならない。まずは核合意への復帰からだ。政策決定に携わる人々には、イランとアメリカの双方が核合意の遵守に戻るよう、素早い行動を求めたい」 保守派が力を増すイラン国内の政治状況 バイデン政権はこれまでも、核合意は弾道ミサイルや周辺国における代理戦争といった問題もカバーする「さらに長期的で強力な」交渉の土台になるとして、復帰反対派の懸念を鎮めるよう努めてきた。 一方イラン政府は繰り返し、もともとの核合意に含まれていない事項について交渉するつもりはないとの姿勢を示している。穏健派のハサン・ロウハニ大統領は、核合意に戻るには国内の反対を乗り越えなければならない。 ロウハニの任期はこの夏に終わる。次期大統領の座に就くのは保守派(たぶん革命防衛隊出身者)になる可能性が高い。また、ロウハニ政権の前には、昨年の選挙で圧勝した保守派が多数を占める国会が立ちはだかる。保守派はロウハニや主要閣僚らの落ち度があればその責任を問おうと手ぐすねを引いている。 ソレイマニ暗殺からちょうど1年を迎えた今年1月には、ザリフ外相が、アメリカに交渉を申し出たとして保守派の怒りを買い、国会で激しい非難を浴びている。