<アメリカやノルウェー、ニュージーランドでテロを起こし、ポピュリスト政治家に影響を与えて一般的な政治思想になった。極右イデオロギーはもはや特定の国の内政問題ではない。この脅威とどう闘うか> (2月16日発売の本誌「ポピュリズム2.0」特集より) ブラジルからアメリカ、ハンガリー、そしてニュージーランドに至るまで、極右思想とそれを信奉するグループは民主主義社会の深刻な脅威となっている。 アメリカのドナルド・トランプ前大統領が一定の支持を今も得ていること自体、極右の脅威が世界で拡大し続けていることの証左だ。 ニュージーランドのクライストチャーチでは2019年3月、極右の男がモスク(イスラム礼拝所)を標的に連続銃乱射事件を起こし、50人以上が死亡した。事件を受けてジャシンダ・アーダーン首相はこう述べた。 「分断とヘイトの思想や言葉は過去数十年間も間違いなく存在していた。だが、広がりの形や組織拡大の手段がこれまでとは異なる」 もし社会にできた亀裂を埋め、平等や法による統治、いかなる人も分け隔てなく受け入れる市民社会、人権尊重という目標に近づく望みがあるならば、アメリカは極右主義の広がりと闘うために他の国々や国際機関・組織と手を組むべきだ。 アメリカの中枢を襲った同時多発テロと、それに続く「グローバルな対テロ戦争」(と、アメリカの指導者たちは形容した)から20年近くを経た今、世界は新たな脅威に直面している。 2000年代から10年代にかけて、国際社会がアルカイダやIS(イスラム国)といった、特殊な解釈の「イスラム教」を信奉しテロを正当化する集団に気を取られている間に、極右主義は世界中で勢力を伸ばしていた。 ソーシャルメディアやインターネットの会議室は、離れた場所にいる人々が考えを共有し、つながる重要な手段を提供した。 ヨーロッパの多くの地域において、右翼のイデオロギーやグループは決して目新しいものではない。 だが2010年代に極右勢力が急拡大した背景には、イスラム諸国からの移民の増加やEU域内での人の移動の増加、そしてその反動としてポピュリスト政治家たちが極右思想を発信し、それが市民権を得たことがあった。 011年にノルウェーで発生した連続テロ事件の現場となったウトヤ島の対岸で犠牲者を悼む市民 JEFF J MITCHELL/GETTY IMAGES ノルウェーでは2011年7月、極右思想を信奉するアンネシュ・ブレイビクがオスロなどで連続テロ事件を起こし、77人が死亡した。ブレイビクは犯行声明の中で、イスラム教徒の支配と多元文化主義からヨーロッパを守る必要があると主張した。 この事件を受けてノルウェーは法改正を行い、テロリスト犯罪の成立要件を変更。また、個人の国境を越えた活動を他の国々で監視できるよう、犯罪捜査で得られた指紋情報をアメリカやEUと共有することに同意した。 2016年にはヘイトスピーチ撲滅に向けた国を挙げてのキャンペーンが始まった。社会ぐるみでの取り組みにより極右主義やヘイトスピーチの脅威と闘うという、ノルウェーにとって重要な価値観の定着に一般市民も積極的に関わることとなった。 ===== 問題の根と迅速に向き合う アメリカでは2015年6月、サウスカロライナ州の教会が襲撃され、9人の黒人が射殺される事件が起きた。 犯人はブレイビクと同じように、他の民族集団から白人を守る必要があると考えていた。彼はまた、白人が「迫害」されている現状に抗する手段として白人の「偉大な過去」にこだわる極右思想を信奉していた。 ノルウェーと違ってアメリカでは、国を挙げての対応は行われなかった。それでも地域で進められた対話促進や新たな対策は、連邦レベルの対策のヒントになるものだ。 サウスカロライナ州では住民も人権活動家も政治家も学者も、同州の人種差別の長い歴史に向き合わざるを得なくなった。人権活動家とサウスカロライナ大学は共同で、地元のコミュニティーが人種の違いを超えた連帯と関係を築くことにより、人種差別問題や州の歴史と向き合うのを支援する組織を立ち上げた。 2019年のモスク襲撃事件の犠牲者追悼に訪れたニュージーランドのアーダーン首相(右) EDGAR SU-REUTERS 冒頭で触れた2019年のニュージーランドの事件は、極右思想がいかに世界各地で勢力を伸ばしているかを強く印象付けた。この事件の犯人もブレイビクと同様に、移民やイスラム教徒といったさまざまな脅威から、ヨーロッパ系の白人を守るという主張を展開していた。 ニュージーランド政府は迅速に極右対策に動いた。事件で使われた半自動小銃などを禁止する法改正を行うとともに、国内のイスラム教徒コミュニティーを支持する姿勢を明確に打ち出した。 またフランス政府やIT企業と協力し、国内法や業界の基準、人権に関する国際法に準拠しながら、ソーシャルメディアからテロや暴力的な過激主義のコンテンツを根絶する方策を探った。 事件は、ニュージーランドという国にとって大切な価値観や、国内の多様な社会集団をいかに扱うべきかをめぐる、国を挙げての問い掛けにもつながった。 昨年12月に発表された事件の調査報告書では、当局が極右の脅威をきちんと追えていなかったことや、イスラム教徒らが受けてきたヘイトや差別が明らかになった。報告書ではさらに、少数派のコミュニティーへの関与を強める取り組みや、テロ対策を担当する治安当局の再編といった対策が提言された。 だが、極右思想の広がりを示したのはテロ事件だけではない。2000年代を通じて、極右思想は一部の政党に広がり、政治家に影響を与えるなかで一般的な政治思想になっていった。 ===== 圧政がもたらした副次効果 ハンガリーでは移民排斥を掲げるオルバン・ビクトルが2010年に首相の座に返り咲き、大量に流入する難民、特にイスラム教徒がヨーロッパを乗っ取ると危機感をあおって、強権支配を敷いた。 オルバン政権と与党は法律を変えて官僚の生殺与奪権を握り、権威ある学術団体を事実上解体し、報道機関に圧力をかけ、「ハンガリー人の民族的な連帯」を錦の御旗にして民主主義を大きく後退させた。 これに反発して大規模な抗議デモが起きたが、政権側はハンガリー出身の投資家ジョージ・ソロスが仕組んだデモだと強弁。野党は民意を追い風に、2022年の総選挙でオルバン政権を倒そうと幅広い連合を結成している。 インドでは2014年にヒンドゥー至上主義政党「インド人民党」(BJP)を率いるナレンドラ・モディが首相に就任。モディはグジャラート州首相時代の2002年にヒンドゥー至上主義者によるイスラム教徒襲撃を黙認ないしは後押しした疑いを持たれ、米政府に入国を拒否された人物だ。 中央政府の首相になった今は国際社会に受け入れられているものの、BJP内の最も極端なヒンドゥー至上主義者たちと親和性を持ち、イスラム教徒を排斥してインドをヒンドゥー教の国に変えようとしている。 例えばBJPが牛耳る議会は2019年、市民権法の改正案を可決。これにより周辺国で宗教的な迫害を受けてインドに逃れた難民に市民権が付与されることになったが、イスラム教徒だけはこの規定から除外されている。 こうしたなか、モディ政権のプロパガンダに対抗する動きも起きている。ニュースサイト「オルトニュース」もその1つ。政治家のコメントや新聞記事などのファクトチェックを行い、誤誘導やデマがあれば市民に知らせている。 ブラジルでは極右のポピュリスト、ジャイル・ボルソナロが過去の輝かしいブラジルを復活させると誓って2018年の大統領選に勝利。2019年初めに就任するや国営企業の民営化、先住民保護区の開発推進、治安対策の強化、政治活動の規制といった政策を次々に打ち出す一方、ソーシャルメディアを活用して支持を広げた。 「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナロはトランプ支持を公言し、2020年の米大統領選ではトランプの再選を望むとエールを送りもした。 皮肉にも、ブラジルの民主主義を骨抜きにするボルソナロの圧政や暴言は思わぬ副次効果をもたらした。社会の片隅に追いやられていた人々が政治に関心を持つようになったのだ。黒人女性が人権擁護や差別撤廃を掲げて次々に選挙に出馬している。 ===== 若年層への支援強化が急務 こうした状況が物語るのは、もはや極右の台頭は特定の国々の内政問題ではない、ということ。グローバルな問題であり、拡大しつつある脅威であると認識すべきだ。 アメリカと国際社会が結束して即座にこの脅威に立ち向かわなければ、その広がりを断つチャンスは失われてしまう。 この10年ほど国や地方自治体、あるいはジャーナリストや普通の人々が極右のプロパガンダやヘイトスピーチと闘ってきた。そうした試みは国際的な取り組みでも参考になる。 米連邦議会議事堂への暴徒の突入を「反乱」と呼んだジョー・バイデン大統領は極右過激派との闘いで国際社会の先頭に立てるはずだ。テロ対策の国際的な枠組み「グローバル・テロ対策フォーラム」の対象を広げて、極右過激派とそれに準じる動きを含めることはその一歩となる。 アメリカも含め多くの国には人種、民族、宗教などで一部の人々が差別・抑圧されてきた歴史がある。その歴史と向き合うため、極右との闘いは避けては通れない。 鍵を握るのは、憎悪をあおるデマや陰謀論など偽情報への対処だ。 インターネットでは検索履歴を基にユーザーの興味に合わせたコンテンツが優先的に表示されるため、偏った考えが増強されがちだ。過激な組織や個人の主張に人々が容易に感化される危険性もあり、極右や全体主義のレトリックが国境を越えてあっという間に広がる怖さが付きまとう。 バイデンは選挙戦中に、民主主義国の首脳を集めたサミットの開催を提案していた。ぜひ実現させてほしいが、偽情報対策を盛り込まなければ、そうした会議も有名無実になる。 先進国は高齢化が進んでいるが、世界的に見ると若年層の人口は急増している。将来に希望が持てない若者は過激な思想に簡単に染まってしまうが、それを防ぐことが国際社会の喫緊の課題だ。 2008年の世界金融危機とコロナ禍による景気後退の2つの経済危機の間に、チリから香港まで世界中の若者たちが改革を求めて声を上げている。バイデン政権は国連と協力してこの世代への支援を強化するため、人権擁護や社会的公正の実現、民主的統治の促進といった課題に取り組む国際機関や非営利組織への支持を表明し、資金を拠出すべきだ。 極右との闘いは一筋縄ではいかないだろう。極右思想の要素を政策や主張に織り込んでいる政治家や政党は少なくない。 しかしどんなに困難でも闘い抜く価値はある。それは民主主義、平等、法の支配、人権を世界に広げる闘いなのだから。 From Foreign Policy Magazine <2021年2月23日号「ポピュリズム2.0」特集より>